今の不幸な株式上昇について
- 2021.12.12
- 世界情勢
米国11月CPIが6.8%(前年同月比)と39年ぶりの上昇となってインフレに拍車が掛かったにも関わらず、何と株式市場はコンセンサス通りという一点でネガティブファクターには取らず、三市場ともに買われるという常軌を逸した展開になった。
今の不幸な株式上昇
米国の(ウォール街の)大口投資家達は、リーマンショック以来延々と続いた金融ジャブジャブ相場の最後を謳歌するがごとく、経済にとって最悪の状況さえも無視して進軍するつもりなのだろう。通常、企業は、一般企業はもちろんだけど銀行など金融機関でも、利益を出すことで手元資金増に見合った投資が出来るわけだが、その企業活動の在り様を金融ジャブジャブががらりと変えてしまったわけだ。
つまり不況で儲からないから投資できなくなった企業に対して、金融当局が「どうぞご自由にお使いください」とほぼゼロ金利の資金を提供し、ほぼほぼ全ての企業が投資過多になった。金融当局は景気が弱くなるとなんでもかんでもジャブジャブによって強制帝に回復させてしまうという手法以外に見いだせなくなってしまったわけだ。企業はそのたびに投資過多がエスカレートし、慢性的に企業規模、ビジネス規模に見合うよりもはるかに多額の負債を抱えていることになった。
景気が良好なうちは債務過多は見え辛くなって「業績好調」と言われるのが常。キャッシュフローのマイナスは中銀が埋めてくれるのだから、投資が増えれば増えるほど好調に見えてしまう。この回転が13年間も続けば誰でもが不況に対する認識が変わってしまう。リセッションに陥れば中銀がジャブジャブしてすぐに回復して元通り、いやそれ以上に成長する、と誰でもが信じて疑わない。ウォール街はその流れを助長することで莫大な利益を毎年手に入れてきた。それもありとあらゆる手段を使って巷に溢れた資金を転がそうとした。
債券や株式等金融商品へ現物投資するだけでは物足りないからデリバティブへ。新たな収益源の開発も怠りなく、中国企業のIPOしかり、仮想通貨しかり。そして今度は本格的に「温室効果ガス排出権市場」を盛り上げるために動き始めている。
一旦世界経済がこうした流れになると、誰にも止められなくなってしまう。各国の中銀も政府も、経済成長を達成するための手段としての金融緩和が、唯一の正解と認識するようになるし、事あるごとに繰り返されているうちはまだしも、慢性的に金融緩和し続けるようになっても違和感さえ感じなくなる。1年経てば額面は5%も着実に増え、それが毎年複利になれば、それが経済成長だというふうに理解する。
しかし視点を変えれば、それは単純に貨幣価値の下落に過ぎないということが分かるはずなのだが・・・。金融ジャブジャブという政策は意図的に貨幣価値を下落させ、額面を増やす政策であると主張すれば異端児扱いとなる時代にあって、今の経済状況が意図的に演出されたものであれ、何であれ、大部分の投資家、経営者、は非常に心地よく感じている。
だからこそ、物価が6.8%上昇したくらいでは、強引に買いを演出すれば株価は上昇してしまう。
沈黙する経済学者
最近著名な経済学者達の発言がめっきり少なくなったと感じている人も多いはず。ノーベル経済学賞も、各論や分析しか評価できなくなっているし、表舞台に立っているのはリフレ派だけと言ってもいい状況になりつつある。けれども、彼らは世界経済の現状に疑問を感じていないはずがない。金融ジャブジャブ経済の到達点はまさに「ゼロ金利の世界」であって、それは宇宙論でいうところの「特異点」(理論が通用しなくなる領域)に他ならない。
(地球上と言う)限られた空間ではニュートン力学は通用したが、宇宙空間に広げると相対性理論なしでは語れなくなった。しかし宇宙を突き詰めると相対性理論でさえ矛盾が出てくる。ダークマター、多次元理論、ひも理論等々様々な想像なしでは克服できない矛盾の前に、人類はたじろぐことになった。
また多様性社会という名のもとにLGBTが叫ばれ、男女関係が少数派の主張でねじれ始めている。人類誕生以来の男女両性の関係が、社会認識として変化し始めているわけだが、生物としての進化を阻害するようで個人的には決して心地よくはない。
いま、地球温暖化しているのは事実として、地球環境の歴史を見れば地球は温暖化と寒冷化を繰り返してきたことが分かり、現在は寒冷化のサイクルにあって小さなリバウンドが起きている状況であるということが分かる。それが温室効果ガスの増大が原因とされているわけだが、人類がCO2排出を制限して温暖化を止められるという保証は残念ながらどこにもない。
何故か突然新型コロナウイルスが出現し、世界中感染拡大することで、経済的にも精神的にも、また生命さえも危機的状況に追い込まれたわけだが、なぜ?何処から?という最も重要な追及を世界は避けている。原因が分からなければ、今後もまた変異したウイルスによって危機的状況に陥るかもしれないという不安が永遠と付きまとう。もしもこれが人為的操作によるウイルスであるなら、此の先いつでも自由に世界を危機に貶めることが出来てしまうのだから。
それらすべてが、経済活動を伴った出来事であるということは言うまでもないし、起承転結によって経済は大きく変動することで新たな損失と利益が創出され続けるわけだが・・・、その度ごと損失を埋めるために金融ジャブジャブ垂れ流し、財政出動垂れ流しをやらざるを得ないとすれば、厳密な意味で経済成長と言えるかどうかは疑問である。
インフレがすべてを炙り出す
今後経済成長が止まり、株式市場が暴落するかどうか、予言することはできても時期や規模を言い当てることは、至難なのかもしれない。けれども、こうした経済を支えるための条件は、徐々に狭まっていると思う。米国債10年物(長期)金利が、インフレにも関わらず上昇しないということは、通貨の将来価値が上昇しないということに外ならず、長期金利以上にインフレが進行していることで、実質的には通貨の将来価値がマイナスになることを意味する。
米国でインフレが進行し始めたこの数か月間、10年物国債の金利水準をはるかに上回る物価上昇であり、マイナス幅は大きくなるばかりだ。ということはつまり、現在の6.8%という物価上昇は金融ジャブジャブ政策で失われた通貨価値に拍車を掛けるという意味である。
であればこそ、宇宙開発や多様性問題、地球温暖化対策や新型ウイルス対策という経済的には最大級のテーマが必要なわけだが・・・残念なことにそれらが大きな経済効果を生む20年後、30年後まで、いまの経済状況は持たない。少なくとも現時点でインフレの進行を抑え込まなければ、かつての日本のような失われた10年、20年のようになるのは避けられないはず・・・。
週末、米国株はCPI6.8%(前年同月比)を無視するかのように上昇した。投資家は、ウォール街は、現実を受け入れたくないのだろう。しかし近い将来、それも極々近い将来に、株式市場はこの危機的状況を織り込み始めると思う。なぜならば、それを意識していない大口投資家など一人もいないからだ。
年内株価上昇は最後の仇花?
CPI6.8%を平然と無視した株式市場は、15日のFOMCでのテーパリング増額を織り込み済みとする可能性が高いかもしれない。そして年末の上昇相場ということを意識した個人投資家を巻き込んで、日米市場は大幅上昇する可能性すらある。
しかし同時に大口投資家は、中銀の金融ジャブジャブ相場終焉の最大の敵はインフレであることを十分に承知しているし、金融引き締め以外に解消法がないことも熟知している。
15日のFOMCでは、テーパリングの前倒し以外には特別な政策は出ない。本来であれば利上げについて明言しなければならないはずだが、ほのめかす程度だろうと思う。この年末になって、株価が急落するような発言は出来ないと思うけれど、残念ながらFRBにも金利操作以外の手段は残されてはいない。インフレ懸念がこれほど強まってくると買いオペは当分ないし、利上げとて株式市場を気にすることなく0.500刻みで行うくらいの気合を見せつける必要があるけれど、0.250刻みを逸脱出来ないだろう。
オミクロン株は感染しても軽症で重篤化しないというポジティブな情報ばかりが出回り、現状の新型コロナ感染拡大状況をほとんど報道することはないが、現実には収束の目途は全く立たない状況。感染が拡大するとウイルスは変異しやすくなるということを考えれば、現時点でインフレは危機的状況の入り口となる可能性も否定できない。
となるとこの年末に株価が上昇するというのは、いかにも不自然で、そうなると最後の仇花になりかねない。
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