米中合意を株式市場はどのように織り込むのか

米中合意を株式市場はどのように織り込むのか

米中交渉の最中、(日本時間で)日中の米国ダウの値動きが大幅高で推移していたことや日本市場の堅調を好感して、大幅高のまま寄り付いた米国ダウは、勢い余って上げ足を拡大し、一時は$500超の上昇を演じて見せた。日本市場の大引け直前に、「米中が部分的合意、貿易戦争休戦につながる可能性も」という断定記事を掲載したことで、各メディアが後追い記事を掲載し、そのことが米国市場の上昇に拍車を掛けた。

しかし、米中交渉以外にさらに重要な発表がなされたことも見逃せない。「金融政策のスタンス変更を示すものではない」と言い訳がましくFRBはコメントしているものの、利下げに続いて量的緩和を再開したことは事実で、そのことが荒れている短期債金利を落ち着かせるとともに、米国債10年物金利の上昇と相まって、ここで一気に逆イールドを解消してしまいたいという意図が透けて見える。

実際改めてブルームバーグが0時過ぎに記事にしたことで、明らかに米国ダウは反応し上値追いをしている。

期待感だけの相場展開

トランプ政権は米国市場のザラバ中に米中合意を大いに匂わせ、株式市場の上昇をフォローしていた。そして、日本市場のザラバ中(米国は夜中)から「米中合意」に対する期待感が先行する相場が、米国市場のザラバでも継続したということ。

実際、具体的な合意内容は一切発表されていなかったし、4時半過ぎになってトランプ大統領がツイートで「米中、重大な第一段階の合意に達した」と発表し、ほぼ同時に(計ったように)ムニューシン財務長官が「対中関税率、来週(15日)の引き上げはない」と発表。

そしてダウ大引けとほぼ同時にトランプ大統領は「第1段階協定は、11月チリで開催されるAPECで著名へ」と発表した。

いま、5時30分になろうとしているが、合意内容の大筋発表さえされていない。ほどなくして具体的な合意内容については発表されるだろうが、株式市場が大幅高した要因はつまり、「期待感だけだった」ということになる。

もちろん、FRBの量的緩和発表や、10月ミシガン大学消費者態度指数等の追い風は吹いていた。しかしそれであっても、ザラバの$500高は、9日$181高、10日$150高していることを考慮すれば、上げ幅は3日間で$800を超えるという強烈さ。

合意の期待感だけで$800以上の上昇をするというのは、通常では理解できない。

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従って、4時40分頃からは、トランプ・ツイートにもかかわらず、利食いされる動きになって、約$200下落して大引けになった。こうした動きを見るに、やはり短期筋が相場を囃して持ち上げたという側面も大きく、また期待するのはいいが、合意内容を精査しないと、というスタンスだったと思われ、その意味では、なんとか株式市場は機能していると思えた。

重要なのは合意が履行されるかどうか

この米国市場の動きは、5月GW前の米中交渉の進捗に似ている。既に4月中旬までに大筋で合意して、合意文書まで作成済みであったものを、中国・習近平は却下した。その時に印象に残ったのは、劉鶴副首相には、何の権限も与えられていなかったということ。

今回の合意に関して、米国ライトハイザー通商代表部代表と劉鶴副首相の口頭での合意であって文書化もされていない段階で、果たして国家間の合意と言えるのかどうかが疑問である。

たとえば、米朝会談の後の双方の発表に食い違いが生じているように、お互い発表を先行させてそうした雰囲気を作ってしまう、というのがトランプ流のディールでもある。しかし、それが国家間交渉でどれだけ機能してきているのか?と考えると、少なくとも国境の壁を巡るメキシコとの交渉と日米通商交渉以外の成果はほとんどないのが現実だ。

中国は今回の米中交渉の目玉は農産物と考えている。トランプ大統領の最大の関心事は来年の大統領選挙であって、共和党の支持基盤である中西部農業地帯に貢献できる条件を提示すれば、トランプ大統領は折れると言う読みが、中国の基本線になっている。

そしてそもそも、今回の交渉の合意事項が農産物以外に、金融マーケットの解放という玉虫色の合意と観測されている以上、ほとんど米中の経済に対するプラス効果は望めないレベルの合意である可能性が濃厚だ。

なので、今回の交渉で知的財の侵害、強制的な米国技術移転問題、さらには資本の自由化や国内企業に対する国家助成音大など、僅かでも踏み込めるのかということが株式市場の関心事となるし、合意に達した内容を中国が履行するかどうか、も見極める必要がある。

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政権と議会の乖離を考えない中国

中国はトランプ大統領と政権が米中貿易戦争を含む米中対立に関する交渉相手であり、それが米国であるという認識で対応している節がある。もちろん、それはそれで間違いではないにしても、そもそもトランプ政権の貿易における強硬な姿勢は、米国議会の総意であると考えなければならないはずだ。

そして、今回の貿易に関する米中交渉とは別に、すでに米国議会は中国の人権弾圧問題に踏みこんでいて、中国の監視カメラ最大手のハイクビジョンダーファ、そして新疆ウイグル自治区の公安機関ブラックリスト(エンティティ・リスト)に追加した。

さらに米国議会は、国防権限法の改正や米国輸出管理改革法を可決して発動準備を進めていて、貿易戦争以外に安全保障問題や人権問題の切り口で、中国に圧力をかけ始めている。

現実的な中国経済に対する影響を考えると、関税問題以上に今後は強烈に締めつけが行われることになる。

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米国市場は材料出尽しか?

トランプ大統領は今回の米中合意を「第一段階」と表現した。そして文書化には相当の時間を要するということで、11月のAPECで調印したいと発表した。それはもちろん上手く調印の運びとなれば12月15日からの中国製品への課税回避と成るだろう。

しかし、現状レベルでの課税は基本的に継続するだろうし、それは米国の要求を中国が受け入れるまで続くものだ。そして、その状態で、米国議会は安全保障およ人権問題で、中国に対する締め付けを強めることになる。

仮に今回の部分的合意がなった場合でも、中国経済にとってはプラスの要素は一つもないばかりか、今後ますます経済の落ち込みは激しくなると思われる。

今後の世界経済がますます厳しくなるというのは、IMFや世銀の予想でもある。

一方米国経済は、FRBの量的緩和の実施は意外な効果を発揮するだろうが、製造業の不振を止めることはできないだろう。

そうした背景を考えれば、今回の米中合意による株式市場の上昇は、週明け一転して「材料出尽くし」となる可能性は十分にありそうだ。

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日本市場は決算を見据える

消費税増税後の消費動向、そして10月末からの2Q決算発表まで、日本市場の買い材料はドル円だけとなる。まず、各種調査によれば、消費税増税後の消費は予想通り落ち込む傾向にあると言われ、キャッシュレスも思った以上に使われていない。

また、先行した安川電機の2Q決算では大幅な利益減少となり、さらに今後(通期)でも回復は難しいとした。つまり、世界的な景気後退で設備投資が減少していることを如実に反映しているわけで、設備投資が回復しない限り、経済の将来的な回復の展望は開けないことになる。その意味では、機械セクターの業績は極めて重要であり、当然のことながら楽観はできない。

今回の米中合意の内容が明らかになれば、相応の評価がなされるだろうし、内容によっては米国市場の上値追いもあるかもしれない。またFRBの量的緩和を歓迎する動きとなれば、金融セクターが評価されることになるだろう。

しかし、輸出に過剰な期待はできず、内需も不振となれば、9月19日の高値は超えることはまず無理だろうし、短期的には週明けに「材料出尽くし」に見舞われてもおかしくない。

その後、今回の米中合意とFRB量的緩和を受けて、為替がどう動くかで日本市場は決まる。その上で2Q決算を織り込む相場に移行するはずだ。

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