テーパリングによって株式市場のトレンドは変わるのか!?

テーパリングによって株式市場のトレンドは変わるのか!?

年末高へ向かって日本株が動き出した、とほとんどの評論家や市場関係者は言い放つ。11月、12月は一年で最もパフォーマンスの良好な季節だと、過去の実績をもとにして予想しているわけだが、トランプ大統領就任2年目の2018年は、FRBの利上げと米中対立の激化によって、10月のペンス(副大統領)演説をトリガーに翌年の1月までの3カ月間、ダウは$26,951から$21,712まで約$5,239の厳しい下落に見舞われたということもあった。

なので何事もなければ・・・大きな変化がなければ確かに11月、12月は株高になるのだろう。特に今年の日本市場の場合には、企業決算も政治も、そして新型コロナ感染も、すべてがプラスに働いているように見えるから、期待が高まって当然なのかもしれない。

日米の株式市場は、今夜のFRBテーパリング決定(予測)を、すでに織り込んでいると言われるから、テーパリングとなったところで、暴落するということもないのだろうけど、しかし個人的にはこのブルームバーグの記事に大いに賛同するところだ。

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AIで動く株式市場

市場を見るときに、あまりにも複雑すぎる要素を出来るだけ多く拾い上げて、株価の先行きを占う要素にしよう、予測の確率を上げよう、というのは、正直今となってはAIの仕事に見える。なので、このところ凄く感じることは、AIのプログラムと投資家感覚がかなりズレているということ。投資家としてリスクを想定しても、AIがそう見立てなければ(リスクと認識するようなアルゴリズムを持ち合わせなければ)、株価は下がらない。

そして今のAIの極めて厄介なところは、データを分析して判断するのではなく、例えばFRBの会見や企業の決算発表の中に、想定してネガティブワードがあるとすぐさま反応するという、お世辞にもまともとは言えないアルゴリズムが用いられている。いまのAIはSNSをみて騒ぎ立てる一般人の感覚と何も変わらない陳腐さがある。しかもコンピュータなので単純な計算は即座に行うわけだから、ネガティブワードがどれくらいの影響があるのかも、発表とほぼ同時に把握してしまうわけだから。

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なので、個人としてはとにかく時間を費やして、未熟ながら分析や予想にエネルギーを注いでも、AIアルゴと反対方向を選べば、手痛い火傷を負うことになる。今の株式市場はだたそれだけのことだと思うし、大口のそうした投資判断をフォローしてしまうのが個人投資家、という図式だ。

だからこそ、この時期米国市場などは簡単に史上最高値を更新しているし、日本市場など政局になったからといって馬鹿みたいに上値を追ってゆく。そうした投資行動そのものは、普通では到底理解できるものではないし、今抱えている重大なリスクを全く織り込んではいない。

AIではリスクを織り込めない!?

現在の強烈な原油高は、もうすぐリーマンショックの約4カ月前の水準に達するだろうけど、OPECやOPECプラスの産油国は、増産には断固として踏み切らないだろう。欧米の先進国は様々な圧力で増産を働きかけているだろうけど、長年搾取され続けた産油国は、またしても地球温暖化対策という先進国の身勝手な理屈で苛め抜かれた。その結果原油価格は保管コストの分マイナスになるという、前代未聞の珍事に襲われた。彼らにしてみればGDPが突然半分になるような大ショックなのだから。その時をれをフォローしなかった先進国が今度は原油やLNGが足りないからといって増産しろ、というのではあまりに虫が良すぎるというものだ。

中国経済の衰退と軍事的な拡大に関しても市場は何も織り込もうとしていない。強いて上げるなら中国恒大集団の行き詰まりをチャイナリスクとして捉えているに過ぎないだけだが、中国の経済システムがまともならば、とうの昔に中国の不動産業界は壊滅しているし、不動産がGDPの約3割以上という状況を考えれば、中国経済そのものもとんでもない事態に直面しているのは明白だ。ましてGDP世界第二位の国家の経済が危機的状況となると、世界経済はただで済むはずがないわけだが、中国がドルを持っている以上、そうしたリスクは織り込まないのだろう。

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このなかで中国は着々を世界最強の軍事国家への道をひた走っている。恐らくここ数年で中国と米国の軍事バランスは崩れてしまった。次々と最先端兵器を開発する中国は、有事になれば米国よりもはるかに優位にことを運ぶと思う。なぜなら中国は恐らく人民の犠牲を顧みることはないからだ。ところが米国は絶対にそんなことは出来ない。

未曾有の金融緩和のツケ

そしてこれから、欧米や日本は、無茶苦茶な金融緩和政策のツケを支払うタームに突入すると思う。金融当局者は、株式市場や債券市場、不動産市場がクラッシュすることがなければ「金融緩和政策は大成功だった」と言うわけだ。まるで世界経済を救った英雄のごとく驕りたっぷりの発言を繰り返して、投資家を安心させる。そして新型コロナという新たなウイルスが猛威を振るった今でも、「経済を救うために未曾有の金融緩和を実施して危機を脱した」と言うわけだ。

ところがそうした驕り高ぶった姿勢には、必ず大きな落とし穴が潜んでいる。その落とし穴と言うのは、すでに誰もがはっきりと見ることができるのだが、いつまでも見て見ぬ振りをしようとしている。そう、「世界には中銀に変わる債券の買い手など存在しない」という事実にいつまでも目を瞑り続けようとしているのだ。

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事はかなり単純で、FRBが毎月買い上げている金融資産は、800億ドルの国債と400億ドルのMBS(住宅ローン担保債券)と言うことになっていて、これはつまり現在の金融バランスはFRBが毎月13.5兆円近い資産買い入れを前提にして成り立っているわけで、これを半年間でゼロにするということになれば、テーパリングをしなかった場合に比較して13.5×6/2というわけで当てにしていた約40.5兆円の金融緩和が失われることになる。

しかしこの間にも米国の国債は増え続けるわけで、しかも今後もインフラ投資法案などでさらに増える。市場の最大の買い手が消えて国債残高は増え続けるわけで、少なくとも現状の金融バランスは先々大きく崩れることになる。その影響は様々な場面で必ず出てくるし、それは大半が金融市場にとってネガティブなファクターなのだ。

FRBテーパリングで株式市場の潮目が変わるか!?

今の好景気は、少なくとも新型コロナ後のV字回復をもたらしたものは、すべて金融当局と財政出動によってジャブジャブに供給された資金がベースになっている。リーマンショック以降すでに10数年が経ち、株価は天井知らずで上昇の一途をたどっているが、客観的に見て需要が活発化し経済が拡大したという局面と見ることができる反面、企業の再投資という循環だけでそれがなしえたかというと確実にそうとは言い切れない部分がある。ゼロ金利または低金利の大量の資金を常に供給し続けることで維持されている経済にとって、テーパリングや利上げがどういう意味を持つか、真剣に考えねばならない時期に差し掛かっている。

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日本においては新型コロナの感染拡大はほぼ終結したと言えるレベルになっているが、世界的には現状の水準以下にはなかなかならない状況と言える。日本はほぼ計画通りにワクチン接種が進み、すでに接種率が75%を超過しつつあって名目上の集団免疫状態と言えなくもない。だが、時間とともにワクチンの抗体は低下しているのも事実で、現状レベルを維持するためには、ブースター接種が必須であるという。

日本で仮に冬に向かって専門家が指摘する第6波が発生するととしたら、世界的には状況はさらに悪化するだろう。新型コロナが発生して株価が大暴落した去年、空前の金融緩和とワクチン期待で、経済はコロナ禍以前にほどなく戻ると想定されたわけだが、実体経済は到底戻っているとは言えない。それで企業業績が改善し、株価が急騰している理由はすべて、無尽蔵の供給され続けた資金のもたらした産物以外の何物でもない。

しかしそれとて、当初の想定はすでに崩れ去っているわけで、現時点ではインフレが解消しボトルネックが除去されて、新型コロナの影響も下火になるという来年の想定もまた、そうならないと思っていた方が正しいのかもしれない。そうしたなかで、金融政策の正常化の一環としてテーパリングが行われるということは、少なくとも天井知らずで上昇を続けている株式市場の頭を抑えるのに十分であると思う。

金融政策の転換が株式市場の転換をもたらす、という恩師の教えを改めて考えなおしている休日である。