8604野村証券HD:潰れる恐怖と戦っている会社

8604野村証券HD:潰れる恐怖と戦っている会社

2019年3月期決算において1004億円の最終赤字に転落した野村証券ですが、近年同社の経営は世界の金融情勢の変化に順応できない極めて不安定な状況に陥っています。

また伝統的な同社の「株屋意識」は・・・、富裕層優遇、準富裕層軽視、一般投資家無視といった姿勢は転換できておらず、信用回復への道のりは未だ遥か彼方です。

潰れる恐怖と戦っている会社

同社の永井CEOは、講談社マネー現代のインタビューで「我々は今、潰れる恐怖と戦っている」と発言し、物議をかもしています。インタビューは決算直後の4月中と言うことですが、5月22日の掲載となっています。

また同日、国内のリテールを縮小し30店舗の閉鎖を発表しました。野村のリテールと言えば対富裕層向けで、対面取引を主業務としている関係で、いままで店舗を縮小しない方針を貫いてきましたが、遂に「背に腹は換えられず」ということなのでしょう。

しかし根本的な問題は、投資銀行になるのか、コーディネート(手数料収入)主体で行くのかが曖昧な点です。もちろん大型上場、増資、M&A等のコーディネートは大きな収益源なのでしょう。確かに投資銀行は富裕層のリテール主体です。しかしこの相反する業務を相反させることなくこなしてゆくという経営方針に大きな齟齬(そご)があることは明白です。

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投資銀行転換に失敗

野村はリーマンショック後、チャンスとみるや利益を上げていなかったリーマンの欧州部門を買収し、(逆風が吹き荒れていた)投資銀行部門への進出を決定しました。しかし、この買収が野村の企業体力を奪い尽くします。

まず、高額報酬のリーマンを買収したことで社内に莫大な所得格差が生まれ、社員の不満がくすぶり始めます。リーマン社員は複数年や長期契約したいる社員が多く、巨額な格差が生まれてしまったわけです。しかし欧州部門の業績は赤字続きで慢性的なお荷物となっています。

また国内部門においても従来の営業基盤を転向することができず、「株屋ビジネス」が横行していました。その結果ネット部門は極度に軽視され、小額資金を運用する個人投資家は無視され続けました。

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乱れまくる社内意識

顧客資金横領、大麻所持、そして正式に金融庁からペナルティが予想される「東京証券取引所の市場構成見直しに関する情報漏洩」等々枚挙にいとまがない連続的な不祥事の発生は、社内意識の過度な乱れを象徴しています。

また同紙のインタビューで永井CEOは野村の業績不振の原因に言及し、「社員が言うことを聞かない」「(幹部の)センスがない」と罵倒しています。

まず同社の社内意識の乱れは、こうしたCEOの姿勢にあることは言うまでもないでしょう。TOPの存在はある意味企業の象徴です。経営よりも先にある存在意義ということを、意識出来ていませんね。

個人的なエピソード

2年前、地元支店に新卒で入社した女子社員が、猛暑のなか訪ねてきました。投信の営業だったと思いますが、丁重に断ると今度は真冬の寒さの中再訪問がありました。

少し話を聞くと、真冬に薄手のコートのまま自転車で個別訪問を繰り返していると。あまりに気の毒になって室内に案内し熱い珈琲を入れてあげました。

入社から1年間、女子社員に毎日自転車で個別訪問させるのが野村支店の方針ということに呆れ果てました。しかも朝から5時までです。

証券の新入社員は丁稚奉公と今は亡き野村出身の師匠に聞かされたことがありますが・・・。

40度の猛暑のなか、氷点下の寒さと風のなか、自転車で個別訪問するというのは、命がけです。社員でさえこういう扱いですから、小額資産の個人顧客など軽視も甚だしいだろうと思いましたね。

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史上最大の上場案件(ソフトバンク)があった前期の赤字が意味するもの

前期はソフトバンクという日本では過去最大のIPOがありました。野村は主幹事としてそのIPOをコーディネートしたわけですが、BBせずに1本値という方向性を打ち出した結果、同社株は売り出し価格(¥1,500)を下回ったままの状況が続いています。

もちろん大きな手数料収入を得た野村証券ですが、結果的のこのコーディネートは多くの投資家の信用を失いました。

この事態から分かることは、野村が企業等大口の顧客を最優先し、その結果個人投資家の信用を失うようなビジネスをやり続けているということです。

野村にとってはソフトバンクの資金調達の成功が目的であって、売りだし株を消化できれば後はどうなっても構わない、というリテールでの姿勢が信用喪失に繋がっていると言うことを意識できなければ、伝統的「株屋ビジネス」からの脱却は不可能だと思います。

顧客の資産を増やそうとしない会社

多くの個人投資家にとって野村証券は「顧客の資産を増やそうとしない証券会社」です。証券業界のリーディングカンパニーを自負するのであれば、同社だけでなくそうした日本の証券市場を変えてゆく、位の覇気が欲しいところですが、それは遠い夢のまた夢なのかもしれません。

個人的な思いもあって、最近は敢えて野村証券を弄らないようにしていますが、先週、長い取引に終止符を打ちました。

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