焦りまくるFRB:歴史的なQTへ

焦りまくるFRB:歴史的なQTへ

今夜発表された3月のFOMC議事要旨の内容は、市場では「想定通り」とする向きもあったと、特に為替は円安急伸か!?と思われたけれど、とりあえずそんな反応はなかったことで、株式市場は買い戻す動きになった(ように見える)。しかし、(議事要旨の)内容は、想定通りとするにはあまりに過激すぎた。正直、これほどFRBが焦りまくっているとは・・・。

要点は2つ。まず3月の0.250p利上げは、本来は0.500pの利上げだったけれど、ロシアのウクライナ侵攻の影響を考慮し、0.250pにしておいた、という「ビビリ」。利上げは0.500pが適切で、そしてもう一つはなんと月額最大950億ドルというとんでもない規模でQTを行うということ。

前回のQTは月額100億ドルだったことを考えると、これはとんでもないよ!

正直FRBは、債券市場や株式市場が暴落しようが何しようが、現在のインフレ状況を抑え込むにはやむを得ないという、昨日ハト派筆頭のブレイナード理事が意を決して「タカ派」発言をした真意がこれでようやくわかったという事だろう。

う~ん、今夜は個人的には想定よりもはるかに過激な夜になった。まさに歴史的と言える金融縮小の示唆!何をどう考えても、現在の金融ジャブジャブの上に建ったマーケットは、利上げとQTで完全に梯子を外された格好。まさに劇薬!もしも5月FOMCで「0.500pの利上げと950億ドルのQT」に踏み切れば・・・。

しかもFRBは、今のところは目立たないけれど、MBS(住宅ローン担保債券)も時期を見て減らし始めるという。これが何を意味するかと言えば、現在の米国景気を支えている住宅(不動産)バブルが崩壊しかねないということ。こうした一見それほど過激には見えない金融政策こそが、実は大きな影響を持ってくることは、日本がバブル時に大蔵省が「(不動産融資の)総量規制」を実施したのと「瓜二つの政策」だ。

これから金利が急角度で上昇してゆくなかで、金融を引き締めてゆく。しかも長短金利が逆イールドの真っ最中!これって(不動産バブルは完全に)アウトだよね。

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株高という楼閣

リーマンショック(サブプライムショック)以来、米国株式市場は約14年半にわたって右肩上がりを続けてきた。その裏付けはほぼ100%と言ってもいいほどに、QE(量的緩和)に支えられてきた(勿論、米国だけではなくて世界中が同様なのだが)。

勿論、株式市場だけではなく、債券市場も不動産市場も全く同様に推移してきたわけだが、グラフを見ても分かる通り、株価上昇は明らかにQEがもたらしたもの。市場が危機的状況に陥るたびに、FRBが株価の毀損を埋めていた、ということになる。

世の中にお金が無尽蔵に湧き出てくるような旨い話があってたまるか!という事なのだが、実はあったんだよね。企業も個人もFRBという「打ち出の小槌」の恩恵で、さも実力であるかのように、経済成長を享受してきたんだ。

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前回、FRBがQT(月額100億ドル)を実施したとき、米中貿易戦争の只中で株式市場が揺れた。その時にトランプ大統領は大いに怒り、パウエル議長に圧力をかけまくって、クリスマス暴落を翌年明けから回避したということだった。そして新型コロナ暴落も同じで、とにかくFRBは形振り構わず莫大なQEを実施して、株価毀損の穴埋めを行った結果、現在の株価(不動産バブルも)がある。

それをFRBは40年ぶりのインフレの高止まり水準のために、一気に巻き戻す決意をせざるを得なくなった!その結果はどうなるか、ここで書くまでもないよ。

金融政策の破綻

株式市場が急落すると経済に悪影響が出る・・・だから中銀の金融政策は、株価を立て直すことが最優先される・・・。

これがリーマンショック以来の世界の中銀の暗黙の政策目標になってしまった。というよりも金融政策におけるQEの有効性のノウハウを示したのが、日本のバブル崩壊後の推移だったわけだ。1991年にバブル経済が崩壊してその後10年間、政府・財務省は歳入確保の名目で消費税を導入し、実質的なQTを行った結果、不良債権処理が進まず、小泉政権誕生とともに日経平均¥7,000台というバブル高値から80%以上の下落という地獄を見た。

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それを立て直したのが米国の指示通りQEを(財政的に)実施した竹中平蔵だった。ほぼゼロ金利政策の導入と日本国債を使ったQEで金融機関に無尽蔵に資金を提供し国債を買わせ、その金利を積み増すことで不良債権処理を行った。つまり、今のメガバンク3行は自助努力で財務内容を改善したのではなく、結局のところQEだったわけだ。

そうした経緯を、逆にFRBや中国は注視していた。そして不良債権処理であればインフレを回避しつつ財務内容を改善できると確信を持ったわけだ。そしてそれはEUも同様で、不良債権処理が進まずソブリン危機となった際に、大胆にQEを実施して回避した。その際にも憂慮すべきインフレは起きなかったわけで、中国当局もFRBも金融政策について極めて大胆になって行った。

それが次第にエスカレートし、インフレさえ低位で抑えられれば、いくらQEしても大丈夫という暗黙の了解が出来上がってしまった。もちろん為替レートの変動を回避するために、各国中銀の暗黙の協調が前提になるけれど、ドル、ユーロ、円ならば難しいことではない。

「欲しいものがあればいくらでも小遣いをやるよ」という優しい親の子供が、真っ当に育つことはあり得ないのと同様に、この金融政策には違和感を感じる人も多かっただろう。しかし何事もなく経済は成長し、株価は上昇してゆき、高水準の利益回転になってくると、そんな違和感もいつしか消し飛ぶ。

新型コロナショックも克服し、最高に浮かれて強気になっているときに、とうとう今の金融政策の最大の敵に直面することになった。それがインフレだ。

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気が付けば手遅れ

FRBは「インフレは一過性」として、昨年(2021年)、インフレが進行しつつある中でも政策転換を躊躇った。そしてついには今年(2022年)3月まで、インフレの高まりを尻目にQEを継続していたのだ。一向に新型コロナの収束が見通せず、昨年末にいよいよ危機感が高まってテーパリングと利上げの必要性を感じ始めても、株式市場への影響を恐れて、テーパリング終了でさえも3ヵ月を要した。

だがその間に資源大国であるロシアによるウクライナ侵攻が勃発し、コモディティ価格に一斉に飛び火すると、もやは息を殺してじっと待っていればいつかインフレは収まるというFRBの期待は剥落した。つまり「インフレは一過性」とする根拠は、「インフレは新型コロナによるサプライチェーンの混乱」であって、自らの金融政策の限界という捉え方をしなかったわけだ。

「金融緩和は遣り過ぎとは思うけれど、それが原因でインフレになっているとは考えたくない」というのが金融当局の問題認識であって、まさかと思っていたロシアのウクライナ侵攻が勃発し、制御できないコモディティの価格上昇が始まると、ようやく「手遅れ」を悟ったのだろう。

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QEもQTも歴史的

株高は歴史的なQE(金融緩和)によって打ち建てられた楼閣であり、その土台はジャブジャブの緩和マネーという砂で出来ている。その土台を、棒倒しゲームのように少しずつ削り取るのが本来のQTのはずだ。5階層の楼閣を、土台が持ちませんといって4階層に改築させることが目的のはずだが、インフレによって7階層工事の真っ最中であった。

予算もついて拡張工事は止まらなくなっている折に、放っておくと10階層の第二期工事もやりかねないから、その工事を止めさせるために前例のない大胆な歴史的QEで土台の砂を、大丈夫そうな場所から取り除くことにした。そして、インフレに拡張工事の中止をせまる腹積もりなのだが・・・。

もともと基礎工事もしっかりと施工されていない野放図な楼閣なのだから・・・

楼閣(株高)は倒れてしまうかもしれないね。いや、世界経済も・・・。