米中合意とウクライナゲートを楽観する株式市場のリスク
- 2019.10.16
- 放言
米中合意は、トランプ大統領に言わせると「第一弾」ということだが、現在出てきた情報によれば、中国の米国農産物購入の代わりに10月15日の関税引き上げを延期すると言うことだけ。さらに合意内容の公式発表はなく、文書化は11月中旬までかかるという意味不明のアナウンスが行われている。
これはつまり、今回の合意は権限のない劉鶴副首相とライトハイザー通商代表部代表との口頭での合意目標であり、国家間の取り決めは何も決まっていないということだろう。
株式市場は過剰反応
今回の合意発表を受けて、これをポジティブ材料として反応したのは、日米の株式市場だけ。米国経済に対してプラスになる、という思惑で為替も米国金利もそれなりに反応しているとはいうものの、それらはみな投資家の思惑の域を出るものではない。
その株式市場は、米中合意を材料とした仕掛け的な要素が強く、冷静に事態を考えれば今回の合意ほど中身のないものはないということは容易に判断できる。
中国がいくら米国の農産物を購入しようが、実体経済にはほとんど影響はなく、関税の延期も現状が改善するものではない以上、株価上昇の材料とするには余りに弱過ぎる。
にもかかわらず、この時期株価を吊り上げておきたいウォール街の思惑に、個人投資家が乗せられた結果だろう。明らかに株式市場は過剰反応だ。
中国経済は危機的状況だが
中国税関総署は、9月の貿易統計で輸出が3.2%減(前年同月比)、輸入は8.5%減(前年同月比)と極めて厳しい数値を発表した。輸出の3.2%減というのは人民元安を考慮すれば10%減にも相当し、輸入の8.5%減はそのまま外貨準備の減少を意味する。
そして輸入の大幅減は国内景気の急激な悪化を意味する。
数量経済学者の高橋洋一氏によれば、貿易の減少(マイナス成長は)GDPの減少に比例するとしている。そうなると、6%成長を標榜する中国の実質的なGDPは、マイナス成長していることになる。
習近平は、当然のことながら自国経済に危機感を持っているだろうが、それが理由で弱腰になることはあり得ず、むしろより強硬になる可能性が高い。
すでに米中合意発表後、中国は合意内容を翻し、「500億ドル相当の米農産物輸入は米国の関税撤廃がない限り困難」として、農産物の輸入は関税撤廃が条件であると言いだした。
さらに、米国の「香港人権法案」に対して法案成立ならば報復措置に出る、と宣言した。
つまり、中国側は既に米中合意を完全に否定する行動に出ている。
トランプ大統領の焦り
トランプ大統領は、モラー特別検察官がロシアゲートの捜査終了を宣言して以来、理由は不明だが強気に出ると思いきや、北朝鮮の弾道ミサイル発射を黙認し、イランのタンカー攻撃に対する報復もせず、こともあろうにタリバンとのキャンプデービッドでの会談を画策していた。
これはつまり、2020年の大統領選挙で再選を強く意識した結果と見える。ではなぜ現役大統領が、そこまで再選を意識しなければならないのだろう?
トランプ大統領は再選のためには、何としても米国株価を上昇させ、米国経済の好調ぶりをアピールしたいと考えている。そして真面目に今年のノーベル平和賞の受賞を画策していた。仮に現役大統領として受賞すれば、再選はほぼ確定的となる。
そのために電撃的な板門店会談を演出し、キャンプデービッドでのタリバン会談を画策していたのは、間違いない。しかし、政権内のジョン・ボルトン国家安全保障担当大統領補佐官はこれに強硬に異論を唱え、遂にはボルトンを更迭してしまった。
強硬派のボルトンが政権を去ったことで、イランのサウジ石油施設攻撃、北朝鮮のSLBM発射実験、そしてトルコのクルド人攻撃を招き、中国や韓国は対米姿勢を硬化させた。
この一連の情勢のなかで、遂に政権の内部告発者による文書で、2020年の大統領選挙に有利なように民主党バイデン候補のスキャンダルを調査するよう、ゼレンスキー大統領に依頼したとされるウクライナ・ゲートが持ち上がった。
株式市場の楽観はリスク!
冷静に見れば米中合意は特別なものは何もなく、ただ農産物を巡る交渉を関税引き上げ延期とバーターしただけの内容だ。にもかかわらず、好材料として過剰反応している。
またウクライナゲートによるトランプ大統領弾劾の可能性を、下院は過半数、上院は3分の2という可決必要数であるが故にこれを楽観(または無視)しているのだ。
中国の習近平は、経済問題の上に、香港、ウイグル、台湾、と中国が内政問題とする政治課題を抱えている。一方の米国トランプ大統領とて、2020年の大統領選挙を控えたタイミングでウクライナゲートという難題が持ち上がってしまった。
米中双方ともに、時間的な猶予が欲しいと言うのが正直なところだろう。
従って今回の米中合意は、合意をアピールしながら実質的には米中問題に関して「一時休戦」の意味合いが強い事は確かだ。
しかし、株式市場の過剰な楽観は大いなるリスクである。
すでに日米株式市場ともに総楽観の域に達しようとしている。
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