米ドル弱体化は確定的!(前篇)

米ドル弱体化は確定的!(前篇)



今のマーケットの不思議の一つが金価格だと思う。新型コロナが発生してから以降、一気に$2,075まで駆け上がり、その後ロシアのウクライナ侵攻で何故か$1,600辺りまで深押しして、その後米国の金融危機懸念を背景に今月(4月)に入り再び$2,048の高値を取ってきた。

【金相場 月足チャート】

金は「有事の金」と言われるが、アナリストによれば現代ではその価格は、基軸通貨(ドル)への信頼性と反比例すると言われてる。しかし世界経済の情勢を丹念に追ってゆくと、それだけでは全く説明できない値動きが多々ある。何故、いま金が買われているのか?これを説明できるアナリストは恐らく存在しない。

これと同様なことが、仮想通貨でも起きている。2023年年初から底打ちしたビットコインは上昇を開始し、米銀4行が債券価格の下落によって破綻に追い込まれた3月からビットコイン等仮想通貨は鰻登りとなり短期間で価格は倍増した。ならばその理由は一体何なのか?高インフレ下、破綻懸念のある銀行から預金を引き出し、その一部が金や仮想通貨に向かったという意見は多いけれど、どうやらそれだけでは相場上昇の本質を突いた説明とは思えないのだ。

個人的にも当初はそう考えたけれど、こうした上昇の要因はそんな単純な理解では割り切れないのではないか?ということ。そもそも金も仮想通貨も飛び切りのリスク資産であって、企業やファンド、個人のファイナンスがタイトになっている状況で活発な投資が行われることには、違和感しか感じられないからだ。

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金や仮想通貨には明確な買い手がいる!?

そもそも金にしても仮想通貨にしても、相場を押し上げるほどのパワーは、個人投資家の集合では持ちえないし、この情勢下で積極的にリスク資産に買い向かう大規模ファンドもまずはあり得ない。ならば、大きな資産を持つプライベート・エクイティやファミリー・オフィスという可能性もあり得るところだけれど、単独でそのような投機的と言えるポートフォリオを相場を動かすほどのウエイトで形成することはまずないと思っている。

だが現実として金や仮想通貨の相場は大きく動いていて、そこに大量の資金が流入しているのは間違いのないこと。それがどのような経済主体なのかは未知数だが、未知数なりにあらゆる可能性について検討することは、必要なのだはないか?と思っている。なぜなら、そのような投資行動には必ず重要な理由が存在するものだから。

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ゴールドの買い手

金に関しては各国の中銀を含む公的機関の保有高が定期的に公表されている。2023年2月末時点での世界の保有ランキングは下図の通りとなっている。

世界で断トツ1位は米国で8,133t、IMFの保有残高2,814tと合わせれば圧倒的な保有量10,947tとなり、金本位制ではないにしてもドルの基軸通貨としての地位に貢献していることは確かだ。しかし昨年からロシアと中国が急激に金を買いあさっている。

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中国は2022年10月まではずっと1,948tを維持してきたけれど、昨年11月から突如として買いに転じた。またロシアはウクライナ侵攻前年の2021年9月から10月にかけて10tほど購入し、その後2023年2月に突然31tもの取得を行った。金価格の推移と照らしてみると、この両国の取得が関係しているのは明らかなのだ。

その結果両国の金保有残高はジワジワと増え続け両国合わせて4,380tとなり、米国保有の8,133tの過半数を超えてきた。問題はこの両国の金取得意図がどこにあるのか?ということだ。

仮想通貨は投機的?

2022年11月に$10000近い暴落となったビットコインは年明けとともに急激に上昇を開始し、暴落分の全値戻しを達成したかと思うと、利食いを挟んで所謂「カップウイズハンドル」の形を形成し、米銀破綻と同時にさらなる上昇を開始して、今月(4月)には$30000を突破した。先週末には一気に4億ドル近い売り物がビットコインで発生して急落したものの、以前高水準を保ち続けている。

こうした動きからビットコインに関して言えばこの上昇は投機的な動きと言えるかもしれないし、ましてロシア・中国等国家レベルの関与は微塵も感じられないが、少なくとも大口の投資家が金融不安に嫌気して投機的な動きに出た可能性は大いにある。そうした投資家は銀行預金を引き出して一部をビットコインに振り向けた可能性が高いと思うし、その流れに個人が追従したと言える。

インフレで弱体化したドル資産は目減りする一方ということで、安全性の高いMMFや逆イールド高金利の米国短期債へ向かうのは自然だろうし、このところの株高で一旦は落ち着いたかに見えた銀行預金残高も再び減少を始めている。つまり、米国民は銀行預金口座になるキャッシュとしてのドルをほとんど信用していないということの表れではないのか?

現在の米銀は自己資本の弱体化とともに高金利下にあって従来同然の低金利した付与できていないわけで、こうした状況を米国民は苦々しく思っているし、この状況をして金融システムは頑強だとする米国当局者(財務相・FRB)による発言は空々しい限りだ。

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米ドルは弱体化に向かっている

中国・ロシアによる急激な金取得と金価格上昇、仮想通貨の急上昇、は米ドルに対する信頼性が著しく劣化した象徴なのではないか?と思っている。そのことを端的に表しているのが米国債券市場の乱高下ではないだろうか?

米国債の逆イールドは本来キャッシュ同等と見られてきた米長期国債金利が上昇しないことに起因する可能性もあるだろう。もちろん債券市場では長期的な金利水準を織り込むわけで、無暗に10年物国債がインフレ率を超すような水準にはならないし、期待インフレ率も容易には上昇しない。

だとすれば、短期国債金利の上昇が高すぎることに起因すると言うことになり、ある意味米ドルに対する不信感の象徴的な出来事であると思う。本来金融機関の、短期金利で資金を調達し長期金利で貸し出して利鞘を取るというモデルは、完全に崩壊してしまったし、そもそも貸し出しさえできれば避けて預金準備を確保したいという雰囲気になってしまっている。

米金融当局者は「米国の金融システムは頑強だ」と口を揃えるが、そもそも急激なインフレと金利上昇が発生している最中で脆弱であるとは口が裂けても言えるはずがない。が、現在の米ドルの脆弱さは、際限のない政府支出の拡大と、未曾有の金融緩和によって拡大したマネタリーベースに起因するものであり、それらが株高を演出し、不動産価格を押し上げ、インフレを助長した。

にもかかわらず米国政府はさらに債務限度額を拡大し、バイデン政権のばらまき予算を通そうとし、中小銀行が破綻すれば、FRBは即座に大量の資金を投入し、QT効果を摘み取ってしまう。その結果希薄化した米ドルの実質的な価値は、ある意味米ドルへの信認を失わせる最大要因のような気がする。

しかし、それ以上に今、米ドル弱体化への懸念が高まっていることを、メディアは取り上げないし報道もすることはないだろう。その最大の懸念については、後篇で書くことにしようと思う。