原油高を考えてみる

原油高を考えてみる

まずこの週末のWTI原油は1月19日$87.90の高値まで伸びて、その後米国株式市場の下落や在庫量の増加に対応する形で売り物が出て、21日には$82.81まで急落するという荒っぽい値動きになった。今後も米国株式市場次第では$70台へ押すことも十分に考えられる価格の位置である。が、原油の先高観が剥離したような動きではなく、利食いの域を出ない下落だったと考える。

だが僅かに1年半前の2020年4月、新型コロナが世界中で猛威を振るい始めたときには、僅かに$0.01(実質的には-$1.12)までの突っ込みを見せたことは記憶に新しい。当時、WTI原油先物は、というか原油は飲料水以下のほぼタダだったのだ。当時保管する景気が掛かるという理由でここまで叩き売られたのを覚えている。仮にその時$1であったとすれば、1年半で$84倍に跳ね上がったという、Bitcoinよりもはるかに高い圧倒的なパフォーマンスを叩き出した。しかもいまだに新型コロナ・オミクロン株の急拡大の最中であることを考えると、驚異的としか言いようがない。

地球温暖化は人為的なもの!?

果たして地球温暖化は現在の人類と文明が作り出したものなのだろうか?第二次世界大戦以前から始まり徐々に続けられた研究で「CO2の排出量が2倍になると地球の平均気温は2.4度上昇する」という説が1967年に発表され1979年には全米科学アカデミーによって「21世紀半ばにはCO2濃度が2倍に達し気温は3℃±1.5℃上昇する」という報告書を発表した。

こうした経緯を受けて1988年に国連主導でIPCC(気候変動に関する政府間パネル)が設置され、1990年に第1次評価報告書を発表し「21世紀末までに地球の平均気温が約3℃、海面が約65cm上昇するとの具体的予測を発表した。これらを受ける形で1992年にはリオ・デ・ジャネイロで地球サミットが開催され「気候変動枠組条約」の採択とともに「気候変動枠組条約締約国会議」を定期的に行うこととした。これがCOPの起原である。

以降COPは昨年のCOP26に至る会合の中で、「現代の地球温暖化は人間活動によるものが大部分であって大規模な気候変動をもたらす」と言うことがコンセンサスとなり、近年のCOPではいかに脱炭素社会、脱化石燃料社会を実現するか?ということから各国で具体的な目標を定めるというレベルに到達している。人間と文明は、この地球の気候変動を左右し、大規模災害をもたらすということに異議を唱える論調はほぼ消滅している。

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脱炭素が抱える大いなる矛盾

菅前首相は就任と同時にいきなり2030年の温室効果ガス46%削減、2050年に実質的な脱炭素社会を実現すると宣言した。しかしこれがどういう事であるかの議論は一切なされずに政治目標としてのみ掲げた理想論であることは言うまでもない。その先鋒になっているのが再生可能エネルギー事業と自動車のEV化である。

昨年のCOP26で掲げられた各国のCO2(メタン等の温室効果ガスも含む)削減目標は、現時点では温室効果ガスを削減することは社会構造上極めて困難なものであるにも関わらず、世界中の政治家がこの理想論に邁進した結果であると言える。その最大の矛盾とは、新型コロナ収束以降爆発的に増加が見込まれる全力需要に対する対策がまったく追いついていないこと。脱炭素を標榜した2050年には現在の5000倍の電力需要が見込まれるという試算もあるほど、電力需要は急激に増えるのは確実視されているものの、過渡期とはいえ化石燃料発電の需要は増加する一方であるし、各国がリスクを恐れて脱原発を推進してきたという事情があるにも関わらず、核廃棄物処理等の対策はまったく進化しないままに原子力発電に舵を切らざるを得ない状況に直面している。

正直地球をすべて太陽光パネルで埋めても将来の電力需要は担保できないし、原発代替発電である核融合は、実用化の課題も多く、また地球上に存在するヘリウム3がごく少量であるという課題に直面している。中国や米国が宇宙開発に力を入れ始めた背景が月に大量の存在するヘリウム3の争奪合戦であるわけだが、爆発する電力需要を賄っていくのは時間的にも不可能と思われる。つまり、全世界規模で合意された脱炭素目標は、実現の可能性が全く未知数の政治目標に過ぎないのだ。

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原油需要が急激に高まる!?

化石燃料のなかで最もCO2排出量が少ないのが天然ガスであり、もっとも排出量が多いのは石炭である。しかし石炭発電の大部分は中国で行われていて、言い換えると最も地球環境を汚している国であることは間違いない。原油は石炭よりもわずかにCO2の排出量は少ないが、熱効率はもっとも悪い化石燃料であると言える。しかし、原油には天然ガスや石炭にない多用途性があり、現在社会は原油なしには立ち行かない構造であることは言うまでもないのだ。原油は精製することで、重油、ガソリン、灯油等の燃料と化学製品の原料にわかれることで、それぞれの分野を支えている。

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しかも現行の$80台の原油価格は、燃焼効率やCO2排出量の基準を比較した場合には圧倒的に安価であると言えるのだ。現時点での天然ガスと石炭のコストを比較して原油は$80台でも半値以下である。そしてアンモニアを使うことで化石燃料燃焼時のCO2排出を極端に減少させる技術も実用化の手前まで来ていることを考え合わせると、意外にも激増が予想される電力需要を賄うために化石燃料が復権することが濃厚と言える。

今の新型コロナ・オミクロン株は、欧米では従来株のように危惧すべきでないという論調も高まりつつあり、新型コロナの収束は予想外に早まる可能性がある。ウイルスの特性として強毒の株から変異するたびに感染力が強まる代わりに弱毒化すると言われていて、ウイルス研究に資金を提供しているビルゲイツなどは、それを根拠にオミクロンで(新型コロナは)収束するとコメントしている。

仮に今年、オミクロン株が早期に収束するとなると、経済の急速な回復とともにインフレはさらに激しくなる可能性が高いわけだが、急増するエネルギー需要に対し安価とされる原油需要がますます増大する可能性は全く否定できない。

バイデン政権が化石燃料を否定しシェール増産を否定する以上、原油価格はOPECプラスの主導で決まる。今の政治家はCOP26を否定できなことは明白だからだ。

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原油(化石燃料)は最終兵器!?

冒頭に書いた通り原油は新型コロナ禍で$0.01というとんでもない価格を付けた。OPECプラス諸国は状況が状況だけに、唯々耐えるしかなかったわけだ。OPECプラス諸国にとって原油は唯一無二の産業であり収入源であるわけで、国家収入は莫大な赤字を計上したわけだ。また、全世界規模で推進されている脱炭素の流れは、原油採掘や新たな油床の開発に対する投資を限りなく制限していることもあり、今後の大規模油田開発はほぼ絶望的ともいわれている。

しかし、OPECプラス諸国にとって原油生産は死活問題であり、特にロシアは、天然ガスと原油の現時点で最大の産出国である上に国家再建の命綱だ。プーチン大統領は現在の原油価格高騰や欧州での天然ガス暴騰を可能な限り長期に継続したとと考えるとともに、欧米諸国のインフレなどは全く意に介さないだろう。ロシアが国際社会、国際経済で復権できるか否かは化石燃料にすべてかかっているのだ。

この30年間、ベルリンの壁が崩壊し、東ドイツの自由化を認める際に西側諸国は故意的に領土を東に伸ばすことはしないと密約をした経緯があるが、現実には旧ソ連邦加盟国の多くはNATOに加盟し、ユーロを受け入れている。そうした歴史的背景があってのアフガン侵攻、クリミア半島侵攻、であったとも言える。しかし現在では欧州のエネルギーを一手に握っているのはロシアなのだ。昨年の異常極まる天然ガス価格の暴騰はつまりはプーチンの欧州諸国に対する警告だったと思う。それに対しメルケルの後を継いだドイツのショルツ首相は怒りに任せて「パイプラインを止めてやるぞ!」言い放った。プーチンは苦笑しているだろう。

そしていよいよ、クリミア侵攻に続きウクライナ全土に対する侵攻を準備が整って、EU(NATO)の出方ひとつで侵攻する姿勢を見せている。それに対し無能なバイデンは「一部分への侵攻は経済制裁しない」と発言して世界中の怒りを買った。世界は米国はロシアのウクライナ侵攻を容認すると受け取ったのだ。

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同じく経済的に困窮しているイランもまた、原油高に同調するようにイスラム・フーシ派を狙って攻撃を仕掛け始めた。ターゲットはUAE(アラブ首長国連邦)の原油施設があるアブダビだ。UAEはペルシャ湾の出口であり中東原油輸出の最重要ポイントに位置する。ここで紛争が起こるとなると、原油価格はさらに急騰する可能性があり、当然それを狙った攻撃であるのは言うまでもない。イランもまたこの機会を逃しては国家政権できないという瀬戸際に立っている。

蛇足だが現状に同調するように北朝鮮はミサイル発射を繰り返し、さらにICBMの開発を再開させると言い出した。そして北京五輪が終了後には、いよいよ中国の台湾侵攻が始まると言われていて、日本も尖閣をはじめとした領土を占領される可能性が非常に高まっている。

役者が違う!?

こうした状況のなかで、米国・バイデン、日本・岸田、ドイツ・シュルツ、英国・ボリスジョンソン、フランス・マクロンという先進自由主義国のリーダーの顔ぶれで、ロシア、中国、イラン、北朝鮮に対峙しなければならないわけで・・・プーチンや習近平と比較するとバイデン、岸田、ショルツは絶望的と思わせるところが恐ろしい。

今の原油価格の高騰はある種のシナリオであるような気がしてならない。勿論シナリオライターはプーチンだろうと、個人的には考えている。