気が付けばカオスの入り口にある株式市場

気が付けばカオスの入り口にある株式市場

ジャクソンホール会議の前日というのに、米国市場は楽観ムードが支配的で、イベント後の上昇を当て込んだ買いが優勢の展開だった。ここ数日の戻り相場で、米国経済の陰りを無視して上昇。S&P500とNASDAQは史上最高値を更新していたし、ダウも今夜にも新値を獲ろうかという勢いだった。

米国市場の楽観

いま、米国市場は、FRBの「インフレは一時的」という楽観の上に成り立っている。投資家はサプライチェーンのボトルネックもインフレも時がくれば収まるという前提で、企業収益に対する悪影響は織り込んでいない。けれども、冷静に考えて過去最高の求人数と急激な賃金上昇、コモディティの高水準でのホバリング、そして下がる気配がまったくないコンテナ価格と住宅価格、高値安定の中古車価格等々年内には収束という前提は恐らく楽観以外の何物でもないだろう。

加えてイエレン財務長官も、インフレに関しては年内で収束という見方を発表していたけれど、思うように雇用が伸びず、コロナ禍以前の雇用に600万人ほど届かない状況が続いていることは、計算外だったのではないか。加えて失業保険の割り増し給付(週$300)期限が切れる8月、9月で相当の伸びを予想しているわけだが、仮に伸びるのであれば、賃金の上昇は落ち着いているはず・・・。

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すでに米国経済はコロナによってある意味構造変化が起きているのかもしれないという可能性を考慮する必要がありそうになってきた。

というわけで、このタイミングで仮にFRBが年内のテーパリングを見送るようなことをすれば、それは金融政策をミスリードする可能性が高い。けれどもそうしたリスクは株式市場はどこ吹く風なのだろう。

タリバンが暴れ始めた!

ところが、今夜は懸念されていたアフガニスタンのカブール空港近くで爆発が発生した。そのニュースには特段反応しなかった株式市場だが、23時過ぎに2度目の爆発が発生し、流石にいまだ1500人以上の米国人と数千人の協力者が出国できていないタイミングということで、株価は反応せざるを得なかった。
米国どころか日本の自衛隊もカブール空港に出国希望者が(米国の退避勧告によって)いなかったために救出できないという事態が発生した。恐らく英米の情報筋は事前にこの爆発の可能性を察知しての退避勧告だったのだろう。

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米軍の撤収を決めたのはトランプ大統領だったわけだが、その際にタリバン指導者と接見して主導権を確保していたはず。しかしバイデンはその主導権をすっかり中国に取られ、無策な米軍撤収を状況の変化を無視して強硬した結果、アフガン国軍の逃亡を招き大量の武器弾薬をタリバンに奪われた。タリバンが予想をはるかに超える速さで首都カブールを陥落させたのは、いち早く米軍の司令部を撤収してしまった隙をタリバンは見逃さなかったことが大きい。

各国の民間人やアフガニスタンの協力者の出国計画が決まらないうちに軍の司令部を放棄するという、前代未聞の敗走計画に欧州からは、撤収を延期するよう要望が出たが、バイデンは自らの非を認めたくないために断ってしまった。

日本も政治や金融当局もガタガタだが、米国とて、ここにきてバイデン大統領が有能とは言い難いことがあからさまになりつつあり、金融当局も腰が引けるとミスリードしかねないというタイミングにきているのだろう。そして恐らく、日米ともに選択を誤るという予感がする。

計画性のまるでない米軍撤退を指揮したバイデンは、民間人と協力者の出国で重大な危機に直面している。これでもしも米国人1500人のみの出国と言うことになると数千人の協力者はタリバンによって粛清されてしまう可能性が濃厚だ。

いま続報として、米国人を含めた複数の犠牲者が出たという情報が流れた。

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米国内のカオス

バイデン大統領の政策は、就任後半年で馬脚を現し始めた。まず最初に失敗したのが移民の受け入れで、メキシコとの国境の壁を撤去して移民を受け入れるとしたが、結局押し寄せる移民を捌ききれず、また不法移民の増加で再度壁を作ろうかという段階にきている。そして国境も向こう側には入国を待つ移民が数百万人待機しているのだ。これで国境に隣接する州は大混乱に陥っている。

そこに「絶対にインフレにはならない」と言い切って次々に大型の財政出動法案をぶち上げて、シェールに従事してきた労働者を吸収しようという腹積もりだが、結果として原油高、天然ガス高を招き、物価上昇を助長しているという批判が巻き起こった。

さらに、今回のアフガニスタン撤退作戦は見事に失敗し、撤退というよりも敗北感の強さを米国民は抱いていたわけだが、同時に救出作戦が思うように進まず、国民は苛立っていた。そこに今夜の爆発が起こり、遂に米国人の犠牲者が出たとなると、国民感情は急激に悪化するだろう。

当初予想した通り、バイデンにはこれ以上大統領職は無理だろうと思う。そして最悪なのが副大統領のカマラ・ハリスで、それはほとんどの米国民が失望している状況だ。あの大統領選挙で有権者以上の得票を集めて当選した大統領なのだから、所詮期待するのが無理な話なのだ。

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カオスが米国経済にも波及する?

今日、ダラス連銀総裁のカプランはジャクソンホール会議直前のタイミングで「テーパリングに関する見通しは変えない」と発言した。恐らくこれは正しいだろう。いま、デルタ株の感染拡大やアフガン情勢の悪化を理由にテーパリングに関しパウエル議長が「玉虫色の発言」を行うとこは、非常に危険であると思われる。

いまの米国経済は、半導体や樹脂製品などのサプライチェーンでのボトルネックが解消されない状況にあるが、人手不足と賃金の急上昇というもう一つのボトルネックにあえいでいる。さらにインフレは解消の目途が立たず高止まりしていて、かろうじて金利だけが低水準に抑えられているわけだが、これがインフレ圧力で上昇してしまうと、国内景気を直撃することになる。

さりとてFRBがテーパリングを先送りすれば、さらなるインフレとコモディティ価格の上昇の可能性が否定できない。そうなるとテーパリング以上に早期に利上げせざるを得ない状況に陥るかもしれない。株式市場は一時的にこれを好感しても、業績への影響が取りざたされ始めると、必ず巻き戻されるだろう。

さらにインフラ投資法案は9月に下院で可決見通しとなるが、これを実行するためには増税が必須となる。したがって遅かれ早かれ来年度の増税は避けられない。

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また中国は依然として企業締め付けを継続するとともに、米国市場に上場している中国系企業が、政治リスクや業績の開示を素直に受け入れる保証もないし、IPOも当面は出来ないだろう。恐らく年内または年明けにも恒大集団の危機が訪れる。

まさに米国経済はカオスの入り口にあると言えるのかもしれない。

日本株は上昇継続?

史上最高値付近で混乱する米国市場だが、日経平均CFDはカブールの爆弾自爆テロで急落したものの、すぐにプラス圏に戻っている。背景には米国金利上昇による円安があると思われ、完全にFRBのテーパリングによる金利上昇に備えた動きだろう。

今夜の状況を見る限り、仮に年内テーパリング開始との観測が強まるようならば、米国債10年物金利は急騰する可能性があり、その場合にはドル円が望外な円安方向に振れることは必至だ。

これはFRBテーパリングで日本株が漁夫の利を得る可能性も十分にあり得る状況になってきた。ただし危機に直面しているのは米軍だけでなく欧州各国も、そして何より自衛隊と在留日本人も同様で、被害が出ないように通過することが前提であることは言うまでもない。

米国市場のカオスで日本株が上昇する可能性が出てきた!?