俄然キナ臭くなってきた米国・イラン情勢
- 2020.01.03
- 海外情勢
午前中の早い時間に「相場楽観も2020年の複雑な情勢を注視」を書いた時には、米軍が報復としてイラク内のヒズボラ拠点に対し空爆した、というニュースしかなかったわけだが、その後米国国務省が、「トランプ大統領の指示でバグダッド国際空港付近の空爆によってイラン革命防衛隊の司令官が死亡」と発表して、にわかに緊張が走った。
その結果、株式市場が急落するとともに、ドル円がとうとう¥107台に突入するという、事態に陥った。
今回は唯では済まない
イランにはイランの正規軍のほかに、イスラム最高指導者およびイスラムそのものを守るための軍隊として「イラン革命防衛隊」があり、イランの正規軍とは全く別の命令系統によって動いている。もちろん、現在はハメネイ師直轄の軍隊として、常に作戦行動を行っていて、ホルムズ海峡でのタンカー攻撃やサイジ油田攻撃、さらにはパレスチナ・ガザ地区のイスラエルとの戦闘、そしてイエメン・フーシ派によるサウジとの戦争等々すべて革命防衛隊の支援によるもの(または作戦行動)だ。
なので、米国が核合意を破ったイランを批判し、敵視してもイランは「濡れ衣だ」という言い逃れを行っているわけで、実際にイラン国軍であるイラン軍はそれらにかかわっているという証拠は何一つない。
また、安倍首相はイランと米国の仲裁役を買って出ているわけだが、外交でいくらイランと対話したところで、効果などあろうはずがない。問題は、イスラム対米国の対立であって、国家間対立ではないからだ。
その革命防衛隊を直接相手に戦闘を行った今回の米軍空爆は、遂にイスラム・シーア派全体を敵にした戦闘状態に突入したと理解すべき状況になった。日本でもペルシャ湾、ホルムズ海峡に自衛隊の派遣が決まったわけだが、これで安全という担保はすべて吹っ飛んだことになる。
しかも今回米国がソレイマニ司令官を死亡させると言う展開は、非常に危険な状況を生む。ソレイマニ司令官は、米国が同氏殺害を意図していたか否かは不明だが、イスラム国打倒に尽力し、米国の影響力に対抗できる人物とイランで称賛されている著名人でもあり、また革命防衛隊の象徴的な存在でもあるからだ。
懸念されていた新たな戦争の火種
米国は湾岸戦争やイラク戦争を戦い、そして9.11の報復として「テロとの戦い」を宣言し、アルカイダせん滅のためにアフガニスタン介入とこの20年間で幾多の軍事介入を繰り返してきたわけだが、恐らく「軍産複合体」または「ディープ・ステート」と称せられる勢力にとって、まったく不満なのだろうと思う。
トランプ政権になっても、オバマ時代と同様に常に美味しい思いをしているのはウォール街であり、彼らは言ってみれば冷や飯を食わされた存在だった。そして、いよいよここにきて、共和党の支持母体でもある彼らの不満を解消するような政策をトランプ大統領もとらざるを得なくなった、と考えられる。
そうなれば、カザフィー大佐やオサマ・ビン・ラディン殺害のような、一過性の作成行動では済まない可能性が高いのだ。
今回のソレイマニ殺害は、イランが支援するすべてのイスラム過激派を敵に回すことになるかもしれない。そして現時点では、サウジを中心とするスンニ派よりもイランを中心とするシーア派の勢力は圧倒的だ。だから、イランは米国はもちろん、スンニ派に対しても攻撃を行う可能性が濃厚である。
そうなると、イスラエル・米国・サウジに対する攻撃という第五次中東戦争の可能性も否定できない。
世界経済に重大な影響
米中対立が世界経済の最大の懸念とされてきた2019年だったわけだが、世界の株式市場はこれを楽観していた。理由は、関税合戦等はあっても、米中の軍事的な衝突はあり得ないという見方だったということ。中国がウイグルで如何に非人道的な政策を推し進めようが、香港でやりたい放題の共産党支配をおこなおうが、それが軍事的な衝突に発展することはあり得ないと思っているからだ。
そして少なくとも投資家たち(ウォール街)は、米国とイランの対立、中東地域での諸問題は一気に軍事衝突に発展する可能性があるという懸念を無視していた。
言ってみれば今回の米国国務省の発表は、米中合意第一弾の調印に踊った株式市場の史上最高値圏で起きた寝耳に水の出来事だ。従って急転直下こうした事態に陥った事に対する準備が何一つ出来ぬまま、米国株式市場は史上最高値圏での判断を要求されることになった。
2日、米国株式市場は米国債10年物金利が弱含み、ドル円がドル安方向で推移するなか、$330高という棒上げを演じた。しかし、既に2日の時点では、こうしたことを一部織り込み始めていたのではないか?と見る。
そして最終的に国務省の発表で、株式市場が今夜になって反応するという状況に陥った。とりあえず、今夜の米国株式市場は事態を織り込むのが十分なレベルには成らない可能性もある。しかし、イランの報復攻撃は、どのような展開を見せるのか全く予断を許さないわけで、場合によっては重大な事態に直面する可能性もあるわけで、非常に厳しい状況になったと言える。
仮に米国とイランの、いやイスラム過激勢力との対立関係が先鋭化すれば、世界中がテロの恐怖に巻き込まれかねない。とりわけ新米の立場を明確にする国々は危険だろう。もちろん、日本とてそうした国家の筆頭でもあるのだから。
浮かれ過ぎた株式市場
米中合意を好感して、何を狂ったか米国ダウは昨日$330ドル高を演じた。いや、米国市場だけでなく、欧州市場も全面高、中国も香港も、政治的な対立を無視しての全面高となっていた。北朝鮮の挑発に対して、米軍は実際に軍事力行使の準備を整えて展開している、という事実があるにもかかわらず、懸念を抱くこともなかった。
しかし、世界の株式市場では、こうした楽観は一気に修正される展開になるかもしれない。
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