矛盾だらけの米国経済:ソフトランディングの根拠は見当たらず・・・

矛盾だらけの米国経済:ソフトランディングの根拠は見当たらず・・・

毎週のように時間のある限り、日米マーケットを取り巻く情勢を調べる生活がもう何年になるだろう・・・。勿論翌週の投資方針を自分の中である程度固めるためにやっていることだけど、もしも自分がアナリスト業だったらもっとうまい文章でたくさん情報を書いて、読んでもらえるといいのだけれど、自分は投資家なのですべてポジショントークになってしまう。なのでそこには願望がたっぷりと入ってしまうんですよ。

なのでこのブログで書くことはすべてポジショントークになってしまうというのを前提で、読み流してくれると有難い。敢えてポジションを書いているのは、ポジションそのものがリアル相場をどう考えているのかを表現するためで、くどくど文章を書くよりも分かってもらえると思うからです。買った負けたはいいとして、その時にリアルでどう考えていたか・・・本来それを伝えることがリアルなポジショントークだと思うのでね。

それでも最近は、本当に調べれば調べるほど、嫌な気分になることが多すぎて困る。この週末一番嫌な感じだったのは、最近の株式市場(債券市場もだけど)に対して出てくる情報があまりに偏り過ぎてるのではないか?と言う事です。それはウォール街が配信するニュースはもちろん、FRB関係者の発言や当局が発信する雇用統計や、PCI、PPI、PCEといった物価関連の指標や小売売上高、消費者信頼感指数などの消費関連の指標とかも、本当に(統計的に)理にかなったフェアなものなのかという疑問です。

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米国経済は好調なのか?

FRBが歴史的にも例がないほど急激な利上げを短期間に行った結果、政策金利はほぼゼロ金利から5.25-5.50%に僅か1年半の間に誘導された。コロナ禍による急激なインフレ鎮静化のためとは言え、仮にコロナ禍がなかったとして平時でもしもそうした利上げを行ったなら、当然金利負担が急増し企業も家計も経済活動が急激に委縮するに決まってると思うんだよね。企業は5%の純利益を叩き出すのはかなり難しく、個人の賃金も一気に5%は増えるはずがない。

でも米国を襲ったインフレは、2022年には前年比で8.5%まで上昇して、以降低下しているけれどもそれでもまだ高インフレになった前年同月からさらに3.7%も上昇しているわけで、現実にはそれに見合う経済成長は全くしていない。だからどうして今、米国経済は底堅い、好調と言えるのだろう?って不思議で仕方ないんですよ。

この状況で唯一合理的な説明は、消費者が預金や、金融資産、を取り崩しまくって、クレジットカード・ファイナンスを使いまくって消費してるということだけど、本当にそんなことしてるの?っていう感じだけどね。

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コロナ禍での米国政府の給付金が一律35万円くらい出たらしいけど、そんなの米国の消費を考えるとほんの僅かの期間で使い切るし、ましてその後のインフレを考えると微々たるもの。それがどうやって今の米国経済に寄与したっていうのだろう?収入が細ったから給付金が出たわけで、今の米国ではパートの最低賃金1ヵ月分だからね。

どう考えても解けないこのパズルなんだけど、最近は実体経済とかけ離れた統計のミスマッチがあるんじゃないかと思い始めてる。統計だから調査対象をコロコロ変えるわけにはいかないから、ここには低所得者層や貧困層は含まれていないんじゃないか?と言う疑問だよね。また中流と言われる層が今の生活をどうやって維持しているのか?というと、この層が一番苦しいんじゃないかと思う。物価高、家賃高、住宅ローンや自動車ローンの金利上昇とあらゆる値上げが襲ってくる層・・・。クレジットカードのデフォルトも自動車ローンのそれも、家賃の滞納も、住宅ローンも、低所得者層や貧困層には縁がないものだろうし、この層が最も学資ローンを利用してる。

俺なんかも強烈に貧乏の中で子供たち2人を大学に通わせた経験があるけれど、借金しまくって何とかして、奨学金だけは手を出さなかった記憶がある。多分、そんな生活を米国民の多くが今、味わってるんじゃないか?滞納なんかが始まると、もう歯止めがかからなくなる経験から痛いほどわかるよ。

もしも消費関連の統計がこうした現実をカバーしているとすれば、米国の消費は好調とは言えないはずなんだよ。もちろん数字にもはっきりと出てきてるはずだしね。

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だから、こんな状況だからみんな働くよね。雇用統計も調査対象がそのままならば、みんな必死だから完全雇用に近い水準が維持されてるし、もちろん労働参加率も上昇する。事情によっては掛け持ちすることも稀じゃないと思うんだよ。だからこそ、雇用は底堅いってことになるし、極端な労働者不足だったから求人件数もなんとかあるけれど、一時の1000万件台から800万件台に低下しているらしい。

賃金上昇は主にサービス業が中心だけど、製造業ではもう賃上げは出来なくなっている。だからこそUAWはストライキに踏み切ったのであって、米国自動車主要メーカーは30%の賃上げを飲めば、EV競争から完全に脱落する。日本同様に建設業は移民頼り。公共サービスは民間委託でここも移民頼り。もちろん統計の対象外だろう。

もしも米国経済が好調と言うのならば、警官不足から約15万円以下の万引きを軽犯罪として逮捕しないという奇妙な法律(州法)なんか出来るはずがない!ロサンゼルスやサンフランシスコ、ニューヨークの小売業は全滅に近く、そうした犯罪はもう防止しようがないほどの広がりを見せている。この傾向が各州に飛び火していて米国社会は荒れるばかりだという・・・。

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原油価格上昇を過小評価し過ぎ!

ロシアのウクライナ侵攻が始まった直後、資源価格は軒並み急騰し、WTI原油もまた高値$129を付けるという暴騰を演じたのは記憶に新しい。その後、米国を中心としたG7各国のロシア制裁などもあって、今年に入り原油価格は$70割れまで調整したわけだが・・・。

その裏には米国の定期的な戦略備蓄の放出があった。バイデン政権は米国の戦略備蓄からこれまでに2億6000万バレルを放出した結果、WTI価格は目標の$70前後となったが、ここから徐々に米国は日量300万バレルでの買戻しをすると発表した。けれど相場が上昇したために思うように買い付けられず、現時点での戦略備蓄量は約3億4000万バレルと推測される。ちなみにこれは1983年以来の低水準であり、米国の1日の消費量が1860万バレルであることから約18日相当分となる(世界全体の1日の消費量が約9000万バレルであることを考えると、4日分に満たない量である)。そしてこれは一度有事が起これば、全く対応できない量であることから、補充を急ぎたいのだが・・・。

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バイデン政権は外交の失敗から、サウジアラビアとの蜜月関係の維持に完全に失敗した。そのためにサウジの実権を握るムハンマド皇太子は、米国に対抗する産油国の同盟関係を模索し、ロシア、中国との連携を強化して実質的な原油の価格決定権を取り戻そうと画策した。

以下は2022年の原油産油国ランキング10だが、この8月にBRICSプラスを発足させ、太字の産油国が加盟している。

  • 米国:日量1,777万バレル(世界シェア18.9%)
  • サウジアラビア:日量1,214万バレル(同12.9%)
  • ロシア:日量1,120万バレル(同11.9%)
  • カナダ:日量558万バレル(同5.9%)
  • イラク:日量452万バレル(同4.8%)
  • 中国:日量411万バレル(同4.4%)
  • アラブ首長国連邦(UAE):日量402万バレル(同4.3%)
  • イラン:日量382万バレル(同4.1%)
  • ブラジル:日量311万バレル(同3.3%)
  • クウェート:日量303万バレル(同3.2%)

さらに20ヵ国以上が加盟申請を行っており、そうなればBRICSプラスはOPECプラスと合わせ、世界シェアの60%を押さえることになる。

一方シェールで世界最大の産油国となった米国は、ここ数年産油量は低下傾向であり、現時点ではカナダや南米からの輸入なしでは日量を賄えない水準に落ち込んでいて、戦略備蓄の購入は非常に難しい状況になっている。そのために、米国は水面下でなんと経済制裁中のイランと世界最大の埋蔵量を誇るベネズエラと交渉しているという、あり得ない外交を展開していると言われている。

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しかるに現在の原油価格の上昇は、サウジを軽んじたバイデン政権の失策以外の何物でもなく、自身の再生可能エネ推進政策と相まって、米国内のシェール増産は望めず、もはや石油戦略ではBRICSプラスに敗北するのは決定的となっている。

EU各国も備蓄放出で、需要を賄えない危機的な状況であることから、BRICSプラス、OPECプラスが原油価格を何処まで引き上げるのか?が極めて深刻な問題となっているとともに、原油価格の高騰によるインフレ再燃は確実な状況となっているのだが、このことをFRBでさえ、全く計算していないことに唖然とする。

外交は政府の仕事と言いたいのだろうし、その結果インフレが再燃したらその時に対応するだけというスタンスに変わりはない。実際それが後手後手のインフレ対策となったことは、明らかなのだが・・・。

サウジはとロシアは原油産出の自主減産に踏み切り、さらにサウジは年内継続を宣言し、ロシアは精製品の輸出を制限すると追加で発表したことでWTIは$90を突破したわけだが・・・、何処まで価格を吊り上げるかは、今となってはサウジ(ムハンマド皇太子)の胸先三寸であると言えるのかもしれない。

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ソフトランディング志向が裏目に!?

米国で議論されているソフトランディングの意味は、市場では曲解されているのではないか?と思う。米国のインフレ要因は資源価格高騰によるコストプッシュ・インフレとコロナ後のディマンドプッシュ・インフレが同時に発生したものだ。FRBはコストプッシュを抑え込むために急激に金利を上昇させ、QTに踏み切ったけれど、片やバイデン政権は景気後退を懸念して財政をますます拡大させる方向に動いている。

結局、FRBの主張するソフトランディングとは、政府支出拡大によって引き起こされるインフレを抑え込むことだ。だからバイデン政権が2024年の大統領選挙を意識し、得票拡大のために財政支出をふかし、得票のために移民を制限なく受け入れる政策を実施し、なおかつ外交で失敗を繰り返して原油価格が上昇し、インフレ圧力が強まることを、無理矢理抑え込むと言う意味だ。

だからFRBは長期金利を下げられないし、結局マネーストックも減らせないんだよ。

そもそも近年の米国は政治的な分断が激しく進み、所得格差の拡大も著しくなってしまった。その結果、もはや連邦としての中央政府の政策は、結果として極めて深刻な分断を助長していると思うし、景気対策は極めて深刻な偏りを生んでいる。

仮に金融政策を決定する統計までもが偏っているとすれば、FRBの金融政策は実態を把握できているとは限らない。バイデン政権は来年の大統領選挙まで財政をふかし続けることは確実で、そうなるとはたしてインフレが鎮静化するものなのか?という疑問がわいてくる。

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またインフレ再燃の兆候が見えるとしてFRBが利上げを今後も行えば、個人消費も雇用も付いてこれず失速してしまい、米国経済のリセッション入りは避けられないのではないか?と思う。というかもやは見方を変えれば米国経済はリセッションに突入していると言えるのではないか?

FRBパウエル議長も、イエレン財務長官も「米国はソフトランディングする」と発言している。がしかし、UAWはストライキを拡大し、バイデン政権はUAWを支持すると言い出しているし、下院共和党は10月から始まる新年度予算関連法案を緊縮不十分として可決しない姿勢を示している。その結果10月1日より政府機関停止の可能性が濃厚となっている。そこに今回の原油価格上昇が直撃するわけだ。

その上10月からが学生ローンの返済が再開され、金利上昇による個人ファイナンスのデフォルトが急増する可能性が浮上していて、いよいよ商業用不動産に関する借り入れがデフォルトし、地方銀行の破綻がクローズアップされかねない。

米国国民の大半がバイデン大統領の痴呆を意識しいる中で政権は、財政拡大を止めようとはしないという異常とも言える政策を継続する一方、FRBは正義感の塊のようにインフレ抑制を主張しているという、途方もない矛盾を個人的には感じざるを得ないのだ。