新冷戦:レアアースで米国に反撃する中国

新冷戦:レアアースで米国に反撃する中国

世界の二大経済大国である米国と中国の経済対立が日々先鋭化してきています。2018年10月のペンス副大統領の歴史的対中批判演説によって決定的になった米中貿易戦争ですが、5月初旬の交渉妥結の土壇場で中国が合意内容を取り消し、7日にトランプ大統領が妥結なしを宣言して本格化しました。新冷戦の始まりです。

米国のファーウェイ制裁

米国は5月15日にIEEPA(国際緊急経済権限法)に基づいてトランプ大統領が「国家非常事態宣言」を行い、外国企業の通信機器の使用を禁じる大統領令に署名、ファーウェイを完全に締め出しました。

同時に米国商務省は、ファーウェイを輸出規制対象リストに追加し、米国再輸出規制によって米国技術の供与制限を第三国企業に対しても要求出来ます。

違反すれば米国内での経済活動が出来なくなり、金融制裁を受けることになるわけです。

これによってファーウェイは事実上解体の危機に瀕することになっています。

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ECRA発動を匂わす戦略

さらに米国は中国製造2025の先端分野すべてに対して同様の措置を講ずることが可能なECRA(米国輸出管理改革法)の発動をちらつかせ、中国に圧力をかけています。

このECRA発動は米国の新冷戦における最終兵器で、すでに中国監視カメラ企業等を輸出規制対象リストに加えていて、順次拡大を示唆しているのです。

しかし、中国も米国に対し対抗姿勢を徐々に鮮明化してきていて、新冷戦はさらなる拡大の懸念が出てきました。

中国の対米戦略(対抗手段)

ファーウェイは中国共産党の企業であることは明らかで中国国内法によって海外でのスパイ活動等の義務を負っています。その代償として無尽蔵に資金援助を受け急拡大してきたわけですが、事実上米国の封じ込めによって5G通信を掌握すると言う世界戦略が頓挫しました。

しかし、中国は妥協しても関税の引き下げはなしとするトランプ政権に対し、徐々に対抗する姿勢を打ち出してきています。その目玉戦略が米国に対するレアアース輸出規制です。

レアアース輸出規制

米国は自国産業に必須のレアアースを関税対象から外しています。中国にとっては「関税外し=米国の弱点」ということが明確に分かるわけです。中でもレアアースは米国産業界にとって極めて深刻なアキレス腱なのです。

米国は上記のようにレアアースの約80%を中国からの輸入に頼っています。このことについて人民日報系の環球時報道は次のように主張しています。

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人民日報系の環球時報(グローバル・タイムズ)の胡錫進編集長は中国が米国へのレアアース輸出制限を「真剣に」検討しているほか、他の対抗措置も実施する可能性があるとツイッターに投稿した。国家発展改革委員会(発改委)の当局者は中国中央テレビ局(CCTV)のインタビューで、輸出レアアースを使った製品が中国の発展を抑制する形で利用されるのを国民は望まないと述べた。環球時報や上海証券報も29日付の論説で同様の論陣を張った。
(ブルームバーグより引用)

また米国内でのレアアース使用は産業(製造業)のあらゆる分野に及んでいて、仮に輸出規制を発動するとなると、米国の産業界は一時的には壊滅的な打撃を受けるだけでなく、代替輸入先であるアフリカ諸国等の高コスト製品を緊急に確保することが要求されます。

それでも80%の全量確保は極めて困難な状況であり、現状回復には数年かかると言われています。

米国籍企業規制

米国企業の多くが中国の巨大市場でビジネスを展開しています。最右翼なのはアップルで売り上げ全体の約20%を中国に依存しています。また、スポーツ用品のナイキやホテルチェーンのマリオットなども中国でのビジネスを拡大させています。

今回の米国のファーウェイに対する禁輸措置や制裁に対して、中国がアップルに対し制裁するという懸念が高まっています。中国国内の資本移動を完全凍結するなどの強硬手段に及ぶことも十分に考えられることです。

仮にそこまで対立が及ぶようなことになれば、新冷戦は後戻りできない状況になるでしょう。

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米国債売却

米国は中国に対して為替操作国の指定を行いませんでした。これはつまり、人民元安は米中貿易に対してドル建て決済であるために、米国にはたいした影響がないということを意味しています。

しかし、中国は米中対立の影響で国内経済が危機的状況にあることは事実で、ドル準備不足から一帯一路などでは人民元建て決済を強引に要求しています。

そこで対抗手段の一つとして米国債の売却が噂されています。しかし実質的にはドル準備高が変動することはなく、対抗手段としての効果は限定されますが、米国では債務上限問題が再度浮上してきているために、債券市場への影響は小さくはありません。

新冷戦は長期化する

既に米中対立は貿易問題を飛び越して新たなフェーズに突入しています。米国は中国共産党の支配体制そのものの見直しを要求していて、それに対し中国は現体制維持に必要なことは、絶対に妥協できないと言うことです。

米国は対中国政策に関しては商務省に権限を委譲して、経済制裁を強化する意向で、それに対して中国は「これ以上の妥協はしません」という姿勢です。

つまり、この世界の二大経済大国の対立は、長期化は避けられないと思われます。

その結果、リーマンショック後の金融大幅緩和から続いた景気拡大局面は、長期お停滞局面を迎える可能性が非常に高いです。

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