トランプ失策!?北朝鮮と韓国にはディールが通用しない

トランプ失策!?北朝鮮と韓国にはディールが通用しない

北朝鮮に関して米国トランプ大統領は、基本的に金正恩朝鮮労働党委員長という国家のトップとディールできれば、解決できるというスタンスに立っている。

しかしいままで3度の米朝首脳会談を行って、核および核開発施設の破棄について話し合ってきたが、結果は北朝鮮内のごく一部の実験場の破棄だけにとどまっていて、その間北朝鮮は核開発、ミサイル開発を継続して行っている。

北朝鮮の核弾頭とSLBM

2018年6月の第一回の米朝首脳会談(シンガポール)によって北朝鮮は核開発破棄に向けて歴史的な一歩を踏みだすものと思われたが、老朽化した核実験場の閉鎖以外に効果は得られなかった。そして膠着状態に陥った米朝関係を打開すべく2019年2月の第二回米朝首脳会談(ベトナム・ハノイ)では、米国の一環した「核施設全廃要求」に対し、北朝鮮は「経済制裁と核施設廃棄を段階的に行う」と提案し決別した。

米国の要求はボルトン国家安全保障担当補佐官が主導する「核開発全廃後の経済制裁解除」という所謂「リビア方式」を譲ることはなかったが、それに対しリビアの元首であったカダフィーがその後暗殺されたこともあり、金正恩は承知せず決裂した。

そして電撃的な2019年7月の板門店での第三回会談となるわけだが、結局お互いの主張の違いから接点を見いだせず、実務者協議再開のみを合意したのみだった。

その間に北朝鮮は、新たに核弾頭を10基前後製造したとされ、また中・短距離弾道ミサイルの開発や、SLBM搭載可能な潜水艦の開発を行っていた。

つまり、北朝鮮は実質的に米国に対し、核保有国であることを認めさせ、さらには米国本土が攻撃可能なICBM開発の代わりに、SLBMによって米国本土を攻撃できる能力を獲得しつつある。

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トランプは歴代大統領を批判

トランプ大統領は、北朝鮮の核開発を阻止できなかったブッシュ政権、およびオバマ政権を名指しで批判し、米朝首脳会談を開催し、ディール出来る状態に持ち込んだのは外交上の大きな進展であり、成果であると強調した。

そして北朝鮮に対する外交成果をして、ノーベル賞に値するとして安倍首相もノーベル委員会に対する推薦人として名を連ねたが、北朝鮮が核開発放棄、核兵器の放棄は国家存亡の危機と捉えている以上、それに応じるには米国が体制の存続を保障し、なおかつ相応の経済的支援を行うべきと主張した。

これに対し、トランプ大統領は「現体制の存続は米国が保障する」としながらも経済的な支援は「安倍(日本)が沢山してくれる」と日本に丸投げする発言をした。日本が支援すれば韓国のように経済的な発展を得られる、というトランプ大統領に対し、金正恩は大いに反発したとされる。

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北朝鮮を理解できないトランプ大統領

常に大陸の柵封状態におかれた朝鮮半島の歴史に対し、トランプ大統領はあまり関心がないと思われる。現在の金正恩体制を理解する上で最も重要な出来事は、張成沢(チャン・ソンテク)銃殺である。

張成沢(チャン・ソンテク)は、金正恩の後見人であっただけでなく、金日成の娘(金正日の妹)を妻とした、名実ともに北朝鮮の実権を握るNO.2であった。しかし、中国との緊密な関係を懸念した金正恩は2013年、銃殺刑によって粛清した。

肉親(伯父)である張成沢(チャン・ソンテク)を粛清する意図は、自らの権力基盤の確立と言われているが、それ以上に中国に対する従属関係を拒否するという意味合いが強かったとされる。張成沢(チャン・ソンテク)は、国家存亡のカギは中国にあるとする、極めつけの親中派であった。

北朝鮮が核武装する意味

ロシア、中国に国境を接していて、どちらも核大国であるということ。そして韓国の在韓米軍は核装備していること、などを考えると、北朝鮮は自国の存亡を考えた時、核装備は必須との結論に至るのは、当然の帰結と考えるだろう。

実際核装備をしなければ、少なくとも中国の侵攻に対しては無力であると考えるだろう。北朝鮮は、中国がモンゴル、チベット、ウイグルへ侵攻した事実を「明日は我が身」と捉えていて、その恐怖心が肉親(伯父)である張成沢(チャン・ソンテク)の粛清に至っている。

また韓国と在韓米軍に対して、対抗手段を持つというのも北朝鮮の課題だった。少なくとも朝鮮戦争における停戦協定は、国連軍(米軍)と中国・北朝鮮との間で締結されていて、韓国は部外者である。その部外者が米軍と協力関係にあるということも、納得できない事実となっている。

そうした北朝鮮の立場をトランプ大統領は理解しているのだろうか?

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韓国と比較するのは最大のタブー

2000年、第一回南北首脳会談は韓国・金大中大統領と北朝鮮の金正日国防委員長との間で行われ、南北融和ムードが盛り上がるも、2001年9.11テロを受けて米国ブッシュ大統領が北朝鮮を悪の枢軸国指定したために、一気に熱が冷めてしまった。

それを受けて2007年、韓国の盧武鉉大統領と金正日国防委員長との首脳会談では、多額の対北朝鮮への支援提案を行なった。それ以前に第一回開催において韓国側(現代自動車経由)から多額(5億ドル)の資金援助行ったとされるが、同様の要求を韓国に対して行った結果であるとされている。

しかし、この時の提案の履行が進まず、2018年4月の韓国文在寅大統領と金正恩委員長の会談では、盧武鉉大統領時代の支援を再度確約したとみられている。続いて2018年5月、そして9月にも首脳会談は開催されたが、北朝鮮は韓国の約束が国連制裁決議のために遅々として進まないことに怒りをあらわにしている。

金正恩委員長は、首脳会談の度に韓国と自国の経済格差を意識していたとされ、首脳会談に合わせて高層マンションの張りぼてを平壌(ピョンヤン)に多く作らせたりしていた。

北朝鮮は朝鮮労働党の息のかかった工作員を多数韓国に送り込み、すでに政権の中枢にまで浸透させているにも関わらず、文在寅大統領の対等な振る舞いにも我慢がならなかったと言われていて、韓国との比較をもっとも嫌っているという情報もある。

在韓米軍撤退が条件?

北朝鮮は隣国の韓国から脅威となる軍事力の排除が、米国との交渉条件になっているはずであるが、強硬派のボルトン前補佐官を中心とした交渉チームはそれを一蹴した。

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しかし、北朝鮮の核開発理由を考えれば、それは譲れない条件であって、さらに米韓合同軍事演習に関しても仮想敵国が北朝鮮であることに不快感を示し、短距離弾道ミサイルの発射を連続して行っている。

そうした中、韓国の文在寅政権は、米国に対し在韓米軍の撤退と韓国内の基地返還を要求し始めた。日本とのGSOMIA破棄は、米軍の極東司令部が横田基地にあるということ、在韓米軍の補強を日本が担うということから、米国は韓国に対し不快感を示している。

しかしトランプ大統領は、在韓米軍の撤退に前向きとされ、そのことでボルトン前補佐官と激しく対立した。在韓米軍撤退はTHAADミサイル防衛システムの撤去を伴うからであった。

すべては金支配体制維持のため

北朝鮮の政策はすべて国家存続のため、支配体制維持・継続のために行われる。しかしそれは必ずしも国家繁栄のためではなく、国民生活以上に強固な支配体制を築くことが優先される。

そのために核開発が必須というのが北朝鮮のスタンスであって、ディール(取引)によって経済的なメリットを提供するトランプ大統領の外交が、まともに通じる相手ではない。

しかし、トランプ大統領は、北朝鮮の核保有を事実上認め、支配体制の維持を約束までしてしまっている一方、核開発における何の譲歩も取り付けることができていない。

その上、韓国の文在寅政権は、ことごとく北寄りの政策を打ち出し、日韓関係のみならず米韓同盟の解消へ舵を切ってきた。

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トランプ流ディールは通用しない?

韓国の現状を見ると、最悪の場合文在寅大統領が、韓国を北朝鮮の従属国家としかねない状況であり、それは裏を返せば北朝鮮・金正恩にとっては、韓国と言う金蔓を手に入れることに等しい。

そうなれば少なくとも韓国経由の制裁破りはいくらでも可能で、さらには核保有国の連合体と成る可能性も十分に出てきた。韓国は、最近核開発の可能性を示唆し始めている。

結果を見れば、トランプ大統領が北朝鮮とディールを前提に話し合うという態度で臨んでいる間に、北朝鮮の核開発、ミサイル開発は刻々と進展しているだけでなく、韓国という同盟国の国家体制さえ大きく(北朝鮮寄りに)変貌してしまう可能性も出てきてしまった。

これが北朝鮮に関するトランプ流ディールの限界ではないか?という意見も出始めた。18日、解任されたジョン・ボルトン前補佐官はあらためて「トランプの外交は大失敗に終わるだろう」と発言した。

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