今後の日本市場のポジションを再確認する
- 2022.08.07
- トレード雑感
順調に上昇相場を形成してきた日経平均は、さしたる理由もなく週末にはあっさりと¥28,000をクリアし、なおも高値追いを演じて¥28,175で引けた。もちろん好決算を好感した資金が強気に買い向かった結果であって、金曜の決算が出そろった段階で日経225EPSは遂に¥2,208となったことや、¥243高してなお前日と変わらぬPER(12.76)となったことからも、買いは短期的には正解だったのかもしれない。
従って、今まで日経平均の株価の戻り目安をEPS¥2,200と想定してPER13.0、¥28,600からPER13.5、¥29,700と考えていたわけだが、残りの決算でEPSが¥2,300まで上昇すれば¥29,900~\31,000と考えても不思議ではない。
いずれにしてもそうした想定は個人的な勝手な計算でもあるし、外部環境や為替がいまの条件を維持しての話であるわけで、そうした目論見は外れることの方が圧倒的に多いとは思う。
ドル円と企業業績
8月4日までに決算発表(1Q)をしたTOPIX採用企業のの第1四半期決算は、営業利益が▲3.5%、経常利益△16%(いずれも前年同期比)ということで、基本的に日本企業の業績もまたジワジワを圧迫され始めている。営業利益がマイナスで経常利益が大幅プラスということは、基本的に為替差益の恩恵ということになるわけで、日本株は外部環境頼みであることが分かる。
そして今後この営業利益は米中(欧)の景気減速によってマイナス幅が拡大してゆくであろうことは明らかで、その傾向はドル円が¥130ー¥135であっても止まらないと見ておくべき。ということはつまり円安の恩恵を思い切り受けた1Q決算の内容がほぼほぼピークに近い数字であって、今後営業利益は2Qは1Q並みか若干の下振れ、3Q以降は悪化という経緯とたどるとみるべき。決算数値はドル円の影響を反映したものであるから今のドル円レンジ¥130-¥135は極めて重要なのだと思う。
したがって考え方としては、今後の2Q~4Qの決算で、¥130-¥135のレンジが維持されれば1Q並みの為替差益が出る条件をクリアするということ。もちろん、企業が今期予想を修正し、想定レートを変更した場合は別であるけれど、その場合でも基本はそう考えていいはずである。そのうえで、本業の営業利益が変化した場合その変化率によって為替差益も変化すると見ていると、あまり間違った見方にはならないはずだ。
営業利益は海外情勢とほぼ連動する
残念なことだけど今の日本の製造業の場合、特殊な技術や革新的なビジネスモデルによって業績を大きく変貌させる力のある企業はほとんど見当たらない。特にそれが日経平均採用銘柄のような主力企業の場合には、国内経済の状態からしても、業績の大部分は輸出に依存することになる。したがって、これらの企業業績を考え予想する上で海外の景気動向は絶対に無視できるものではない。
まさにその点が日経平均と米国ダウ、S&P500、NASDAQとの連動制が高くなる主要因でもあるわけで、日本株の難しさはそこにドル円の変化が加わることに尽きる。また米国株とて常にファンダメンタルズで動くわけでもなく、時にはテクニカルで、センチメントで、需給で動くという側面があるわけで、その時点でのフェアバリューという考え方が非常に重要になってくる。
そうした流れを日々観察することで、日本企業の業績の変動をある程度予想出来ないと、少なくともロングの出動は非常に難しいと言わざるを得ない。
日本企業はリテールで勝負できる製造業は、悲しいかな自動車とゲーム機、空調機くらいしかなくなってしまった。かつての家電は言うまでもなく、スマホ、太陽光パネル、液晶パネル、等々はことごとく敗退している。勿論、産業用機器の分野や素材・化学製品、一部の医療機器等ではトップシェア企業も多々あるにしても、そのほとんどが企業の設備投資に依存しているわけで景気敏感と言っても過言ではない。
そうした状況のなかで、ドル金利の上昇に対して影響が出ないはずもなく、また海外の景気後退に関しても大きな影響が出るはずで、そうした産業構造的に考えて日本株が世界の中で独歩高となる理由は何処にも見当たらない。
難しい日本株の外部要因
日本株の動きを複雑にしているもう一つの要因は、日本企業の輸出国が中国・米国に偏重していて以下欧州、韓国、アジア各国と続く構造であるとだ。日本市場の投資構成の点で米国市場と連動性が高いわけだが、企業業績となると俄然話が変わってくる。米国景気の後退もネガティブ要因になるけれど、むしろそれ以上に中国、韓国、欧州、アジア各国の景気状況が大きく業績を左右する。
とういう意味では直近もっとも監視しないといけないのが、中国経済であって、それはまた米中関係にも多大な影響を受ける可能性があるという事。その意味では現在の中国経済における不動産バブルの崩壊がまずはリテールに影響し、そして財政的な問題から人民元建て支払いに移行されるリスクは決して少なくないと思う。ただでさえ中国経済の抱える債務は膨大で、この半年間に中国政府は米国債を大きく獲り崩していることからも、ドル決済がタイトになっている状況を示している。
ウクライナに侵攻したロシアの例もある通り、世界情勢が大きく変われば、膨大な債務を抱えた中国と、人民元に対する信用供与も命取りになる場合があって、仮に中国がそんなことになれば日本経済はほぼ壊滅すると言っても決して過言ではないはずだ。
その辺の理屈はロシアから天然ガスを干されてこの冬のエネルギー調達の目途が立たず、極めて厳しい状況に陥っているドイツ経済が参考になるかもしれない。
またお隣の韓国経済は、現時点でほぼ壊滅していると言ってもいい状況。家計債務は極めて高く半数以上の家計が実質的な破綻状態にあるとともに、ボーダーと見られていた1,300ウォン/$を優に超えて対外収支が悪化していることも含め、ほぼ財政は破綻しているとみるべきだ。悪いことに韓国経済は近年対中依存度が増してきていたわけで、半年後には再度のIMF管理もあり得ない話ではない。
ウクライナ問題で欧州はリセッション入りは確実になっていて、さらにアジア各国はドル高の影響で極めて厳しいインフレと財政危機に陥っている。
ここで一番の問題は、日本企業の対中依存であって、連結決算では固定レートの人民元はドル高になっている以上プラスに作用しているものの、いざとなったときその資金の自由な移動は出来ないというのが最大のリスクとなる。ロシアがウクライナに武力侵攻するということが現実となった以上、そして今現時点でも米国のペロシ下院議長の全く意味不明の訪台によって中国は実弾による軍事演習を実施中で、報道はされないものの7日まで日本のシーレーンは実質的に封鎖されてしまっている。
こうしたことを含め、日本経済はただ「円安で潤っている。株価が上昇している」と手放しで喜んではいられない地政学的リスクが極大化しつつあるのだ。
日本株の独歩高は空想の産物
ある銘柄に買いで投資をした個人投資家は誰もが、その銘柄の株価が上昇し大きな利益を得ることを夢見るだろう。そして投資してから彼はその銘柄が如何に有望かと自分に言い聞かせ、そしてその予想を他人に聞かせて自分を納得させようとするかもしれない。けれどそれはまさにポジショントークであってその期待値を多くの投資家と共有できるようなものではない。
ある評論家は、日本株は世界の中で独歩高してゆくと、この状況で日本市場がブルマーケットになると力説していた。そしてその根拠は?と言えば¥140、¥150になる円安だと言った。であるならFXで投資した方がいいのでは?と突っ込みたくもなる。
個人的にはここ2,3年、米国のブルマーケットの様子を見るにつけ、ロングの投資に切り替えるべきだ、と何度も考えたけれど、結局は現物株を買うも、すぐに売り払っていた。つまり、日本市場、日本経済のリスクがあまりに大きすぎて持てないのだ。
中には年利10%を超える船株のようなある意味「突然変異株」もあって、昨年は船株をロングすれば余裕で年10%の配当がある、という話も出たけれど、船株でさえロングする気になれなかった。理由は船株がそうなったのは新型コロナという偶然の産物であって、萎むのもあっという間だと言うことが想像できたから。しかし、いまだにコンテナ市況が高止まりし、さらに利益を伸ばしているわけだが、それでも短期以外に取引はしないし、欲しいとも思わない。
日本株はもう少し!?
今の状況からしてすぐに大崩れするような事態はなかなか想像できないし、今少し¥29,000を目指すような動きが継続するかもしれない。けれど1ヵ月の上昇もいざとなれば3日で下げるのが株式投資であると言うことも、常に考えておかないといけないと思う。
それでも株式が買われるのは、そうなっても別に気にしないしいつかは戻ると考えられる筋金入りの投資家だけなのだと思う。そしてウォーレン・バフェットがそうして巨万の富を築いたのも事実だから。
けれど自分はそうした投資は出来ないし、したくもないし、世界の投資家が血眼になって斬り合うような、そんな株式市場の在り様をもう少し、味わって引退したいと思っている。所詮ただの還暦のジジイなのだからね。
ただし、くれぐれも株式市場は今、危険地帯であるという認識を忘れない方がいいと思っている。
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