市場に織り込まれない最大のリスク

市場に織り込まれない最大のリスク

株式市場は一体何を見ているのだろう? 今、日本市場を見渡して最大の違和感は何かと言えば、個人的には高配当銘柄ばかりが物色されてる印象が非常に強く、印象的なのは船株3銘柄の強さや、日本製鉄や石油資源開発といった銘柄が一本調子で上値追いを続けていることに対して、奇異な感覚が拭えないとこだ。

日本市場に現れた僅かな異変

船株に関しては9104商船三井16.0%、9101日本郵船14.77%、9107川崎汽船12.15%という考えられないほどの高利回りとなっていて、今後の業績がネガティブということで?ここに空売りがどんどん積まれていてすでに3銘柄とも売り長に転換している。業界関係者は高配当を当て込んだ個人投資家のNISA買が集中していると解説しているのだが、ではこの強烈な売り玉は単純に業績懸念で入っているのだろうか?という疑問は禁じ得ない。流石に何か理由がなければPERが僅かに1倍台の銘柄を売り建てしようという発想は出てこないだろう・・・。

5401日本製鉄は経営構造改革が成功しつつありこうして大相場になっていて、来期は減収増益の見通しながら中国経済の不安感からここまで買える銘柄とも思えない。ただ3Q決算を発表して以降、現行株価でPER4.25、利回り5.80%は需給を無視すれば十分魅力的な水準ではある。そして日本製鉄と同じく独歩高相場を続けている1662石油資源開発もまたPER4.60、利回り6.50%という同様の割安感を持っているとは言え、業績に関しては為替の影響も含め不確実な要素が多いにもかかわらずだ。相場になっていると言えばそれまでだが・・・。

一方で強いと言えば明日日銀新総裁に指名された植田氏の会見を控えているメガバンクを筆頭にた金融株なわけだが、こうした株高を投資家はどこまで容認するのかは、個人的には疑問が残る。仮に新たな金融政策に関する指針を植田新総裁が示唆すれば、再度上値追いもあり得ると思うけれど、これまでの株価の動きからして調整は必要だと思っているけれど、いずれにしても今の日本市場を牽引しているのが金融株であることは疑いの余地はない。

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株式市場の楽観は大きなリスク

さて米国市場は雇用統計や景気指標が好調ということで、インフレ再燃の危機に直面している。FRBの利上げに関してもターミナルレートが年内5.25~5.50に上昇すると市場は織り込み始めているけれど、強気派の勢いは衰えないといった状況にある。そして米国経済はハードランディングは確実に回避でき、ソフトランディングさえもないかもしれないという強気に傾きつつありノーランディングという意見も出始めている。個人消費の悪化、個人のファイナンスの悪化、不動産市場の崩壊、自動車ローンの焦げ付き等があっても、雇用統計さえしっかりとしていれば乗り切れるというまさに楽観論が株式市場に根強くはびこっている。

米国市場がそのような状況であるから、日本市場もまたEPSの低下にも関わらず市場は強気のままだ。思ったほどに円高が進まず、また思ったほど企業業績が悪化していないというのが一つの理由であり、高配当化した主力銘柄に買いが途切れないという事情もあるかもしれない。しかし、日本市場とて今は楽観相場であることは疑いの余地がない。世界景気が予想よりも悪くならないなら、円高が進まないなら、企業業績も悪化しないだろうという楽観。折から3月は期末配当権利取りを控えていて、NISA枠で高配当銘柄を狙おうという動きも確かに感じられる。がしかし、日本株の先高観を示す材料は、外部要因以外に何一つないのが現実だ。

そうした日米株式市場の動向なのだが、少なくとも今後米国経済はクラッシュする要因ばかりに満たされているし、中国経済の悪化を考えると日本企業の主要輸出先の経済が後退するという局面であることを、市場は忘れようとしている。4月以降国内では電気料金を筆頭に値上げラッシュが本格化して、国内個人消費は疲弊する。米国でも1月の雇用統計の数字がフェイクであったことを思い知らされる事態になる。すでに、米国の個人消費は崩壊していると言っても過言ではない。日本でも6割以上、米国では7割以上、GDPを構成するのは個人消費であり、日米ともに個人消費は崩壊前夜の様相なのだが・・・。

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織り込まれないリスク:第五次中東戦争

さて世界は今、新たなリスクに目を瞑り続けている。少なくともロシアーウクライナの戦争は泥沼化してすでにロシアと西側先進国の代理戦争と化していることが、資源や穀物といったコモディティの上昇で世界経済を徐々に蝕んでいるのだろう。だが、ここで、さらなる極めて重大なリスクが急激に膨張を始めていることを一部の投資家は意識し始めているのではないか?

現時点で株式市場のみならず世界経済が直面する最大のリスクこそは、イスラエルとイランの開戦であると個人的には考える。バイデン大統領は就任以来、トランプ前大統領が脱退したイラン核合意の再構築を目指したことで、サウジアラビアとの友好関係を台無しにしてしまった。同時にトランプ政権が積極的に支援したイスラエルと距離を置くという立場をとって、中東を視野から外す政策を行っているが、その結果イランは格濃縮を継続し、遂には84%濃縮に達していると、国際原子力委員会は警告を発した。

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その意味するところは核開発が現時点で間もなく完成する、自前の核爆弾を保有し、中東に新たな核保有国が誕生するという危機的な状況に直面している。そしてイランから武器購入をしているロシア・プーチン大統領は昨日、米国との「新戦略兵器制限条約(新START)」の履行義務を停止すると宣言した。核兵器の保有数量は遵守するが削減には応じないという姿勢である。タイミング的にイランが核開発を成就し核保有国となる時期にこの発表を行うのは決して偶然ではないと思う。

これに対してイスラエルの首相に返り咲いた対イラン強硬派のエタニアフは、イランの核保有を阻止するためには「今現時点しか残されていない」として、イラン核開発施設への空爆を宣言した。すでに昨年秋から年末にかけてエタニアフ首相はサウジを含めた湾岸諸国に対し、開戦を宣言している一方、イスラエルを排除することはイランの国是であることを考えると、まず間違いなく開戦は避けられないだろうと個人個人的には予想している。

イラクのクェート侵攻による湾岸戦争やその後のイラク戦争は起こったが、地理的にイスラエルとイランが直接ぶつかればこれは中東諸国を巻き込んだ第五次中東戦争になる可能性が高く、仮にそうなるとエネ価格は暴騰することになる・・・。日本の原油の8割以上がペルシャ湾・ホルムズ海峡を経て輸入されている現実、そして欧州はアラビア海・スエズ運河を経て輸入しているという現実。第五次中東戦争勃発となれば、日本経済はパニックに直面するのみならず世界経済が崩壊する危機に直面することになる。折しもロシアーウクライナ戦争の最中なのだ。

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僅かな兆候を紐解けば・・・

こうしたリスクが決して夢想ではないからこそ、ある意味日本の海運株に大量の空売りが入っているのではないかと想像してしまう。当然そうなれば、相場的には原油価格や天然ガス価格がぶっ飛ぶことになるけれど、一時的には石油関連株もぶっ飛ぶ可能性はある。しかし、同時に世界中のマーケットは大暴落するし、原油を買えないエネ株も暴落は免れない。妄想に近いと言われればそれまでだが、現実に北朝鮮はイランへミサイルを売り込みたいがためにこのところ発射実験を頻繁に行っているではないか!

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世界の誰もが、ロシアのウクライナ侵攻を直前まで予想できなかった。この時代に大規模な戦争など起こるはずがないと思っていた。しかしすでに起こり得ない新型コロナの感染流行という事態に直面していたではないか!そしてプーチンはウクライナに侵攻し、いまだに悲惨な戦闘を続けている。

イランの宣言で国家の存亡に関し危機的状況と考えるイスラエル、経済制裁で徹底的に追い詰められ、ヒジャブ事件で暴動が繰り返し発生し追い詰められたイラン・イスラム政権が、ぶつかり合うことの方が、ロシアのウクライナ侵攻よりも必然性はあると思うのだが・・・。

さらにはロシアのウクライナ侵攻によってエネ価格が暴騰し、産油国は我が世の春を謳歌している。新型コロナ発生初期にマイナスまで落ち込んだ原油価格は、一転して$150にまで上昇し莫大な利益を産油国にもたらした結果、従来では考えられなかったほどの強い経済的影響力を産油国が持つに至った。特にサウジアラビアは経済的には先進国を凌駕するほどの財力を得た。昨年行われたカタールワールドカップに際しカタールは20兆円以上の投資を行って準備したと言われている。

果たしてこうした世界の勢力図を塗り替えるような変化を国際金融資本が受け入れるだろうか?歴史は必ずそうした勢力を把持する方向で動いてきた。ソ連然り日本然り、そして中国もまた然りである。サウジが先進国を凌駕するほどの経済力・影響力を持つことに快く思わない勢力は必ず存在する。そうした勢力はエタニアフを利用するに違いないと思うのだが・・・。