不況下の株高:景気回復するのか株価が下落するのか?

不況下の株高:景気回復するのか株価が下落するのか?

「不況にもかかわらず将来への期待を織り込んで株価が上昇する」という解説は明らかに間違ってる。この説明はいかにも苦しいばかりでなく、要は株価上昇の要因ははっきりとはわからない、と言ってるようなもの。はっきり言って「誰にもわからない」と居直ってもおかしくない場面に、現在の株式市場は遭遇している。

過去を見て将来を見極めようとする

何か不透明な事象に遭遇した時、人間は必ず経験則や歴史に頼ろうとする。過去がこうだったから、様々な条件やバックボーンを比較して比較的近似な事象を戻に判断するという手法を取る。今回の新型コロナ発生と感染拡大に関しても、どうしても過去の軽計測をベースにしてこの感染症を判断して、予測を立てるしか方法がない。

そうした手法はかなりの確率で当たるのも事実で、たいていの場合はそれで済んでしまうことが多い。つまり、SARSの時はどうだったとか、インフルエンザと比較したり、もっと言えば、天然痘やチフスみたいな相当過去にさかのぼってみたりして、いろいろ比較して予想を立てようとしたりする。

しかし、過去と現在とは決定的な差が存在していて、それ自体は直接比較ができないから、因子から外して共通な部分だけを抜き出して比較するわけだが、そういうことが意味があるのか?と冷静に考えてみることも必要なのではないか、と思う。つまり、過去に起こった事象と現時点で進行しつつある事象の違いを認識することを軽視すると判断が狂うと思う。

決定的な違いは2つ

リーマンショックで世界経済が危機的状況に陥った時、世界は金融緩和によって金融部門を支えることでリペアできると学んだ。従来の観念からすれば、中銀が通貨発行量を増やせばインフレ懸念がある、というのが歯止めになっていたわけだが、イチかバチか(他に方法がないから)中銀はそうせざるを得ない状況に追い込まれた。しかし、(日本を除く)欧米中の中銀はほぼ強調し通未曾有の金融緩和を実施し、インフレを招くことなく景気を回復させることに成功した。

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これが現時点での唯一無二の方策と認識されるようになってしまった。基軸通貨であるドル、そしてそれに準ずるEUROが協調して金融緩和をすれば、為替レートは大きな変化が起きないという理屈で、金融緩和の資金は不良債権処理に使われるので、理論上はマッチポンプのようになって、負の資産の穴埋めに使われインフレ効果がほとんど発現しなかった。

これが、米中貿易戦争懸念で株価が急落した2018年のクリスマス暴落の時も、年が明けてすぐにFRBが金融緩和姿勢(利上中止と利下げ)を打ち出して、約一か月でV字回復した。今回の新型コロナによる株価暴落も基本的にリーマンショックやクリスマス暴落と同じ政策を中銀は行い、これまでのところ、同じような効果を発揮しているといってもいい。

しかし今回の新型コロナによる不況は、過去の事例と大きく異なる点が2つ存在する。

生産と消費の双方が同時に失われた

今回の新型コロナ感染拡大によって、各国は都市封鎖や外出制限といった行動規制を打ち出したことによる実体経済の悪化が、株価暴落を先導したのであって、2月以降の暴落場面は将来の懸念を織り込んだものではなく、まさに足下の実体経済の悪化を反映する動きだったということになる。

新型コロナウイルスへの恐怖から、世界中が同時に経済活動の規制を行ったことで、サプライチェーンが分断されただけでなく大量の失業者を生み出し、その結果生産もそして消費も同時に失われてしまったということだ。

リーマンショックは、債券の流動性が失われたことにより金融機能麻痺に陥って、それが実体経済へ波及するというプロセスを取った。だからこそ、過剰な金融緩和という異例のカンフル剤を注入することによってかなり偶然に危機を脱することができた。資金の流動性が戻れば、企業活動や雇用は守られるからだ。

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これは1929年に始まった世界大恐慌も、ほとんど同様なプロセスをたどっている。つまり、リーマンショック時には(世界大恐慌の)歴史の教訓が当てはまったと言えるのかもしれない。しかし、近代になって過去に、たとえ戦時でさえ今回ほどの生産と雇用が同時に失われたことはなかった。

したがって今回の不況脱出のためには従来のような金融緩和だけでは不十分で、生産と消費の回復が必須条件になり、新型コロナ以前の状況に回帰するためには人々の行動規制を撤廃する必要があるのだが・・・。

中国共産党という悪魔の存在

ではなぜ世界中が今回の新型コロナに対して過剰とも思える拒否反応を示したのか?単純に未知のウイルスに対する恐怖ということだけでなく、そこには過去20年間にSARSを筆頭として鳥インフルエンザ、豚コレラ等々度々新種のウイルス感染症を発現させてきた中国の国家体制への不信感が、一気に世界各国の出入国禁止措置へと導いた。

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もちろん、その判断は中国自体の国際社会における情報隠蔽体質、領土拡張と人権無視の振る舞い、といった極めて独善的な姿勢がバックボーンにあるわけだが、経済が急速に発展しGDP世界第二位の大国になった傍若無人な態度に危機感を募らせていたという側面も無視できない。

中国は市場開放という名目で日欧米からの投資を促し、世界のサプライチェーンの中核としての地位を確立した。しかし、国際公約していた資本の自由化を無視し、気が付くと中国進出を果たした企業は利益を国外へ持ち出すこともままならないという状況を改めて思い知らされた。それを2018年から始まった米中貿易戦争で多くの企業は再認識することになる。

中国企業の肥大化とともに、ファーウエイを筆頭とするハイテク企業が世界を席巻することで、様々な情報を独占し、情報大国として世界に君臨しようとする矢先に米中貿易戦争がはじまり、そして新型コロナウイルスの感染拡大という大事件が発生した。

ここまで来てようやく世界は気づき始めたのだと思う。そして、中国市場における経済的な利益が、サプライチェーンの崩壊によって期待できなくなったとき、米国は真剣に中国とのデカップリングを覚悟したのだと思う。

現代において、領土拡張主義で復権を狙う国家は、ロシアと中国なのだ。そして、近年中国は、チベット、新疆ウイグル、内モンゴルと力づくで領土を拡張し、さらには南沙諸島を埋め立てて基地を十数か所建設、そのうえで香港と台湾の帰属を画策し香港は国家安全維持法によって強制的に帰属措置を講じた。

こうした国家の行動が、新型コロナの蔓延とリンクしているのでは?という恐怖感が、世界中に蔓延した。

したがって、今後中国を核としたサプライチェーンは、コロナ以前に回帰することはあり得ない。つまり、世界が新たなサプライチェーンを構築するまでは、生産と消費が正常化することはないと考えるべきだ。

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株価上昇の大きな矛盾

今後、生産と消費が新型コロナ以前の状況に復活するとしても、それは新たな経済体制下となるわけで、相当な時間がかかる。まして世界が新型コロナを克服できるのか否かは、現時点では未知数のはずである。もちろん、新型コロナワクチンの開発への期待感はあるにしても、生産と消費(実体経済)が、回帰するか否かは全くの不透明感が漂う。

すでに米国は、中国とのデカップリングを明らかに選択し、インド、インドネシア、ベトナムといった新たなサプライチェーンを模索し始めているだろうし、国内回帰という選択もある。

おそらく、世界が新型コロナを克服し、新たなサプライチェーンを構築するためには、少なくとも(うまくいっても)数年はかかるはずで、株価は今後実体経済を織り込む動きにならざるを得ないと考える。そもそも、新型コロナ暴落そのものが、実体経済を織り込む動きであったはずで、それは過去の不況(株価暴落)とは、大きく異なる様相だと思う。

なので、目先は米中対立に焦点があたるのは必至だ。

今回の不況(株価暴落は)、金融緩和では克服できない可能性が濃厚で、となると世界の体制変化という極めて政治的な因子が大きく影響してくる。

現行株価は大きな矛盾の中にある。

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