日米株式市場:年内上昇は最終局面である可能性
- 2019.10.16
- 世界情勢
米中交渉の部分合意報道をきっかけに決算相場へとなだれ込んだ米国市場は、金融セクターの好決算を背景にさらに上値を追う展開となって、ダウは$27000を突破した。
中身のない米中部分合意
4月末の決裂以降、まったく進展がなく悪化の一途をたどっていた米中貿易交渉だが、10月11日、「第一段の合意に達した」とトランプ大統領は発表し上昇に拍車が掛った格好になった。この米中間の合意とは、米国ライトハイザー通商代表部代表、ムニューシン財務長官と中国劉鶴副首相の間の「口頭での合意」であって、具体的な内容を文書化したものではなかった。
米中合意内容は今後文書化を急ぎ、11月のAPECチリでの署名を目指すとトランプ政権は発表したが、株式市場ではこの米中合意に対する疑心暗鬼も拭い去られたわけではない。
しかし、株価がこの合意発表を好感した理由は、内容に米国が中国に強く要求している「知的財産権問題」「技術移転問題」「資本移動の自由化問題」等々の構造問題に関して、何らかの合意がされているという報道のためである。
中国は米国農産物の購入増だけでなく、対中投資規制を撤廃し金融市場の自由化を推進すると発表しているが、疲弊する国内経済を活性化するためであって、政策的な真新しさは全くない。
こう考えると、現時点では「米中部分合意」は、少なくとも文書化された合意内容の存在した4月末時点よりも、具体性は全くない。仮に、それでも株価が上昇するとすれば、この局面は要注意すべきと書いたが、案の定、舌の根も乾かぬうちに中国からは、合意したとされる農産物の購入額について、ガタガタと言い始めた。
早速いつものように、合意を承知したとしてから、グズグズ・ダラダラと新たな条件を出してくる「中国流」を繰り出してきた。
農産物でトランプは釣れる?
習近平はウクライナゲートで揺れる米国の政治情勢に関して、「トランプ大統領は農産物で釣れる」と判断している。ボルトン更迭以降のトランプ外交の弱腰は、「大統領選挙前の軍事力行使はできない」とすっかり印象付けてしまった。
これはつまり、トランプ大統領の判断はすべて選挙対策に基づくものであって、農産物は共和党支持基盤のアキレス腱になっているとの判断だ。
従って習近平は、トランプ大統領が日和っているとみるや、俄然香港問題に関しても強硬な発言を始めた。
劉鶴副首相は伝書鳩
米国は、米中交渉における中国側の代表である劉鶴副首相を「閣僚」と考えているが、現実に劉鶴副首相は共産党において、まったく権限を持たない単なる「党員」同様の立場であり、米中交渉においては単なる「伝書鳩」に過ぎない。
従って、「事務レベル協議」から「閣僚級協議」を経ての米中合意と理解するのは、筋違いであって、それはトランプ政権も十分に理解していることだろう。
しかしトランプ政権は今回の米中協議は、ドタキャンされた4月末と状況が異なる、と考えていて、中国経済の実態からして(中国は)合意せざるを得ないと判断している節がある。
それはボルトンが去ったトランプ政権の甘さであって、中国は安易に米国に妥協する道は取らない。なぜなら、構造問題での妥協は「中国共産党の存在意義を失う」からだ。中国は北朝鮮と同様の共産党独裁国家であり、共産党は習近平の王朝なのだ。
上昇の最終局面では理由がない?
こうした米中合意の経緯を考慮し、今回の合意が米国経済にどれほどのインパクトがあるのか?と考えると、現実には全くプラス要素は存在しないと言える。仮に、中国が農産物をいくら購入しようと、構造問題で進展がなければ、米国議会の対中強硬姿勢に変化はなく、それは少なからず米国経済に対しても悪影響が出る問題だ。
にも関わらず、米国の株式市場は米中「部分合意」をポジティブな材料と強引にこじ付る格好で急騰している。
こうした「ほとんど理由なき株価上昇」が発生すると言うことは、ある意味では米国の金融相場、センチメント相場がいよいよ最終段階に突入したのかもしれない。
あまり注目されていないが、FRBは今月、レポ金利市場のドル不足対策と称して、月額6兆円以上の量的緩和を2020年6月まで続けるとし、既にレポ金利市場に4日間で約30兆円のドル供給を行ったことと併せて、約100兆円近い量的介入を行うわけである。
こうしたFRBの金融政策の流れは、年内利下げ観測と併せて一気に株高へと突き進むのに十分な条件となったと考えられるわけだが、それは米中部分合意とは全く関係ないのだ。
ただしこの上昇相場の背景には、FRBのQEが存在することは確かだ。
米国株は高値付近で決算相場へ
さて、その米国市場は史上最高値の更新を視野に入れ始めた。そしてこの高値付近で米国は決算相場に突入するわけである。
株式市場がこうしたカネ余りを背景とした、金融相場、センチメント相場の色合いが濃くなってくると、特に高値付近では、ボラティリティが急激に上昇するだろう。そして、個別に決算に対する反応が過敏になってくるだろう。
米国の企業業績は、金融セクターは良好な数値を示し、15日の株価急上昇に繋がった。しかし、米中貿易戦争の影響を受けた企業も決して少なくなく、決して油断はできない状況と思われる。
ただし、9月の消費者信頼感指数が上昇していることで、小売り売上は(自動車を除き)好調と見られているが、その米国消費も家計のファイナンスを見る限り、リーマンショック前を凌駕した高水準となっていて、限界に近付いている。
まったく理由がない日本株上昇
米国市場の動向に連動するように上昇を続ける日経平均だが、米国以上に上昇理由が見当たらない。そうした中、海外勢は日本市場を「出遅れ」と称して買いに回っていると言われる。
しかし、冷静に考えれば、日本の国内景気動向は消費税増税後、ますます悪化しつつあり、また自然災害の頻発で消費意欲に悪影響が出るのは必至の情勢だ。
また、米中部分合意が米中対立を解消するような内容では全くない以上、輸出が劇的に改善すると言うことも考えられない。日本の輸出先筆頭の中国経済が、改善の兆しが全く見られない中で、この株価の上昇には違和感以外感じられない。
そうした状況を差し置いての株価上昇は、年内最終局面に差し掛かっていることは、まず間違いないだろう。
10月後半以降は覚悟が必要
米国ダウは15日、三角持ち合いのほぼ上限($27,200)付近に達した。テクニカルでは持ち合いをブレイクすると、史上最高値更新が視野に入ってくる、と考えるのが基本だ。そして米国市場が金融相場の年内最終局面と考えると、史上最高値更新は十分にあり得ることだ。
しかし、この相場がセンチメント重視と考えるなら、急騰・急落の局面であると言いかえることもできる。米国市場は決算相場に突入している以上、今後出てくる主要企業の決算次第で大きく振れる可能性が高い。
理由なき上昇後、一気に利食い局面が来てもおかしくないのだ。
同時に日本株は、米国のような金融緩和の裏付けもない以上、厳しい下落局面となってもおかしくはない。10月後半以降の株式市場は、このまま楽観相場が続くとは思えない。
従ってハイボラ相場の覚悟が必要だろう。
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