トヨタを含め絶望的な日本の自動車メーカー

トヨタを含め絶望的な日本の自動車メーカー

日本の自動車産業は今後衰退の一途を辿ると思う。そしてそれは残念だけど現時点では日本経済の未来が明るくないことを示唆していると思わざるを得ない。世界は全力を挙げて日本の自動車産業の地位を奪おうとして、意味のないEVシフトを推進しているわけで、多くの従来技術を蓄積する国内自動車メーカーはその優位性を捨てたくないという気持ちと、従来のレシプロ車を生産するための産業構造や生産システムをどうするんだ?という懸念を理由に、本気でEVシフトを受け取ってはいなかった。それはつまりは全自動運転に関してもまだまだ半信半疑の状態でいることがよく分かる。

恐らく世界のEV化の潮流は、政治的にも経済的にもすでに止めることが出来ない状況だろうし、米欧中ではEV化に全力を挙げて突き進んでいる。しかし現時点で世界首位の生産台数を誇るトヨタのEV世界シェアは2022年で2万台、0.3%と1%にも満たない状況だ。トップシェアは米国テスラ、2位以下は中国・比亜迪(BYD)、中国・上海汽車集団(SAIC Motor)、独フォルクスワーゲン(VW)と続き、EV合計800万台としてもトヨタは400分の1でしかない。

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またEV用バッテリー(リチウムイオン)に至っては、中国・韓国が世界の80%以上を占めるという散々な状況で、パナソニックはもはや競争にさえならないというのが現実なのだ。折からの半導体不足も含めて考えると、希望の持てるのは日本電産の世界シェアトップ(12%)のEV用モーターだけと言える。つまり従来の自動車と共通の部品は問題ないとしても、EV用バッテリー、半導体、そしてソフトウエア開発においてはもはや、国産EVを満足に作ることさえ不可能というのが現実である。

トヨタ自動車は電撃的に社長交代を発表した。そして佐藤新社長は今後EVへの路線変更を高らかに宣言してみせたものの、日本には充電ステーションですら満足に設置されていない状況で、EVは実用に足りていない部分が明白であることも考えると、急速な普及は現時点ではまったく望めない。EVは環境負荷が少なく・・・といったお題目が先行する反面、折からのエネ価格の高騰で発電の環境負荷の方がはるかに大きいという事実まで明らかになって、EV普及にブレーキがかかっている。そしてそもそもEV普及を実現するための発電能力がまったく追いつかず、政治はこの問題の解決を一向に図ろうとはしていない。

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つまりは、いざ自動車メーカーがEVを本格生産すると決めたところで、半導体不足、電池不足、ソフト開発の遅れ等で手も足も出ないし、充電ステーション不足、発電能力不足で国内での普及はほぼ絶望的な状況なのだ。こうした点を踏まえればEV生産に後れを取った国内メーカーだが、現状は従来のレシプロ車、ハイブリッド車さえ満足にデリバリーできていない状況がある。ディーラーに発注しても1年待ちは当たり前、車種によっては3年、4年待たないと納車にならないという、極めて深刻な状況が今なお続いていて、解消の目途も経たない状況である。

生産台数世界首位のトヨタは、その企業体質こそが日本経済のデフレ化を先導したと言っても過言ではない。今となっては悪名高いトヨタ生産方式によって本来負担すべき在庫負担をすべて下請け業者に押し付けたと同時に、解消しようがない交通渋滞を工場周辺にまき散らした。「必要な時に必要な部品を必要なだけ納入させる」というジャストインタイムという自己中心的な生産方式を導入することによって、莫大な利益を上げているトヨタは、正直に言えば苦役を強いて厳しい年貢を取り建てる悪代官となんら変わりはない。先日そのことをトヨタの1次納入業者であるデンソーは厳しく糾弾された。

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豊田章男社長は、新型コロナ禍の決算において、生産が厳しいにもかかわらず涙ながらに利益目標を達成できたという浪花節会見を行ったけれど、それは裏を返せば新型コロナ感染流行で大揺れに揺れた時でさえ、下請け企業には厳しいコストダウンを要求していたということに外ならないわけで、日本経済を守ろうとするのであれば財務的に盤石なトヨタが赤字決算をしてでも下請け企業を救うべきだったと思うが・・・。社長の視線は言葉とは裏腹に自社の社員と株主に向いていたし、日本経済を支える巨大企業の社会的役割を果たすという視線ではなかったのが極めて残念だった。

世界最大の自動車メーカーに成長したトヨタは、全世界で40万人近くの社員を要する巨大企業で、その家族、そして関連産業に携わる従業員や家族を考えれば、その影響は数千万人に達すると言われ、なおかつ経済的な影響は数億人に及ぶと言われている。もはやトヨタのトップの視点は、今後の産業構造をどう変革してゆかねばならないか、という視点を失うことは許されない。その意味でトヨタがEV戦略に大きな後塵をはいしたことは、今後の日本経済にとって致命的な影響があるし、若い佐藤新社長にそれを望むのは無理があると言わざるを得ない。

確かに豊田章男社長の「EVは正義なのか?」という疑問には賛同できる。EV化による産業構造の変化やインフラ整備の整わない中での急進的な戦略は業績を伴わない可能性が高い。日本の政治家が社会のインフラ整備を優先させる可能性は低く、欧米のような政府政策によるインフラ整備は望むべくもない。日本の政治家は現時点で大きな利益を上げている自動車産業に満足なのだろうし、少なくとも将来を見通して政策実行をする政治家がいないという不毛状態だ。そんな中で、民間だけでEV化を急速に推し進めることが正義なのか?という疑問もあるだろう。

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しかし事実として、トヨタがEV化を推進してこなかったこの10年間で、日本の自動車産業は世界から取り残されたと言っても過言ではない。その間テスラは着々と成長し、レシプロで転落したGMはテスラを抜くと宣言した。中国のBYDは世界一の生産数を達成するつもりだ、と意気込み欧州に輸出攻勢をかけている。そんな中でトヨタはこれからEVを重点的に推進する構造転換を佐藤新社長が行うという段階である。

ホンダは2050年にはすべてのパワーユニットを電動化すると宣言したのが昨年の話。その意味では電動化の推進はトヨタと同レベルである。片や先日ルノーとの出資比率変更で合意した日産は、少なくとも国内メーカでは最もEV化に熱心であるが、昨年の日産、ルノー、三菱自工3社連合での2022年にEV販売実績は28万台程度にとどまる。それでもルノーの新会社出資によって、トップ10を目指す体制に参加は出来た。がしかし、日産単体では現時点でも正解市場では問題外のレベルなのだ。マツダは基本的には単独開発をこれから本格化させるとし、SUBARUはトヨタからの技術供与で、と言うことだからトヨタと同じゼロベースだ。

こうしてみると、EVの世界競争で生き残れる日本の自動車メーカーは現状ではほとんど見当たらないと言えるし、その視点からは日本経済の将来に明るい未来は描けない。