新ココム【ECRA】米国の厳しい中国戦略が始まる
- 2019.04.23
- 海外情勢
現在米国と中国は貿易、知的財産権、資本の自由化を巡る交渉の最中にあります。昨年から米国は貿易赤字削減の大義名分の下、中国に対し厳しい関税を課し、中国もまた報復関税を導入し、深刻な対立になりました。
2018年10月4日、米国のペンス副大統領は米国の対中政策に関する歴史的な演説をワシントンのシンクタンクであるハドソン研究所で行いました。
その内容は経済的な宣戦布告とも言える非常に厳しいもので、この演説を起点として米国株式市場は上昇トレンドを終了し、リーマンショックと同規模のクリスマス暴落を演じました。
米中交渉妥結間近を思わせるトランプ政権
米中の貿易戦争が深刻化し、その上ファーウェイのCFOである孟晩舟がカナダで逮捕されると事態は急激に悪化し、世界の株式市場で同時株安となりクリスマス暴落へと至ったわけです。
慌てたトランプ政権は利上げ方針であったFRBに圧力をかけて利上げ中止を発表させるとともに、連日の政権首脳による市場への口先介入を繰り返し、株価は反発。
以来トランプ大統領はもちろん、ムニューシン財務長官、クドロー国家経済会議委員長による連日の介入で米中交渉に対する楽観ムードが広がり、米国ダウは昨年10月のペンス演説直前の史上最高値に迫る勢いとなっています。
その前提は米中交渉の妥結ですが、3月初めの期限が、4月末になり、さらに5月といった具合に先延ばしとなっています。
中国は全人代で見せかけの法案を成立させた
一方の中国は、対米貿易黒字解消の一環として、米国の農産物の輸入拡大を手始めに、2030年までに黒字を大幅に削減するという提案を米国に提示し、貿易面では両国は妥結に至っていると言われています。
しかし、知的財産権侵害の問題や米企業の中国における資本の自由化問題では、合意妥結後の検証方法や不履行の場合の米国権限を巡って対立が残っています。
特にこの二つの問題に関して中国は3月の全人代で「企業が知的財産を搾取しないための法律」と「資本の半自由化を認める法律」を通しました。しかし、これらは見せかけのザル法にすぎず、実際の運用では他の様々な権限や法律のために適用が極めて限定されるものとなっています。
米中交渉は適用範囲の明確化と検証に関しての交渉が現在難航を極めているわけです。
米国の切り札はECRA(米国輸出管理改革法)
昨年8月に米国議会は、ココム規制に変わる3法案を成立させました。それが国防権限法、外国投資リスク審査現代化法、そして米国輸出管理改革法(ECRA)です。
米国におけるファーウェイ排除は国防権限法の規定によって米国に重大な国防上の影響がある企業の排除という形を取っています。そして(主に)中国企業が米国企業のM&Aによって技術を移転させることを防止するために投資リスク審査法を適用しています。
この2法によって事実上中国企業は米国での活動が不可能となりました。さらに米国からのハイテク製品の輸出に関しECRAを適応することで、中国ハイテク技術(中国製造2025)の壊滅を狙っています。
米中は水面下では戦争状態!影響は日本企業にも
このECRAは新ココムと言われるほど(対中国に対する)厳しい輸出規制を課すものです。
米国からの輸出はもとより、米国部品を使用した製品の第三国での輸出、そして中国人が関与する技術開発をも全面的に規制するというもので、多くの日本企業がそのペナルティの対象となる可能性のある非常に重要な法律ですね。
もちろん米国の特許を利用した製品がすべて対象になるということで、事実上電子部品や半導体関連部品は輸出不可能になる可能性があります。
またソニーのようにAIに関して中国と共同開発することや、自動車メーカーが中国生産を行うことすら、規制することが可能と言われていますので、日本企業の命運を左右する重大な法律であると認識すべきです。
米中対立は貿易問題が妥結したから終結ではなく、そこが始まりであるということかもしれません。
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