今後のウクライナ情勢と株式市場

今後のウクライナ情勢と株式市場

いよいよロシアのウクライナ侵略も大詰めの段階に差し掛かったと思われる。昨日の停戦協議は、双方とも言ってみれば互いの要求を確認するにとどまったということで、すぐに妥協点が見つかるはずもなく、特にロシア側は代表団ということでプーチン大統領が出席していないので、即決出来ないからなおさらだ。

しかし、その席でロシア側の代表団は自分たちが無理筋であることをよく分かっていたと見えて、オフレコでは暗に「自分たちではどうにもできない」とプーチンの独裁を示唆するようなニュアンスをゼレンスキー大統領に伝えていたらしい。なので、ゼレンスキー大統領は「ロシアから確かな合図を受け取った」と会談終了後にコメントしたし、再協議に多少の期待感を持っていると思われる。

ロシア経済は破綻するか!?

ロシア軍のウクライナ侵攻は、1日約1兆円ほどのコストがかかるという試算があるが、あながち間違いとは言えないだろうと思う。ただでさえ、莫大な軍事費がかかる上に西側諸国からの厳しい経済制裁を受けて、ルーブルは暴落し、決済手段もSWIFT除外で厳しい状況に追い込まれ輸出入が停滞するとなると、主だった産業がエネルギーと軍事という経済構造では、現状では破綻は時間の問題となっていると思われる。

Advertisement

イメージしやすく同規模のGDPの韓国を考えると、これほどのプレッシャーを受けたら経済破綻は確実だろう。ロシアも韓国も貿易依存度が極めて高いからである。ロシアのCDS保証料率が急騰し、そこから算出されるロシアのデフォルト確率は60%に迫っている。例えばロシア国債などは、経済制裁で取引を大幅に制限されたり凍結された上にルーブル暴落となり、CDS料率が急騰すると、現状では流動性を失っている(価値喪失)の状態に近いと思われる。

しかし問題は、CDS(クレジット・デフォルト・スワップ)の引き受け元で、ロシア経済が破綻という意味は、債券や債権の移転を伴わず信用部分だけを保証するから、流動性を失うようなクレジット・クランチになると(保証金に充当が見込まれるが表面化しにくい)莫大な証拠金が必要になるという事。すなわちロシア経済全般が破綻状態になると、どれほどのCDSが契約されているか想像も出来ないが、ほぼ全て(契約債権の全額)を保証しなくてはならないということになる。

それが徐々に高まってきたのが、1日の相場、ということになる。

例えば原油と天然ガスのサハリン2の取引に(三菱商事ないし三井物産が)CDSをかけていた場合、引き受け元の金融機関は取引額の全額を、取引停止に追い込まれた場合には負担しなければならないわけだ。それが世界中の金融機関が関与するロシア関連のCDSの保証は莫大なものになるわけで、ロシア経済破綻は世界中に連鎖する金融危機となり得る。

Advertisement

戦闘に決着がつくのか!?

ロシア軍はウクライナ国境に集結させた全戦力の約75%をウクライナ領内に侵攻させ、主要都市を攻撃する構えだ。その戦力は優に15万人規模と言われ、人員だけの比較ではウクライナ全軍と互角である。しかし、この侵略劇はペンタゴンの見立てでも数日の遅れを生じているということで、早々にキエフ陥落を目指したプーチンにとっての最も大きな誤算になっている。

そのためかロシア軍は、ウクライナ第二の都市ハリコフ攻略戦で、市庁舎を巡行ミサイルで撃破し、市街地でクラスター爆弾や燃料気化爆弾という非人道兵器を使用し、市民を巻き込んだ無差別殺戮へとエスカレートし始めた。これは明らかにウクライナ侵略日程の遅れから来た焦り以外の何物でもない。

軍事決着が遅れれば遅れるだけロシア経済の破綻が近付くということで、全軍を集結して一気にキエフ陥落、政権転覆を狙う作戦にいままさに出ようとしている。

それに対して直接関与は出来ないもののNATO各国は個別にウクライナ軍に武器弾薬の供与を行っていて、EUはロシア製のミグとスホイを計70機ウクライナ空軍に供与すると発表した。ロシアは自国製の戦闘機に追い回されるという何とも皮肉な結果に遭遇することになる。

従って、軍同士の戦闘に決着がつくというのは、全く読めない状況ではあるものの、1日、2日という短時間でないことは確かだ。

Advertisement

プーチンは核を使うのか!?

自国経済がウクライナ侵略と各国の経済制裁によって破綻の危機に立たされ、なおかつ武力侵攻が大幅な遅れをきたしているとなると、プーチン大統領の焦りは頂点に達しているのではないか?米国がロシア中銀に対する資産凍結を決めた以上ルーブルの買い支えがほとんど効く無くなっているロシア経済は、このまま、あと1週間もすれば破綻は決定的となる。言わば経済破綻のカウントダウンが始まっていると言える。

プーチン大統領はここ数日、盛んに核抑止力の行使をほのめかし、28日には大統領命令でいつでも核ミサイルを発射できる体勢を命令した。実際に核を使うという想定は、少なくとも各国の軍関係者以外は半信半疑だと思われるが、ウクライナ侵攻に際してロシア軍がもっともはやく制圧したのがチェルノブイリ原発である、ということを考えると、原発を中心とした広大な立ち入り禁止区画のあるエリアは、そこだけということになる。

核兵器を脅しの手段として使うには条件が揃っているとこのブログで何度も書いてきたわけだが、もちろんそれを使うと広大な一帯は放射性核種の汚染地帯となる。しかし、すでに原発事故で汚染された地域とプーチンが考えるならば・・・。まさか殺傷兵器として核を使うことはないと思うが、それだけにチェルノブイリ侵攻はロシア軍の気になる行動だ。

Advertisement

今後の株式市場への影響は?

戦争が始まるまでは暴落で、開戦と同時に戻りを試す、というのが株式市場の経験則らしい。しかし今回は過去の場合とあまりにも条件が違い過ぎると思う。確かにロシア軍のウクライナ侵攻とともに株価は急速に反発したが、今回は同時に極めて厳しい経済制裁を伴っていること、世界中が高インフレで金融引き締め局面であること、そして戦争の悪影響がさらなるインフレの助長をもたらす危険が濃厚であること、等を考えると、個人的には従来のアノマリーは通用しないと思っている。

それよりも、極めて急激に悪化するロシア経済の悪影響が、金融不安、金融危機をもたらす可能性に個人的には着目している。それこそ、リーマンショックの経験を思い出すと、ロシアのウクライナ侵攻は、金融バブル崩壊のトリガーであって、経済の状況は酷似していると思う。結局のところ最も問題なのは、金融デリバティブであって、ロシア経済の悪化をきっかけに、連鎖的に世界の金融が悪化することが最も怖いと思う。

Advertisement

いまは、リーマンショック当時とは比較にならぬほどの金融緩和状態であって、金融危機の破壊力ははるかに巨大なものとなる(と予想される)。それにそもそも今回の戦争は株価が下落トレンド入りしてから起こったものである。

金融危機は表面化するには時間がかかる。金融機関は自らの含み損を表に出さないからだ。CDSの引き受け残高は公表しても、内容は公開することはなく、そのうち事故が何件か発生するようになると、警戒感がたかまり、疑心暗鬼が徐々に高まってゆくというプロセスで、実際にリーマンショックによる株価暴落はサブプライムの危険性が言われ始めて約1年、米国大手証券のベア・スターンズが破綻し、住宅専門金融機関であるファニーメイとフレディマックの経営危機が表面化しても本格暴落はその半年後だった。

だが、今回はそうはいかないだろう。なぜなら今が高インフレに対応するための金融引き締めに突入する直前だからだ。なので米国市場はダウが先行しての下げになると思う。実態が見えるまでは、安心できない状態が継続すると思われる。