2020年世界経済最大のリスク:米国の対中政策(正義)が元凶と成る皮肉

2020年世界経済最大のリスク:米国の対中政策(正義)が元凶と成る皮肉

現在、米国経済は絶好調(世界の他地域と比較して)と言ってもいい状況で、米国株は天井知らずの上昇を続けています。それに伴って、連動するかのように日本株も上値追い状況になって2019年は暮れようとしている。しかし、日本経済は米国と正反対の状況で、10月の消費税引き上げを安倍内閣が実行して以来、内需は冷え込む一方となっている。

米国経済は内需依存と言われているが、日本とて事情は全く変わらないはず(米国のGDP内需依存は約80%、日本は約70%)。その差は僅かに10%しかない。さらに言えば、中国GDPとて約68%が内需依存なのであって、しかも国内投資比率が異常に高い。

日本の輸出先のNO.1が中国で、NO.2が米国であり、日本経済の輸出は米中の輸入に大きく依存しているわけだが、米中間で貿易関税問題を含めた様々な対立が表面化した2019年に安倍内閣は約30%の貿易依存を重視し、約70%の内需を無視して見せた。

その結果、日本経済は株価と相反する状況に突き進みつつある。実体経済と株価は乖離の幅を広げて、年の瀬を迎えているわけです。

だからといって、日本株が単独で暴落するという可能性を考えると意外なほど低い。日本市場のメインプレーヤーの約70%が海外投資家で、10月半ば以降彼らは明確に「割安」と称して日本株の買いに転じたからだ。米中貿易戦争が一段落すれば、日本のリスクは大幅に減るという判断だろう。

年明け早々には米中合意第一弾の調印が行われると言われていて、少なくともそれを確認するまでは、日米株価は堅調に上昇するかもしれない。

しかし、2020年の最大のリスクは、「日米中の内需の変調」であると同時に、米中交渉において中国に対し資本の自由化や知的財産権の保護を要求して中国の資本主義化を促進すればするほどに、世界(資本主義陣営)は、中国経済の劣悪な経済状況を込み入れなければならなくなる、というとこだ。

中国経済を開放すればするほどに、今までのような中国経済の悪化は無視して済む問題ではなくなってしまうのだ。

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米国の正義がリスクを高めてしまう

2002年、中国は念願のWTO加盟を果たしたが、それによって中国貿易が自由化され、資本主義圏にとっては人口14億の巨大市場が誕生したと言える。しかし、加盟の条件となった資本の自由化や人民元の変動相場制への移行は現在でも果たされておらず、今回の米国の要求の根源は、WTO加盟条件の履行を要求するものに他ならない。

中国は国際社会における公約をことごとく無視して、安価な労働力を武器に急速な経済発展を遂げてきた。そして気がつくと、拡大した経済力は米国の存在を脅かすまでになったことで、急激に米国内の対中批判が高まった。

頭を叩かれた日本経済

かつて、日本経済がバブルに至るプロセスで、急激に米国経済を脅かす存在になった時代、米国は日本に対してプラザ合意で急激な通貨切り上げを要求し、自動車を筆頭として輸出制限を要求してきた。そのことが日本政府の内需促進政策へと繋がって、バブル経済を引き起こした。本来輸出に振り向けられるはずのパワーのすべてが、急激に内需に向けられた結果でもある。

しかし、ほどなくして日本のバブル経済は崩壊し、日本経済はバランスシートの修復を10年を擁しても目途を建てられない状態の時に、米国は対日年次要求と称する経済運営指針を日本政府に突きつけ、日本の復興を極力妨害してきた経緯がある。日本経済がバブル崩壊後復興に20年を要したのも、米国の年次要求のためとも言える。米国は日本経済が復興して再度米国経済を脅かすことを恐れた結果だと言われているが、そのため歴代の首相は経済復興策を自由に出来なかったとも言える。

それは現在の安倍政権でも何ら変わってはいない。かつて、田中角栄首相が米国依存を脱却し、独自路線を歩もうとして対中国交正常化や中東(イラン)への原油直接購入を行い、米国の怒りをかってロッキード事件で追い落とされた事実を日本の政治家は忘れられないのだ。

恐らく今回の消費税増税は、米国政府の意向が強く働いているはずだ。TPP交渉で米国の思うような市場開放を日本が承知しなかったことの報復とも言える。結果として米国はTPP交渉を拒否したわけで、その結果米国の農産品は大きな打撃を受けている。日本の内需が疲弊し、輸出ウエイトを高めざるを得ない状況を作り出して、日米FTA交渉に持ち込むという米国の狙いが透けて見える。

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米国は中国経済を徹底的に叩く

かつて米国が日本経済を叩いたのと同様に、いや今回はそれ以上に中国経済を叩く。そして叩くだけでなく、米中合意第二弾以降の交渉内容は、今後中国経済が米国を追いかけることができないレベルとするために、対日年次要求と同様の要求を突き付けるはずだ。

しかし、現在の世界経済の状況は、当時と比較にならないほどに膨張している。2008年のリーマンショックでは、米国は世界金融に込みこまれていなかった中国経済に対し、莫大な財政出動と資本主義社会への投資を要求した。そして、中国経済は急激に膨張し、そのことが世界経済を救ったと言える。

その見返りとして米国での企業上場を大幅に緩和し、中国の資本進出を促進した。以来10年を経て中国経済の膨張は米国経済を脅かし2030年には米国GDPを追い越すと予想されるに至り、今度は米国の世論は中国潰しに傾いたわけだ。

その先導役を担ったのがトランプ大統領であると言える。

そして、現在ではトランプ政権以上に議会そのものが、共和党、民主党に限らず反中国で一致するに至っている。つまり、2020年の大統領選挙の結果の如何を問わず、この先も米国は中国潰しを徹底的に行うだろう。

世界の覇権国であることが米国の正義

中国は日米のそうした経緯を極めて詳細に研究しているとされ、現在の習近平の政策の視点は、如何に米国に対抗できる地位を各分野で確立するかということだ。中国製造2025をぶち上げて、米国を凌駕する技術分野を多く保有することで、安易に中国潰しが出来なくなるようにするのが狙いである。

特にそのことは5G通信において顕著に現れた。現代は通信を制する者が覇権を握る時代であるということを、中国は熟知しているだけでなく、そこが米国の盲点であることを見抜いた。

そこでは米国に有力企業が存在しないわけで、ノキア、エリクソン等北欧企業、そしてサムスンが競争相手になる。日本の富士通、NECはすでに脱落し、強敵と成りうるのはNTTだけであるが、NTTは基礎技術では世界有数だが、インフラ整備には積極的に国際競争に参画していない。

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従ってファーウェイの存在は中国の対米戦略の象徴でもあり、またそれが極めて有効であることを証明して見せた。

それに対し、米国は中国に資本の自由化と知的財産権保護を要求しているわけだが、知的財産権は既に手遅れであって、資本の自由化や企業に対する国家支援を禁止し国際間で自由競争を確保することを視野に入れている。

しかし、それを促進すればするほどに、中国を国際金融の枠組みに取り込むことになると同時に、それは中国の資本リスク、金融リスクを無視できなくなるということを意味する。

中国経済は20年間立ち直れない

実現可能であるか否かは未知数の部分も大きいわけだが、米国は徹底的に中国経済を叩きにかかっている。現在中国は国内経済の悪化が止まらない状況にあるのも事実だ。

中国国内のインフレは豚コレラの影響もあり食材市場を中心に急激に高まっていて、各地で暴動が起きている有様だ。同時に、中国国内での投資が絶体絶命で、不動産が国内投資の牽引役としての機能を果たせなくなっている。また、企業や金融機関のデフォルトが相次ぎ、理財商品と言われる私募債が次々にデフォルトしている状況である。

つまり、総額1.76京円あるとされるシャドーバンキング(世界のシャドーバンクングの5割を占める)が連鎖してデフォルトする危険性に晒されている。

さらには11月26日、中国国営企業最大のデフォルト(天津物産集団)が発生した。この企業は中国国営企業でも大手であり、さらにその優良企業であるはずの1360億円のドル建て債がデフォルトするという、極めて危機的な案件が発生した。

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もはや習近平は、国営企業のドル建て債デフォルトさえ、救えない状況であると言わざるを得ない。

さらに中国の総債務は9600兆円と言われるが、6.5%と発表されたGDP成長率が実質的にマイナス成長であるとすれば、単純に債務維持など出来るはずがない。

そうした事実が、米国政府の要求通り資本の自由化を行えば、嫌でも白日の元に晒されることになる。

日本もバブル崩壊後、バランスシートの修復に20年を要したわけで、威嚇にならないほどの規模になっている現在の中国経済を想像すれば、落ち込み始めた中国経済に歯止めを掛けることは、現実的に短時間では不可能と言える。

最も危険なのは金融市場

中国を完全にWTOの枠組みを適応し、資本の自由化や公平な企業の国際競争を適応させることは、いまの中国経済の規模からしても、正論であり不可避であると言うことは否定できない。そしてそれは、現時点での米国の正義なのだろう。

米国はすでに中国企業の米国株式市場でのIPOやし、債券発行による資本調達を制限(実質的に禁止)しているが、中国が資本の自由化をある程度高いレベルで承知すれば、結果的に中国を世界の金融市場に完全に組み入れることになる。

市場開放し、資本の持ち出しを自由化すれば、ある意味では日米企業にとって投資機会が増え、自由市場が拡大することになる半面、為替を自由化すると人民元は確実に暴落し、その結果莫大な影響を日米輸出企業はこうむることにもなる。

そして資本の自由化は、現状では「沈む泥船」からの下船が急激に高まる。

中国GDPの圧倒的比率を占める国内投資は、増えるどころか壊滅し、外貨準備は枯渇するかもしれない。

つまり、米国が中国に対して突きつけた要求を、中国が飲んだ瞬間に中国リスクは世界の株式市場、債券市場の巨大なリスクになる。そうなれば従来のように、また現在のように株式市場が中国リスクを無視するようなことは許されるはずがない。

中国リスクとは、米国(トランプ政権)がトリガーを絞る金融リスクと成る可能性が濃厚と考えるべきだろう。

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どの道世界経済はクラッシュする

世界の株式市場は好調で、特に米国市場は米中関係修復を材料に、史上最高値圏にある。そして、突発的かつ重大な出来事でもない限り、この先も暴落する予兆は極めて少ない。

日本市場も10月中旬以降、海外勢が買い転換したことによって、ザラバでの空売りがまったく出ない(30%台)状況になっているし、先物ポジションも買い優勢で推移している。これでは、現物の利食い以外に株価が下落する要因が見当たらないわけで、暴落のしようがない、と言った状況だ。

しかし、日本は実体経済から乖離した株価であるために、割高、高値圏であることも否定できない。

行き過ぎた乖離は必ず調整をもたらすわけで、日米市場ともに、近いうちに株価は調整局面と成るかもしれない。それはそれで、極めて自然な株式市場の値動きの範疇だろう。

だが、その裏には悪化する中国経済というリスクが付きまとっている。そして、米国が正義の名のもとに中国経済を開放し、難題を突き付けることになれば、途方もないリスクを背負うことになるのだ。是非は別にして、中国の存在は現在の自由主義圏から隔離したような距離感によって成り立つものなのだ。

無茶苦茶な債務を持つ超大国を公平な国際競争に組み入れた瞬間に、世界経済はクラッシュすると考えずにはいられない。

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