新型コロナで思考停止に陥った米国社会 前篇
- 2020.11.07
- 海外情勢
FRBのパウエル議長は、今回の大統領選挙を苦々しく見守っているだろう。そして内心では今回の新型コロナ対策で市場に供給した無限資金によって、米国経済は今のところクラッシュを免れている。そしてパウエルは「これ以上金融当局としてできることはない、あとは財政政策の問題だ」ときっぱりと言い切っている。そこで発生したのが今回の大統領選挙の混乱だ。
しかし、パウエル議長が望んでいるのは財政政策による雇用の再生であって、企業にはFRBが、個人には財政で支援してこそ、米国経済の危機脱出は可能という考え方なのだが・・・。MMTを背景とする民主党の出鱈目な提案とバイデンの根拠のない政策は、米国経済最大の危機になりうる危険性を孕んでいると感じているに違いない。
パウエルはトランプ政権を評価している
バーナンキ、イエレンと続いた米国経済の立役者を就任直後のトランプ大統領否定し、FRBの独立性を弱め政権追従型の金融当局とすべくイエレンの後任に地味なパウエルを指名した。ブッシュ政権で財務副長官を経験した後、投資ファンドのカーライルのパートナーとして活躍し、FRB理事に就任んしていたパウエルにトランプ大統領は「リアルビジネスがわかる」と経済学者のイエレン以上の評価を与えた。
議長就任後のパウエルは金融当局の独立性を意識するあまり、トランプ政権の政策に迎合しない姿勢を見せ、利上げプロセスに踏み切った。時に米中対立が本格化している中での利上げにトランプ大統領は激怒し、大統領とFRB議長の関係は極めて険悪になったが、2018年の年末にパウエルが利下げに踏み切ったことで、米国経済は米中貿易戦争の悪影響を凌いだ。
以来、パウエルはトランプ政権の対中関税引き上げ効果を実感し、国内経済に悪影響が出なかったことを評価するとともに、今回の新型コロナが出現するまで、米国社会の好景気を演出した。パウエル議長はトランプ大統領の外交手腕や国内政策を高く評価するようになった。特にトランプ政権下で失業率がFRBの目標をはるかに超えてほぼ完全雇用を実現している実態を認めないわけには行かなかったのだ。
その理由は、雇用の期待以上の改善は、金融政策ではなし得ない困難な目標であったからに他ならなかった。
株式市場は金融緩和に踊り続けたい!?
国内で雇用が大いに改善し、新たなベンチャーの上場が相次ぐことで、米国株はリーマンショックから11年間下げ知らずの右肩上がりを維持していた。少なくとも新型コロナクラッシュまでは極めて安定した経済状況だった。
しかし突然の新型コロナウイルスの全世界的な感染拡大で全世界の株式市場はリーマンショックを上回るほどの大暴落となったとき、世界の金融当局はあらゆるリスクを覚悟のうえで、無尽蔵と思えるような資金を金融市場に対し提供した。FRBは債券市場に無制限の資金供給を行うとし、いち早く債券市場を下支えることで企業の倒産と債券の暴落を防止すると主に、間接的に米国債を市場で買い支えることで金利の上昇を抑え込んだ。
そのうえで、金融システムを維持しながら、トランプ政権は約400兆円もの財政出動で、米国民の生活や中小企業を守りぬた。いち早く現金支給を実現し、家賃や学生ローン返済の猶予、中小企業への補助金や失業保険の割り増し支給をタイムリーに繰り出してコロナ禍を防止するとともに、新型コロナワクチン開発を奨励した。
そうしたトランプ政権の政策を評価した株式市場は3月末の底打ち以降、急速にリスク選好に傾き、ダウとS&P500はいずれも新型コロナ以前の水準を回復し、NASDAQははるかに上回る水準にV字回復を見せた。FRBの金融政策と、政権の財政出動でリスクオンとなった株式市場は戻り相場にわき、さらに大統領選挙を境に2016年同様の上昇相場を演じようとしていた。
たとえ米国の主役がトランプからバイデンに交代しようとも、今度は間近に迫った追加景気対策においてトランプ政権が提案していた180兆円の対策に対抗する形で民主党が220兆円の予算規模を提案したことを材料にしたのだ。これで、完全にトランプが負けバイデンが勝ってもバブル相場で踊ろうとウォール街は考えていたのだ。
バイデンの政策を大して吟味することもなく、ペロシ下院議長のMMT政策に乗せられ踊り上がった。時として株式市場は、目先の利益に飛びつく。まして大統領選挙というイベントを使い、決算の年末に向かって一儲けをたくらんだのは、当然の経緯かもしれないが、そこに大量の個人資金がなだれ込んだ。
そうなると、相場は強い。米国のみならず日本も同様で、海外勢は米国同様に情報へのボラティリティで大儲けしようと思っているに違いない。
米国経済を全否定するバイデン政策
バイデンは、極左、中道、保守系、人権主義者、環境主義者等々あらゆるリベラリストが寄り集まった民主党の大統領候補であるがゆえに、個人的にはリベラルな政策を全面的に掲げざるを得ず、その上極左的な黒人系女性副大統領を指名した。そうしたリベラル色を薄めて経済対策を政権を大幅に上回る大型予算で際立たせるという下院議長ペロシ戦略が大統領選挙を後押しした。
よく見ると民主党州知事の州に対する新型コロナ対策や教育補助等偏ったペロシの追加景気対策と、バイデンの公約はまったく関係性のないものであり、米国民に対して「バイデンが大統領になれば、無尽蔵に予算を投入します」と言っているようなもの。極めて耳障りのよう政策だが、その付けはすべて米国民が極めて近い将来に背負うことになる。
トランプ政権は未曾有の大減税を実施したが、バイデンが政権を奪取すれば、MMTの許容範囲を逸脱し、ドル安と金利上昇に悩まされることになる。そうなれば、バイデン政策のすべてが米国経済を徹底的に破壊する。そして米国民は未曾有の大増税に直面するだろう。いよいよ米国は大不況時代へと突入するかもしれない。
まず新型コロナ感染を抑え込む
バイデンが大統領に就任したなら、まず真っ先に取り組むのは新型コロナ対策であることは明らかだ。バイデンは必要以上に新型コロナを恐れている。それはバイデン自身が高齢であることや、基礎疾患があることに起因するのは明らかだが、就任したらホワイトハウスの地下にある危機管理室から出てこないのではないか?というジョークもあるほど。
仮にバイデンが新大統領に就任し、その後新型コロナに感染して万一のことが起きたなら、次の大統領は米国初の女性極左大統領誕生ということになる・・・。
バイデンはマスクを奨励し場合によっては義務化を促進するかもしれない。そして大都市で再び感染拡大すればロックダウンも辞さないだろう。すでに米国民が年明けすぐに直面する家賃補助の期限切れには、追加対策は間に合わず、3000万人の米国民がたちどころに困窮する。
それでも、バイデンは新型コロナ感染対策を強化し続けるだろうし、そうなると極寒の季節に米国の都市部では家を失う人々があふれ、新型コロナ対策は無力化するだろう。
グリーンニューディールという張りぼて政策
バイデンの政策の中心を占めるグリーンニューディールとは、化石燃料を全廃し、再生可能エネを促進することに大型投資をしつつ雇用を維持するという絵にかいた餅だ。そのためにまずパリ協定に復帰し、EVの普及を促進し、大型の太陽光発電の開発に大型の予算を投じるとしている。米国を環境に配慮した優しい国に作り替えるという再作だが・・・。
笑止千万の夢物語だ。
そもそも米国社会においてクリーンエネルギーが論じられているのは僅かに自動車の一部のみであって、EVの普及は莫大な補助金を必要とする。米国は空調や家電、産業用機器、工場、家、等々すべてが日本流で考えるエコとは程遠い状況である。したがって米国社会のCO2排出量を減らすということは10年、20年かかっても3割も達成できないもの。
しかるにバイデンは、老人ボケの戯言としか言いようのない、5億枚のパネルで化石燃料の代替が可能と平然と言ってのける。大規模発電所の建設によって新たな雇用を生み、化石燃料の雇用を代替するというが、広大な国土の米国でいかに発電ロス、送電ロスが出るのか、全く計算されていない口頭無人の戯言なのだ。
国民皆保険(バイデンケア)の欺瞞
米国ではオバマケアの導入により、2500万人が新たな医療保険に加入した。しかし、オバマケアは新規医療保険加入者は約半数で、後は民間保険からの乗り換えであったと言われている。政府制度であるから保険料負担が安いと宣伝されたが、実際には保険料が上昇した例が少なくない。それは民間と違い政府では運用ができないためである。
しかし、バイデンはオバマケアを進めて国民皆保険を実現するとし、ご丁寧にTV討論で「バイデンケア」と命名までしていた。
正直オバマケアが進まなかった要因は、米国の高額な医療費と貧困層にある。これを日本並みの国民皆保険にしようとするならば、年間の追加予算は100~200兆円といわれ、財政的に困難なことが分かりきっている。まさにバイデンの公約は、後先考えない、また考える必要もない老人の単なる夢物語以外の何物でもない。
グリーンニューディールやバイデンケアということを公約に掲げること自体、教養にある人間から見れば「老人ボケ?アルツハイマー?」と感じられるのであって、バイデン氏自体の所作や表情、発言をさして差別的に表現しているのではないのだ。
そのレベルを取り上げるのは低速なメディアだけである。
大増税とMMT
バイデンが民主党内で候補者になるために妥協して作り上げた政策公約は実現性のない張りぼてであることは明らかだが、その裏にはMMTが存在する。「政府は過度の金利上昇やインフレが起きない限り、無尽蔵に通過を発行し国債を中銀が引き受けることができる」というMMT理論は、一見真っ当な主張に見える。そして民主党には、本来的な意味も分からずにむやみな主張を繰り返すオカシオ・コルテスが在籍する。
日本でもMMTを主張する経済学者や評論家は存在するけれど、この理論は現状の閉鎖的な経済空間、つまり国内経済だけを考えるならば、そこそこ正しいという側面があるものの、国際経済に躍り出るとたちまち破綻する。
つまり、米国がインフレになるまで無尽蔵に通過を増やすと、為替が完全に崩壊するのだ。例えばドル円では¥50などという状況が簡単に訪れる。ドルはどんどん安くなり、人民元は限度なく高くなる。となれば、日本も中国も、EUとて為替介入を繰り返さざるを得ず、全世界的なとどまることを知らないインフレがはじまるのだ。
そうしたことが起きると、一時的にはインフレによる好景気となるものの、ほどなくして経済は逆転し未曾有の大不況に陥り、資本主義は破綻するだろう。
その時に生き残るのは紛れもない人民元であり国家統制の容易な中国であることは言うまでもない。
また、バイデンの公約はすべて、無尽蔵と言えるほどの予算を必要とするために、FRBが追従する可能性は低い。ということは、日本のように無限に中銀が国債を引き受けるというリスクをFRBは侵さない。それはドルが世界の基軸通貨であることを十分に意識しているからだ。
そうなると当面、バイデンは公約の増税に踏み切るだろう。バイデンの公約は法人税が現行の22%から28%に、年収40万ドル以上の富裕層に増税、というものだが、全く足りずにほどなく増税対象を広げるだろう。となれば新型コロナで傷ついた国内消費が、致命的な打撃を受けることは必至なのだ。
さらにコロナ禍・低金利で住宅建設ブームの米国社会では、金利の上昇は国内経済を直撃する状況なのだ。したがって、金利上昇を考えずにバイデンの公約を実現することこそが、まるで絵にかいた餅と言える。
債券・株式市場の大暴落の可能性
現在の米国株高は、今後右肩上がりで続くものではないということを、確かにウォール街は意識しているはずである。ウォール街のシナリオは、トランプ政権と民主党が打ち出している新型コロナ対策での、追加景気対策予算が年内合意することだった。
トランプ、バイデンのどちらがだ選挙で勝とうが、対策合意に漕ぎつければ年内株高が演出できる。その場合、バイデンなら民主党の対策予算が40兆円多いことがプラスであると考えていた。そしていくら感染者数が増えようが、上手くすると年内に新型コロナワクチンが間に合って、株価上昇に拍車がかかるかもしれないと目論んでいただろう。
だが、懸念していた大統領選挙は縺れそうな様相となり、景気対策はうまく行っても年越しは免れない状況になった。さらに、バイデンの政策が明確化する2月の一般教書演説には、ネガティブな状況となりそうだというシナリオくらいまでは想定しているだろう。
しかしながら、債券市場や株式市場は、急増する新型コロナ感染者数に耐えられない可能性が大いにある。また縺れて法廷闘争に持ち込まれる大統領選挙に対する懸念もある。さらには欧州の感染拡大の影響も米国経済を直撃するだろう。そして機運が高まって米国内でもロックダウンを敢行する州知事が出現するかもしれない。特にニューヨークやシカゴ、デトロイト、そしてロサンゼルスやサンフランシスコでロックダウンとなれば、嫌でも株式市場は意識せざるを得なくなる。
つまりこれから逆回転のトリガーはあらゆる場面で際立つことになる。その上、中国の軍事的動向も無視できない。
それ以前の問題としても、バイデンが大統領になるとすれば、株式市場はそれを歓迎できるだろうか?(後篇に続く)
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