米中合意で岐路に立つトランプ大統領:株式市場はこれ以上待てない?

米中合意で岐路に立つトランプ大統領:株式市場はこれ以上待てない?

3時前、米国ダウと為替(ドル円)がいきなり急落した。この原因は一部(ロイター)で「米中の第1段階の通商合意は来年にずれ込む可能性がある」と報じられたこと。様々な懸念がある中で、米中合意期待によって吊り上げられてきた相場であるから、こうした報道には過敏に反応してしまうのだろう。

しかし、投資環境も徐々に変化していて、株式市場が「米中合意のメリットよりも香港情勢やトランプ大統領弾劾の行方、さらには米国に対し強硬な姿勢を示しロシアと急接近しはじめた北朝鮮問題、韓国のGSOMIA破棄問題等々放置を続けている国際情勢を懸念しはじめた」ということだろう。

懸念が織り込まれ始めた

上段が米国ダウの1分足チャート、そして下段が為替(ドル円)の同じく1分足チャートだ。ダウは「米中の第1段階の通商合意は来年にずれ込む可能性がある」という記事が出てから僅か4分間で▲$100以上急落している。

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拗れ始めた米中合意

こうした展開になってしまうのも、今の相場が「米中合意という材料で吊り上げられた相場」であることの証でもある。今回も米中協議は農産物購入や一部資本の自由化実現でほぼ合意に達していたと思われるが、中国側はその見返りとして将来にわたる段階的な関税引き下げを要求し、それに対してトランプ政権は、それならば4月末時点での(中国側がドタキャンした)暫定合意レベルを要求しているとされる。

そのタイミングで、米国上院は香港人権法案を20日可決した。既に下院では香港人権法案(下院案)を可決していて、今回の上院案をそのまま受け入れるか、修正協議をして再可決するかということになり、いずれにしても米国議会は香港人権法を可決することが決定した。

これで米国議会は香港民主化を支援する台湾に関して台北法案等複数の支援法案を決議していて、さらに香港人権法案を可決したことで、中国の人権侵害行為に対し、本格的に対抗措置を講じる姿勢である。

実際ペンス副大統領は「現状の香港弾圧が続く限り米中合意は困難」と明言している。

香港弾圧の実態

日本で報道されない現在の香港民主化弾圧の実態は悲惨なものである。既に香港警察側が実弾を発射し学生が重傷を負ったといった僅かな断片的報道はなされたものの、各新聞、TVはそれ以上の言及を避けている。

しかし、連日ブログ(トレード日記)のアイキャッチ画像に掲載した香港での、催涙弾の発射シーンは、催涙ガスの中に異質の化学成分が含まれて入れ、皮膚の爛れやおう吐など激しい症状を生じる化学兵器の一種であることが判明している。

そして、急激に症状が悪化し病院で診察を受けるとその場で逮捕されると言う、とんでもない行為が行われている。そのためにデモ参加者たちは治療のために台湾へ渡航し支援を受けている。

さらに逮捕した女子学生への集団強姦も複数回行われ、逮捕者は例外なく厳しい拷問に晒されている。まさに今の香港は、中国当局の蛮行によって地獄絵図と化しているのが実態である。

しかし、それでも香港の学生やデモ参加者(市民)は、チベットやウイグルよりも遥かにましであるとして、香港理工大学に立てこもっている。

このような状況の中で共和党、民主党の人権派はトランプ大統領に対し、毅然とした態度で臨むことを強く圧力をかけていると見るべきだ。

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トランプ弾劾の公聴会

20日の下院の公聴会でソンランドEU大使が「トランプ氏の意向を踏まえて同政権がウクライナに対し、軍事支援の「見返り」として野党・民主党のバイデン前副大統領の不正調査を求めていた」と証言した。

いままで政権関係者が次々と公聴会に出席し、基本的に「確たる物証はないが(ウクライナに)圧力を賭けたことは事実」と証言しているが、トランプ大統領は「茶番」と言って痛烈に批判し続けている。その根拠は主にウクライナに圧力を掛けたのは顧問弁護士であるジリアーニ元ニューヨーク市長であるからだ。

トランプ大統領の再選への危機感は相当に強く、既に米中交渉、北朝鮮、イラン、そして南沙諸島やミクロネシアにおける中国の経済的・軍事的覇権に関し、夏前から完全に日和っている。これが世界における米国の地位を揺るがし、国益を底なているのは明らかで、こと外交ではオバマ政権となんら変わりはなくなってしまった。

米国でそのことをもっとも問題としているのは、実は共和党保守派である。従って数的優位な上院での可決はない、という楽観もやがては懸念に代わるかもしれない。

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すべてはトランプ大統領に手の内に

米中合意に関する楽観的な見通しで株式相場を吊り上げてきたトランプ政権だが、ここにきて様々な問題が複雑に絡み合って楽観を許さない状況が生まれつつある。

それでも依然として、米中交渉に関してはトランプ大統領が優位であることは間違いない。議会の圧力で香港人権法案が上下院で可決され成立が近いのだが、成立した法案は大統領が署名して初めて執行される。つまり、トランプ大統領は中国に対する圧力を強めたことになる。

しかし、習近平もまた米国に対し一段と強硬な姿勢を取りだした。中国の指導者は自国の経済がいくら疲弊しようが、ほとんど問題にはしないだろう。それよりも、共産党の支配体制を如何に維持するか、自国の領土を如何に拡大するかに重点を置いているのは間違いない。

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歴代の共産党指導部は領土を拡張して初めて名前が残る。その意味では習近平は未だにそれを果たせていないどころか、一国二制度から香港、台湾を併合さえできていはいない。

そうした中国の覇権主義をトランプ大統領は正確に認識しているかどうかは極めて疑わしい。そのことは対北朝鮮、対韓国、対イラン政策で如実に表れ始めた。すべては経済で解決できるとするトランプ大統領が果たして、中国問題に区切りをつけることができるのか、すべてのカードはトランプ大統領の手の内にあると言うのに・・・。

岐路に立つトランプ大統領

トランプ大統領は安易な米中合意をしても、米国民の支持は得られないだろう。株式市場は当然米中合意を歓迎する動きには成るだろうが、それが来年の大統領選挙で自身に有利になるという可能性は高くない。それどころか、香港問題、そしてほぼ凍結状態とされている国防権限法2019や米国輸出管理改革法の本格発動も行われない、とすれば議会の支持は失われてしまう可能性もある。

ただでさえウクライナゲートで下院の弾劾可決は不可避となっている状況で、このまま上院での採決となると、相当なリスクに直面することになる。

また弾劾を回避したとしても、議会を敵に回してしまったら来年の再選は苦戦するのは必至だ。

トランプ大統領は、中国が経済的な困窮に耐えかねて、米国と通商協議に妥協してくるという前提で交渉を行っているが、ここでも中国に対する認識が間違っている可能性がある。

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