7月雇用統計の衝撃と今後の米国市場

7月雇用統計の衝撃と今後の米国市場

昨夜の米国7月雇用統計によって確定したことが2つある。1つは米国のインフレは当面なだらかには下落するものの高水準を維持し続けるということ、そしてもう1つは基本的に2%という夢のようなFRBの目標の実現は政策金利がインフレに迫るかまたは上回る程度に上昇しないと実現不可能であるということだ。

米国のインフレは高水準を維持

昨夜の雇用統計サプライズはかなり衝撃的だった。その理由は単純に「米国景気は底堅い」というものではなくてまた「FRBの9月利上げ0.750p濃厚」というものでもなくて、此の先高水準でインフレが居座ると来年のリセッションは免れようがないということがほぼ確定し、好景気を維持しつつインフレを抑制するというソフトランディングはちょっと難しいかな、という見方に変わらざるを得なくなったということ。

確かに株価は6月をボトムにして堅調な戻り相場を演じてきた。勿論主体はショートカバーだったと思うけれど、個人投資家を含めて一発買い勝負をしてきてる一部のファンドが相乗りしているのは確実だけど、ちょうど6月初旬の戻り高値を目前にしたダウやS&P500では、ブレイクすれば買いに回るという投資家も相当数控えていたとは思う。

その買い方に待ったがかかったわけで、それだけでなくて、むしろ警戒感が台頭してきたためにそれが売り圧力になった可能性が高い。インフレと金利上昇に強い伝統的な企業の多いダウは上昇したけれど、S&P500が僅かに下落、そして6月高値をブレイクしていたNASDAQは戻り切れなかった。

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10日のCPIではインフレは確かに減少すると思うけれど、それはコモディティの下落を織り込んだものに過ぎないし、世界景気が悪化してゆくとエネ価格も下落せざるを得なくなるので、最終的に7%くらいまでは下がる。しかし雇用が堅調で賃金上昇も維持するとなれば、企業は価格を下げることは出来ないわけで・・・。

サプライチェーンの混乱解消という期待もあるけれど、そうなる前に景気が悪化し需要が減少していると企業は在庫調整に走る。そしてこの在庫調整にはかなり唐突に突入するから、まずは原材料・中間財の企業業績が落ち込む。リテール企業も在庫調整のために価格調整をせざるを得ない反面、政策金利上昇によって資金負担が増加するために、価格を必要以上に下げることは出来ない。

そうした一連の動きがいまこれから始まろうとしているわけで、それがある程度進んだ段階で雇用に影響が出てくると思う。GAFAとかの企業では雇用削減の動きも出始めたけれど今回各企業ともに雇用の確保で苦労しているから、最後の最後まで雇用は弄れない。

そうしてインフレ高止まりの中、企業業績は落ち込んでゆくのは確実で、急激な利上げの影響が出始める今年後半から来年いっぱいはリセッションということになる。

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FRB政策金利の目途は5%

瓜二つだわ!議長が同じセリフを来年春には・・・

FRBの政策金利目標は、年末までに3.25ー3.50と言われているが、それはFRB利上げ上限であり来年は利下げに転じるというのが市場の見方だった。それが昨夜の雇用統計で3.50ー3.75に変わったと言える。FEDの9月利上げが0.500p優勢0.750p劣勢だった予想が一気に0.750pに期待値が傾いた。

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いま雇用が予想外に堅調ということはつまり、来年の利下げタイミングが後ずれしたと言うことになる。利上げの影響はマクロ的に市場に浸透するまでの最低半年から9カ月はかかるわけで、年内の利上げの影響は2023年6月から年末にかけて米国経済に浸透してゆき、その時点でインフレが抑制できている場合は、利下げを検討するという状況だと思う。なので、少なくとも市場が織り込んでいる来年3月の利下げはあり得ない楽観論なのだと思う。

仮に3月利下げとなるような状況とはつまり、ここから景気が急激に悪化して株価もより深い底値模索となった場合であって、さらにその上インフレが我慢できるほどに鎮静化していることが条件で、まさに現時点では絵に描いた餅と言える。

現時点で雇用が堅調であるならば、当然景気悪化のプロセスは急激に落ち込むことはない。したがってインフレ高止まりの構図は長引くとみられ、勢いFRBの金融政策が緩和に転じるタイミングを遅らせる。しかし、これが投資家にとってはもっとも厳しい状況であるのは言うまでもない。

分散しようが、どのような手法をもってしても、長期に株価が低迷するという状況を乗り切ることは、ファンドや機関投資家にとっては最も厄介なことであって、相場のボラティリティを選好するのは短期筋だけとなる。そうなると、大口投資家もまた局面によってはパフォーマンスを確保するために繋ぎ売りせざるを得なくなるので、今後も常に強い売り圧力に晒されることになる。

最終的にFRBはインフレ抑制のために、政策金利を5.000あたりまで引き上げざるを得ないのではないかと思うし、その時から株価はさらに深堀するような展開になるのではないかと思う。

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米国株式投資の局面が変わる

今年3月からの米国株の下落局面ではまずレバレッジの解消ということが行われた。過去の経験からレバレッジを解消を急がないと、致命的な打撃を受けることが分かっていたからだろう。上昇局面ではレバレッジは非常に有効な手段だったから、大きく使って当たり前であったので、延々と続いた金融緩和による上昇相場では、それこそ莫大な資金がレバレッジされて投資されていた。

ある程度レバレッジの解消が進んだ時点で、市場に底打ち感を演出して、損失補填をしなければならないから、当然どんな下落相場でも上昇局面は来る。レバレッジ解消とともにショートすれば、買い戻すことである程度の補填が可能になる。しかし、ある程度戻した時点で今後の景気が上向くか落ち込むかは、プロの運用者であれば分かりきったことで、ここからが本当にの実力の見せ所ということになる。

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レバ解消がある程度進むと、今度の勝負はピュアな資金勝負ということになるわけで、その場合大きなレバレッジを使って買い上がるという所作をするはずがないのだ。もちろん一部の資金はそうした跳ねた投資をするところもあるだろうけど、基本的には景気悪化が分かっている中で上を見ることはない。

そうした投資をしていない公的なファンドはみな国債に逃げる。株式の配当と国債金利でパフォーマンスの悪化を埋めるべく動かざるを得ない。

そうなってくると、今後の米国市場は、まずはレバレッジの解消に動き、さらにショートカバーで戻りもしたけれど、基本的には下値目線である以上、戻りにも限界がきて再び下落局面に回帰する。そして今度は企業業績を反映する業績相場へと移行すると思うし、その場合でもハイレバレッジ取引は行わない、というのが基本になる。すでに米国債2年物金利は3.2%に達していることを考えると、ステディな資金は債券に回る。今後FRBの利上げが継続すればますます、債券や優良社債を選好するだろう。

ここからは、米国株式市場は嫌でも下落局面での業績相場に向かわざるを得ない。さて、そうした状況の中で日本株はどうなるか・・・。今日明日にも自分の見方をレポートしたと思っています。