サプライズになった米1月雇用統計への懸念

サプライズになった米1月雇用統計への懸念

この経済状況で米国の雇用が発表された統計通り大幅に増加したというのなら、米国の投資家やアナリストのみならず、米国経済から影響を受けるすべての国が、今以上の懐疑と困惑に引きずり込まれることは間違いないと思う。何十万という米国大手企業のレイオフの最中、米国の雇用は増え続けていて今夜は予想をはるかに超えた統計が示された。これをどう理解していいのか、全く分からなくなってくる。

米雇用統計の疑問

22:30 (米) 1月 非農業部門雇用者数変化 [前月比] 22.3万人 18.5万人 51.7万人
22:30 (米) 1月 失業率 3.5% 3.6% 3.4%
22:30 (米) 1月 平均時給 [前月比] 0.3% 0.3% 0.3%
22:30 (米) 1月 平均時給 [前年同月比] 4.6% 4.3% 4.4%

一説によればこの米国労働省労働統計局の発表する非農業部門雇用者数は、雇用数の調査を民間委託して電話やネットでの聞き取りでまとめるものだそうな。そしてそこには個人の重複雇用がすべて反映されることになってしまうという、調査の重大な欠陥があるということだ。つまりある人が仕事を掛け持ちすれば雇用者数は2とカウントされてしまう。インフレが厳しくて、生活のために副業を余儀なくされることは、いまや常態化していると言われていて、その上ネットでアルバイトしさえすれば、雇用は3となってしまうという。

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昨年は、あまりに雇用がブレるので、年明けの調査は従来の調査方法を変更すると言われていたのだが、それが行われたかは分からない。けれどこうした調査方法が現状でミスマッチであるかどうかは早々に調査され議論される必要がある。さらに今の調査方法は「法人の調査」と「個人レベルの調査」が行われていて、雇用統計として発表されるのは「個人のアンケート調査の結果」だということで、毎回ここにも大きな差異が生じている。

だからと言って今夜発表された雇用統計がミスしているとは言えないけれど、もちろんこの時代なのだから副業をカウントするのは間違えとばかりは言い切れない。新型コロナによって社会構造が大きく変化していると思えば、外出も出来ずに自宅勤務となってインフレが急激に進むとなれば副業するのも当たり前の状況と言える。実際コロナ以前とコロナ以後では、生活が激変していることにみんな薄々気付いているはず・・・。

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俺はもう一般の職業からリタイアした古い人間なので、いまだに在宅勤務が成り立つことさえ理解できていない。SNSやメッセージアプリ、ズーム等のリアルタイムコミュニケーションがあれば問題ないという意見もあるけれど、だったらそれらすべてをAIで判断してしまえばいいだけのこと。対面で実際に相手の表情を見ながら、心理的な駆け引きをするというビジネスが必要とされない時代なのだろうか?人とのつながりの中で何とか組織として機能させてゆくことは、本当に大変なことだというのを身に染みているから、その苦労なしに組織が成り立つとも思えないし、何よりどうやって人を育てたらいいというのだろう?

一流の職人に弟子入りして技術や技能を習得しようとして、師匠がズームを認めるだろうか?それで技術の継承が可能なのか?もっと言えば、師匠の長所や短所を認めながら、気持ちを整理しつつ、精神的に必須のものを見出すという行為なしに、安易に継承など出来るはずがないのだ。

けれども大企業のデスクワークは、リモートで十分可能らしい。そしてそれでも大企業の業績はリモートが原因で落ち込んだりはしていない不思議。だったらそれはAIで十分代替可能なのだと思う。

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FRBへの信頼が揺らぐ

話は米雇用統計と相場に戻すけれど、仮に今夜の雇用統計を「ここまで雇用が強いのか!?」って素直に受け取るならば、景気後退もそこそこに米国経済はリセッションなしに回復軌道に乗ると考えて自然だろうね。もちろんFRBのパウエル議長がタカ的な発言をして「油断できない」と警告を発しても、投資家はもはや聞く耳を持たないのだろう。実際そう考えるのも分かる気がするんだよね。

FRBは本当に経済をジャブジャブの緩和マネーで下支えてきたし、新型コロナ時にはマネタリーベースを4倍にも底上げて、もはや付け焼刃のQTではどうにもならないほどのマネーで溢れさせてしまった。これが外的刺激によって急激なインフレをもたらしたわけだが、今度は急激な利上げでキャッシュや金融資産等々あらゆる資産に気前よく金利を付け始めたわけで、それは所有者にとってはまさにバラ色の日々なのだろう。

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企業や個人にとって借り入れ負担は急激に増大するものの、同程度のキャッシュがあるのなら金利負担は相殺されてしまうのだ。なので、パウエル議長が懸念しているインフレの再燃は大胆にQTを行わない限り、常に傍らに同居していると言える。それに輪をかけて株価が上昇し、労働賃金が増えたのなら、個人消費がなんとかギリギリの線で持ちこたえるかもしれず、それがすなわち市場が待望しているソフト・ランディングなのだと思う。

けれどもその代償は、インフレの高止まりであり、再燃でもある。つまり新型コロナ後の社会は、高コスト社会になるということかもしれない。FRBのQTがほとんど効果のない水準で推移して、その上日銀が金融緩和を継続していくと、此の先にあまり良いことは待っていない気がする。

株式市場の行方

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なので雇用統計の数字だけで株価が上昇するというのは、もっとも危険な兆候になる可能性がある。いままで低金利下での金融緩和で米国経済は異例のハイペースで信用創造を続けてきた。しかし、高金利になればそれが停滞するのは明らかでそうなるとどう計算してみても、米国経済の成長が止まる。それが急激な鈍化ではなくて長期間にわたってジワジワと来るものならば、株式や債券のロングは年々パフォーマンスが低下する。いままであまりに多くのゼロ金利、または超低金利マネーを市場に供給し過ぎたわけで、それが高金利にいつまで耐えられるか・・・。現実にはキャッシュよりもはるかに多額な債務が積まれているわけだから。

その意味で、今回問題になったインドのアダニ疑惑は、インド経済のみならず、多額のドル建て債務、ドル建てデリバティブに影響するかもしれない。懸念があるので調べ始めたけれど、アダニグループ企業の時価総額が14兆円溶けたという表面上の問題ではないわけで、金融の連鎖事故につながる可能性も高いと思う。中国にとっての恒大集団がインドにとってのアダニグループであって、少なくともインドは不正や疑惑を隠せない資本主義であるからだ。

雇用統計サプライズで円安に成り、日本株は揉み合いをブレイクする可能性が濃厚にはなったけれど、これで本当に「節分天井」を付けたな、という感じが遠のいた。来週は日銀新人事案が公表されるけれど、その結果それをどのように市場が解釈するかでドル円が決まり、日本株が決まってくる。ドル円次第の日経平均の上値は分らなくなったね。何処まで行っても日本市場はドル円次第だから。