7月の日米株式市場概況

7月の日米株式市場概況

週末の米国は三市場とも下落、利食いが優勢の展開になったけど、この辺りは読み筋だった気がするけどね。ちょっと米国市場は調子に乗って上げ過ぎるきらいがあるから、状況次第で一気に2~3日の利食いが来る。けれどもそれで止まれば通常の利食いモードでまた戻るだろうけど、この下落の途中で何かネガティブなニュースが出たりすると、オーバーシュートしたり、場合によっては長期間の調整を強いられたりするんだよね。

でもこの1年では比較的長期の調整なんかなかったからねぇ・・・。始まるとすれば、新型コロナ後の上昇相場の利食いという事かもしれなくて、その場合は長期の調整も十分にあり得ると思ってる。去年の上昇相場はとにかく、コロナ前の水準に戻れるという前提があって下落分を埋める動きになったわけだし、その間の金融ジャブジャブが結果的にはオーバーシュートさせる効果があったと思う。もちろん企業業績は想定以上に回復したことも事実だから、株価は上昇して当たり前、と言えば当たり前だったわけだが・・・。

株式市場をめぐる環境

米国株式市場だけでなく米国に追従する日本市場もまた、株式市場をめぐる投資環境が随分と変化してきていると思う。そしてそれだけでなく日本市場の場合、いまだに材料視されていない中国の政治や経済の状況が急激に悪化してきているというファクターを抱えている。内需がデフレで期待できない以上、米中経済の状況を如実に反映させてしまう市場であることを、常に念頭に入れておく必要があると思う。

新型コロナを克服したとは言えない状況

欧米では新型コロナワクチンの接種が進み、従来型のコロナに対する耐性はかなり強まってきた反面、ウイルスもまた着々と変異を続けていて、インド発のデルタ株や南アのベータ株、ブラジルのガンマ株等々に対するワクチン効果が未知数の部分も多く、現時点では「克服できる」という確証が掴めているわけではない。

特に日本においては、従来型が感染の主流であったが、デルタ株の比率が急激に高まってきて、五輪開幕直前で第5派の様相を呈し始めていることが、五輪を終わって以降国内でどのようになるのか?という懸念が高まっている。

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実際、感染急拡大ともなれば、流石に国内経済はこれ以上踏ん張れないだろうし、医療体制も含めて日本は極めて厳しい状況に追い込まれる。そして国内経済はデフレが加速し、無成長の暗黒時代が続くことになりかねない。政府は忘れたころに景気対策と称して予算を組むだろうけど、何もかもが手遅れになった頃、保身や地位保全のために組む経済対策など、効果があるはずもない。

金融ジャブジャブの弊害が出てきた

インフレ・・・恐らく日本人でインフレを実感できる人はすでにいないのではないか?とさえ思うこの物価上昇が、欧米、そしてアジア諸国では現実のものになっている。世界中の中銀がこれでもか、とばかりに金融緩和を連発した結果、株式市場が上昇し債券市場が急拡大することが、金融緩和効果ということだったわけだが、流石にやり過ぎた金融緩和は徐々にコモディティ価格を引き上げて、その結果いよいよ物価上昇に至る段階を迎えていると言ってもいい。

この状況に対し、例えばFRBは雇用が戻らないという理由で、インフレは一過性のもの、というスタンスを取り続けているわけだが・・・今回のインフレは、見方を変えれば悪性インフレになる可能性が非常に高いと思う。なぜならば、新型コロナ禍で企業債務は激増していることやそれに加えて原材料や人件費が高騰していることで、価格転嫁せざるを得ないのだ。

しかもこのインフレが、米国債の長期金利が下落している状況の中で起こっているということが、悪性のインフレであることの証明にもなっている。

また米国ではテーパリングの論議が盛んで、その先にある利上げのタイミングを計ろうと躍起になっているわけだが、現実に利上げを行うと、債務過多に陥っている大半の企業経営は極めて厳しい状況に陥るわけで、だからこそ今のタイミングで米国債10年物金利は下落しているのだろう。



次の経済成長が想像できない

米国長期金利が上昇しないということは、すなわち将来の米国経済の成長が織り込めないという意味でもある。米国経済がインフレならば、単純に米国債10年物金利は上昇して正常である。しかし、昨年比5%もの高インフレ状態にありながら、高値1.700pを超えた金利は、あれよあれよという間に1.295pまで下落した。

この状況をFRBのパウエル議長は、「インフレは一時的なもの」と表現し、だからころ長期金利は上昇しないと説明しているけれど、イエレン財務長官のニュアンスはだいぶ異なるのだ。曰く「少なくとも年内はインフレが続く」とコメントしていることから、立ち位置は相当に違うし、さらに財政出動を前提にしている政権側としては、インフレを否定できないと思われる。

がしかし、経済全体を考えると、財政出動しようが何をしようが、テーパリングで資金供給が細り、その上利上げともなれば、こ数年間で爆発的に増加した企業債務が耐えられなくなる、と言うことを株式市場は気づき始めている。

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中国の政治経済の危機的状況

少なくとも米国よりも早い段階で、ファイナンス(借金)することによって景気拡大を続けてきた中国企業や中国経済そのものは、金融引き締め政策によって耐えられなくなり、破綻企業が続出した。先月中国人民銀行は急遽市中に対し約15兆円の資金供給を行ったが、これは絶対に破綻させることにできない一部の国営企業に対するテコ入れであったと思われる。

だが通常の経済運営が困難になる状況の中で、習近平は自ら毛沢東をイメージした権力集中を中国共産党支配100周年を機に加速し始めている。まず資本市場で資金を調達し、肥大化したアリババやテンセントを完全に共産党支配化に置くことや、2百数十社に及ぶ米国上場の中国企業の米国上場廃止を視野に入れ始めると同時に、香港や上海での上場を計画していると言われている。

また香港に対する思想強制を強化し、新疆ウイグルの中国化を一段と強化している。まさに米中デカップリングが刻々と進行しつつあることも、冷静に考えると大きなリスクのはずなのだが・・・。

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ネガティブファクタを無視できないフェイズ到来?

金融ジャブジャブ相場は、基本的にはネガティブファクターを無視するかまたは重要視することがない。相場が右肩上がりを想定できるときは、多少の波風が立ったところで、ほどなく回復し次の上昇ファクターを見つける作業に邁進する。

しかし、様々な要因によって一旦将来の成長性が見えなくなってくると、従来のようにネガティブファクターに目を瞑ることはできなくなってしまう。

一体いつまで新型コロナに苦しむことになるのか?このまま経済正常化に向かって企業は大丈夫なのか?インフレの影響で消費はこのまま継続できるのか?等々の懸念が払しょくできない状況の今から秋にかけては、強烈だった新型コロナ相場の分岐点になる可能性は小さくないと思う。

少なくとも将来の成長性が見えなければ、ロングで投資することはできないものだからね。