EU分裂の危機:主導権を狙うフランスとドイツの対立

EU分裂の危機:主導権を狙うフランスとドイツの対立

EUの凋落に歯止めがかかりません。求心力であったドイツ・メルケル首相のドイツキリスト教民主同盟と連立与党の民主党が、欧州議会選挙と地方選挙で大敗し、メルケル首相は2021年に退任を表明しました。

また健康不安が顕著で退任が早まるとの観測もあり、すでにEU内ではレームダック化しています。

次期欧州委員会委員長とECB議長人事

EUでは欧州議会に立法権がなく、欧州委員会での方針に対し承認権があるのみです。通常条約では各国議会が承認し、批准する必要がありますが、その役割を欧州議会がになっているわけです。

欧州委員会と欧州理事会

欧州委員長候補のフォン・デア・ライエンと現委員長のユンケル

欧州委員会は加盟国各1名の28名のよって構成されていて、その中からさらに上位に位置する欧州理事会によって委員長を指名するという複雑な手続きを擁します。従って、EUの統治機構は、基本的に欧州理事会を背景とした欧州委員長の権限が絶大となり、実質的には委員長の独裁と言えます。

もちろん、EU圏で最大の経済規模を誇るドイツの発言権が強大で委員長はドイツから選出されてきました。この秋に委員長改選となるにあたり、4名の後継候補をドイツは指名しましたが、それに意義を唱えたのがフランスのマクロン大統領です。

マクロン大統領は、欧州委員会の意見を集約し理事会が指名する可能性のあった4名の候補に対し、事前に反対を表明し、現在暫定案として、ドイツ国防大臣のフォン・デア・ライエンが浮上しています。この人事はドイツの苦肉の策でEU最大のサプライズであって、理事会の正式指名があっても委員会が承認しない可能性も残されています。そうなると、EUは政治的に完全の分断してしまう可能性があります。

ECB(欧州中央銀行)総裁

マクロン大統領とラガルドIMF専務理事

また、ECB総裁であるドラギの任期満了による改選で、フランスのマクロン大統領はIMF専務理事のラガルドを推奨しています。EUでは中銀の独立性を担保するために欧州委員会委員長出身国と異なる議長を選んできました。初代はオランダ、第二代はフランス、そして現在はイタリアです。

仮にラガルドがECB総裁になり、(マクロンが妥協したとされる)フォン・デア・ライエンが委員長に就任すれば、EUはフランスの影響力が極めて高い共同体になるとともに、金融の中心もドイツからフランスに移る可能性も出てきています。

ドイツ銀行の実質破綻処理

リーマンショック後、ドイツ国会予算の10倍とも20倍とも言われる天文学的なディリバティブを引き受けて、保証料を荒稼ぎしていたドイツ銀行は、ここ数年破綻危機と言われていました。

そして、2018年にはドイツ第2位行であるコメルツ銀行との経営統合をドイツ政府主導で画策したが、ドイツ銀行の財務内容に昇天したコメルツ側が「意味がない」として引いてしまい、破綻は時間の問題と見られています。

ドイツ銀行リストラ計画

既に万策尽きた観のある再建計画ですが、遂に2021年までに1万8千人(行員の2割)のリストラを発表と同時に即日着手しました。しかし、体制を分割し、不良債権処理部門を切り離すバッドバンク構想は、ブレグジットによって目途が立たず、従ってリストラ後の収益計画は「絵に描いた餅」となっています。

ドイツ銀行保有のデリバティブの大半はロンドンのシティで起債されていて、ブレグジットにより資本移動の自由が失われると、莫大な手数料と関税が課せられる可能性があるためです。

またEU維持のためには、EU圏での決済システムが極めて重要で、決済情報が各国の主要銀行に集められ定期的に国家間決済をするというシステムで、加盟国の財政状況に応じて金利差が発生してしまってもシステム運用上統一する必要があり(統一通貨であるため)、それが各国の財政赤字に神経質になっている理由です。

仮にドイツ銀行が破綻となれば、この国家間決済システムに深刻な影響が出ます。

ブレグジットでドイツ銀行破綻?

実際に、ブレグジットとなれば、現状のままではドイツ銀行は破綻する可能性が極めて高いと思われます。そこで、現実の英国とEUの離脱交渉では、この金融問題が大きなネックとなっていて、金融センターをハンブルグ等に移転する案も出ていますが、現実的ではなく進展していないのです。

仮にブレグジット以前にドイツ銀行が破綻するようなことになれば、EUと英国は共倒れの可能性もあります。そのために何としてもブレグジット以前に、ドイツ銀行の再建問題に目途を付けておきたいと言うのが、ブレグジット交渉の本音であって、これらの金融問題が(離脱案が)英国議会で決着しない要因でもあります。

金融危機でEUは簡単に崩壊する

現在世界経済には大きな金融危機の火種がいくつか存在しますが、その中でも特に危機的状況であるのは、中国銀行三行に対する米国の制裁(ドル決済停止)、米国CLO(企業ローン担保債券)、ドイツ銀行処理、香港民主化デモ、米国のイラン制裁、日本の韓国制裁等ですが、そのいずれかが顕著化してくると、ずべてが連動してしまうという恐ろしさがあります。

再建に着手したドイツ銀行問題は、バッドバンク設立で不良債権を切り離す以前にいずれかの金融危機が発生した場合、破綻は回避できないというカウントダウンなのです。

仮に、他の要因によって金融市場が不安定化すれば、真っ先にドイツ銀行に影響が及び、EU決済システムが機能不全に陥る可能性もあります。しかしEU自体、既にドイツ主導の統治がまとまらず、政治的に不安定になりつつあるのですが・・・。

EUは内部分裂か?

米中対立によって中国の勢いがなくなってくるにつれて、対中貿易で莫大な利益を上げてきたドイツは、EU内での発言権が衰えつつあります。メルケル首相がドイツ国内で劣勢に立たされて以来、EUではブレグジット以上にドイツとフランスの支配権争いが問題化しています。

そもそもフランスのマクロン大統領は、ロスチャイルドをバックにした政治家であって、ロスチャイルドの欧州における復権が鮮明になったと言えます。

もちろん、EU自体が崩壊するような事になれば、元も子もないわけですが、中国=ドイツの利益構図を変えてEU内での中心的な存在に躍り出ようとするのが、フランスの狙いであって、恐らくECB総裁にラガルド、欧州委員長にフォン・デア・ライエンという人事になると、EU委員会は分断されてしまうことは間違いありません。

そうした思惑から、原子力と自動車しかないフランスにとって、ルノー=日産という企業体はフランスの生命線であって、安易な妥協は有り得ないと言うことになります。

ドイツ銀行保有銘柄に注意

ドイツ銀行はリストラ発表と同時に株式の売買業務から撤退すると表明しています。これは株式業務全般からの撤退で、日本国内での投資銀行業務の大幅縮小を行うと答えています。

ドイツ銀行と言えば、日本では中小型株に対する悪辣な空売りで、暴利をむさぼってきた投資銀行の一角ですが、投資目的で保有する株式の売却や、株式返済のために買い戻し等々、銘柄によっては大きな影響を受ける可能性が非常に高いと思われ、要注意です。

こうした膨大な資金量をバックにした、取引を繰り返すことで個人投資家から利益を吸い上げてる行為を、規制できなかった日本市場に問題があることは明々白々ですが、過去に何度となく犠牲になった身としては「ざまぁみろ」という気分ですけど。