米国市場はジャクソンホールでのパウエル発言で失望売りか

米国市場はジャクソンホールでのパウエル発言で失望売りか

「金融政策の変わり目がトレンドの変わり目」というのは、私の株式投資の「師匠」の言だった。その教えを受けた経緯については、既に記事にしてあるので興味のある方はご一読ください。

そして、いま株式市場で最も注目されてるのが、ワイオミング州ジャクソンホールで開催される年次経済シンポジウムでのFRBパウエル議長の講演です。

今年は8月22日、23日の日程で開催されテーマは「金融政策への課題」というタイムリーなもの。特に現在のトランプ大統領とFRBの対立がクローズアップされるなか、7月31日のFOMCからパウエル議長の姿勢が「継続的な利下げ」に傾くか否かが最大の注目点です。

なおパウエル議長の講演は23日の予定です。

米国経済は利下げの場面ではない?

現在の米国経済は、直近の指標を見ると7月消費者物価指数(コアCPI)は前年同月比2.2%増、7月小売り売上高は前月比1.0%増と好調で、8月ニューヨーク連銀製造業景気指数は4.8(予想は3.0)、8月フィラデルフィア連銀製造業景気指数は16.8(予想は10.0)と、厳しいと言われた製造業部門でも好調を示唆する数字が出ています。

つまり米国景気は数値的には2018年にピークアウトしていますが、依然好調を維持していて利下げが必要とされる水準ではないわけです。

しかし、FRBは7月FOMCで25bp(0.250%)の政策金利引き下げを「予防的措置」として実施しました。

もちろん度重なるトランプ大統領の強硬な利下げ要求の影響も否定できませんが、「依然として不透明な米中貿易戦争の行方を勘案した措置」であるとパウエル議長はコメントしています。

加えて「今回の利下げは継続的な政策の変更を意味しない」として、株式市場はこの発言を嫌い大きく値を崩しています。

株式市場はこの利下げを「政策転換・トレンド転換」とは捉えていなかったわけですね。

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トランプ大統領は将来の政策を実行する立場

7月31日のFOMCで利下げが発表された直後、トランプ大統領は3000億ドル相当の中国製品に対し、9月1日より10%の関税を賦課すると発表しました。

その後アップル社等の共和党議員に対するロビー活動によってスマホ、パソコン、玩具等クリスマス商戦に対応するという名目で、9月1日からの適用は1100億ドル相当とし、1560億ドル相当を12月15日から適用と先送りしました。

つまり、7月に執拗かつ強行にFRBに対して利下げ要求を行っていたトランプ大統領は、こうした対中政策を前提としたものだったと理解できます。

そして、FRB利下げ後もさらに短期間で100bp(1%)の利下げと若干のQE(量的緩和)を行う必要があると盛んに訴えているわけです。

こうしたトランプ大統領の行動や発言から、米国は対中国政策において更なる厳しい措置を行う可能性を伺わせます。しかも「短期間の内に100bpの利下げ」ということは、相当に強力なものとなることを示唆していると考えるのが自然ではないでしょうか?

すでに米国は中国を「為替操作国」に認定し、人民元安を食い止める政策を発表していますが、そこにトランプ政権の意図を感じるを得ないのです。

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注目度の高いジャクソンホール会合

米国株式市場では既に9月の25bpの利下げは完全に織り込んでいると思われます。その上で、「金融政策への課題」というテーマで開催されるジャクソンホール年次経済会合において、パウエル議長がFRBの今後の政策をどのように示唆するのかが大きなポイントになります。

そしていずれにしても、ジャクソンホール期待で戻りを試してきた株式市場ですから、発言の内容次第で大きく変動することが予想されます。

長期利下げ示唆なら米国株高

長期的に利下げ方向を継続するニュアンスのハト派発言をした場合、米国株は大きく上昇することになりますが、現状ではパウエル議長がそのような発言をするとは思えません。

一方ECBのドラギ総裁は、既に秋に退任が決まっていて退任前に金融緩和路線を確固たるものにしたいという意向がありました。その金融緩和路線をトランプ大統領は称賛しているわけです。

現在のEUにとって将来懸念と言えばブレグジットで、英国のボリス・ジョンソン首相は10月の離脱を強引に推し進めていて、これがEU経済にとって大きな懸念となっています。

同様に現在の米国経済もまた、米中貿易問題という懸念を抱えていて、その意味ではドラギ総裁とパウエル議長の立場は同じ、というのがトランプ大統領の主張です。

従ってドラギ発言では欧州の株価は大きく上昇する可能性がある一方、パウエル議長は先手を打ってくることはしないと思います。伝統的に物価と雇用に従うのがFRBであるという認識は、変えられないというのがその理由です。

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利下げが(一時的な)保険的措置確認なら失望売り

恐らくパウエル議長の発言は、積極的に経済政策に踏み込むことはなく、現在のFRBの取りうる選択は、好調な経済の上で予防的なスタンスで利下げを行うという姿勢を崩すことはないと思います。

その場合、米国株式市場は織り込んでいる9月25bpの利下げ以上の金融緩和が期待できず、本格的に9月以降の米中貿易戦争を織り込むはずです。

個人的には、失望売りとなる可能性が高いと思っています。

そしてトランプ大統領は、9月のFOMCに向かってさらに圧力をかけるのではないでしょうか?

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日本株への影響

パウエル議長がハト派的発言をすれば、これは金融政策の転換ということになります。その場合一時的には米国市場に追従する動きも出る可能性がありますが、同時に円高が進むことになって上値を抑えつけられるかもしれません。

現在米国ダウと日経平均の相関で言えば、上昇は米国ダウの半分程度で下落は同程度、という形です。しかし日経平均¥20,100がレジストラインとなって反発を続けています。

しかしドル円が¥105を割れてくると、この支持線も維持できないかもしれないです。

そして米国市場が失望売りになったときには、ドル円次第の相場になるのではないでしょうか。

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