FRB・パウエル議長の苦悩:政策ミスと止まらぬ財政支出で制御不可能!

FRB・パウエル議長の苦悩:政策ミスと止まらぬ財政支出で制御不可能!

FOMC後のパウエル議長は、「マーケットが考えるほど、そんなに簡単ではないのだよ」と言いたそうな表情を浮かべながらも、言葉を慎重に選びながら会見していると言った印象だった。そして経済重視と言いながら経済のことに対してあまりにも無知な政治家や政権が選挙対策で金融政策や経済実態と逆行する政策ばかり次々に繰り出せば、インフレは抑えきれないのだよ、という心の内が透けて見えた。確かにFRBは苦悩しているのだ。

政府・中銀一体のインフレ創造!

バイデン政権のばら撒き政策が止まらない。苦悩するFRBを尻目に、今度はまたしても中間選挙の得票目当てに、今冬の低所得世帯の暖房費を支援するために135億ドル(約2兆円)をばら撒きを決定した。この夏に連邦政府の学生ローンを1万ドル、低所得者家庭の学生向けローンは2万ドルの返済免除を行い約45兆円を拠出し、今年3月からの返済猶予は年内いっぱい続けるとしている。

そもそもバイデン政権は2021年から新型コロナ対策のばら撒きを約200兆円という空前の規模で実施し、FRBの金融緩和とは別枠で現在のインフレ状態を作り出してきた元凶である。FRBがなかなか金融緩和を終了できなかったように、いまだにバイデン政権はばら撒きを続けている。新型コロナ対策に関してはトランプ政権で既に45兆円のばら撒きを実施した後に、政権の差を国民に見せ付けるために行ったわけだが、民主党は根拠のないMMC理論で政府債務を急激に増やしたわけだが・・・。

内政ではこのほかに総額1兆2千億ドル(176兆円)規模のインフラ投資法案を成立させていて、道路・橋、公共交通危難整備、インターネット、電力網整備、等々に支出されさらに様々な補助金が出る仕組みを導入している。つまり、米国バイデン政権というのは、そのままで巨大なインフレ創造政権と言える。

しかし、現在のインフレを助長したのは明らかに政権と一体になって未曾有の金融緩和を続けマネタリーベースを増やし続けたFRBの金融政策であることは言うまでもなく、こうした政権のばら撒きを尻目に、株式市場が上昇し、債券金利が低く抑えられ、失業率が完全雇用レベルになることに、FRBは胡坐をかいていたと言われても否定の仕様がないだろう。天井知らずの株価上昇を否定する世論など、大多数の米国民やウォール街から巻き起こるはずもない。

その意味でFRBパウエル議長は、新型コロナという困難な状況にあって、ずっと英雄だったに違いない。金融政策で新型コロナによる経済破綻から米国経済を立て直したのだから・・・。

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ロシアのウクライナ侵攻はきっかけに過ぎない!?

バイデン政権の財政ばら撒きとFRBの空前の金融緩和によって、あり得ないほど肥満してしまった社会を襲ったのがロシアのウクライナ侵攻によるエネルギー価格の高騰だった。原油は新型コロナ発生以前はWTI$60水準、その後新型コロナで暴落しなんとマイナスの突っ込むという事態の後、2021年頭の段階ではWTI$40前後だった。これが米国のばら撒き政策によってロシアのウクライナ侵攻直前にはすでにWTI$80台となっていた。

2021年には米国経済はすでにインフレ入りしていたと思われるが、これに関してFRBも、そしてバイデン政権も「一過性で2021年終わりには収まってくる」と言い続け、政権は財政出動を続け、FRBはQEと低金利を止めることはなかった。つまり、現在のインフレはあまりに過剰にばら撒き過ぎたという社会状況にあって、戦争という危機的な状況が急激に物価を押し上げ始めたということであって、さらには同じ状況が世界中で進行し、特に欧州では天然ガス価格を筆頭とするエネ価格の暴騰に見舞われた結果、事態は米国よりも深刻な状態に陥ってしまった。

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そこに中国・習近平の「ゼロコロナ政策」というもう一つの、そして世界経済にとってはロシアのウクライナ侵攻以上にインパクトを伴った「悪政」によって、世界の工場、世界の農場だる中国経済が機能不全に陥ってしまったという災難が重なった。世界中のメーカーは何らかの形で中国と関係している。自動車であれば構成する数万点のパーツは必ず中国製が含まれるし、中国に多く展開している台湾や韓国の半導体関連メーカーの生産は著しく制約を受け、その結果半導体不足が世界中を席捲することになった。

港湾では人手不足によって荷積み・荷下ろしが出来ず、港には常に数十隻のコンテナ船が空のまま停泊し、荷揚げが終わっても検疫や入館手続き、配送が出来ず、常に港湾の空き地にはコンテナが山積みされていた。これが頻繁に使われるサプライチェーンの分断である。

こうして生み出された世界規模のインフレは、そう簡単に抑制できるものではないと思う。こうしてみてみると、資金がありさえすれば何でもできる、どうとでもなるというフェーズは、すでに新型コロナ禍によって否定されつつあったわけで、資金を供給してもそれは無駄だったとも言える。結果として世界中で資金の供給過剰に陥り、それが投資され、レバレッジを掛けて運用されるしかなかった。相変わらず世界中のメディアは、カネ余りを礼賛し、富豪をフィーチャーし、年収は?年商は?という番組ばかりを作った。それがまさしくバブル末期の減少であることも気づくこともなく・・・。

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ソフトランディングは夢のまた夢

景気後退期の著しい特徴の一つは、いままで触れられることのなかった債務にスポットライトがあたるということだ。まして、インフレ抑制のために金融引き締めを急激に行うという段階では、債務問題を無視しては通れない。普通に考えて現時点での米国政策金利の誘導目標は375ー400bps。例えば住宅ローン金利は固定で300-325bpsの時に7%だった。これが昨日のFOMCが終わって恐らく8%にはなるだろう。そして、今回の政策金利のターミナルポイントが500bpsならば、その時には8%~9%になってしまう。その金利で住宅を建設しようとする人はほとんどいないのではないかな。

例えば企業債務の金利は大半が連動金利であるから、優良企業であっても10-12月期の決算は非常に苦しいものになるのは明白で、なお2023年のターミナルポイントまでに至る過程で、業績はますます悪化することが想定される。しかも、新規投資においては実現が不可能と思われるリターンが要求されるわけで、当然投資意欲は減少する。そういうことは、あらゆる経済主体の経済活動で一様に起こりうる現象だろう。

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今回のFOMCでパウエル議長はしきりに利上げと実体経済のタイムラグを強調していたけれど、インフレが満足のいくレベルまで低下せず、景気が悪化してゆくと、苦し紛れにFRBは利下げに転じざるを得なくなるけれど、その時には利下げを重ねるプロセスで景気は下落し続けることになる。

さらに欧州はもっと悲惨な状況で、EU加盟国の経済事情がすべて異なるために、米国のようなFRBが一元的なインフレ抑制政策を行うことができない。すでに多くの加盟国が10%以上のインフレに見舞われていて、バルト3国では20%を超えるハイパーインフレになっている。そのためにECBは域内のインフレが米国よりも高い状況でもなお、ECBは2.250%までしか引き上げられていない。すでに2023年のEU経済は今まで経験したことのないスタグフレーションに見舞われるのは確実である。

そうした状況を考慮すれば、米国と言えど今後は大きな試練に直面するだろう。それこそが米国債を含めた債券が流動化を失うという恐怖だ。FRBは十分に債券市場の動向を注視していると思われるけれど、今後の利上げで債券の下落が止まらなくなると、流動性確保のためにQTを中止せざるを得なくなる事態も十分にあり得る。結局揶揄されたイングランド銀行や日銀を同じことをせざるを得なくなる。

結局、「あちらを立てたらこちらが立たない」のであって、その行く末はスタグフレーション以外にないと言うことになる。マーケットが理不尽にもFRBに要求する経済の「ソフトランディング」は夢のまた夢だ。

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日銀が政策転換出来ない理由

そんな中で、世界の先進資本主義国では日本だけが、利上げをせず金融緩和を続けているわけだが・・・。黒田総裁が罵倒されながらも利上げをせずにYCCを続ける理由はいろいろ言われているけれど、その理由の一つに米国からの厳しい要請があることは確実であると思われる。特に財務省は米国財務省の要求をはねつけることは絶対に出来ないし、国債の利払いが増えること嫌うという姿勢と利害が一致している。

このまま円安が進めば、それは米国のインフレを抑制することになるし、危険水域にある米国債の流動性を確保してくれと言われたら、つまりFRBに代わって国債を大きな割合で引き受けてくれと言われたらNOはない。なので過去に¥110程度で大量に引き受けたドル準備金を使って為替介入をすれば、大きな為替差益を得ることになるし、その上で経常収支を確保したうえで米国債を引き受ければ、収支が悪化することはない。

所詮日銀の政策が変更されなければ、いくら為替介入しても円安状況は維持されるから、米国のインフレ抑制を助けているという図式は維持できる。

日銀のYCCは、住宅ローンの変動金利上限と現在の政策金利の下限でオペレーションをすれば、経済に悪影響はほとんど出ないで済む。その方法は中国人民元のオペレーションに近いものだけど、実質的に短期金利を上昇させながらYCCが出来るので、円高方向へ為替介入以上に誘導できることになるのだが・・・。

財務省・日銀の金融政策は米国財務省との連携プレイなのだ。

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2023年は大不況時代への入り口!?

米国経済、いや世界経済の現状を考えると、やはり現在のインフレ鎮圧には景気後退以外の妙薬はないと思う。もちろん利上げも重要だが、世界中でばら撒きまくった資金の縮小を行って、通貨価値を再生することが不可避だと思う。そのために必要なことはドル一極高をいかに食い止めるかが鍵となるだろう。

今の状況では為替が景気のバロメータであって、ドル円、ドルユーロを注視する必要があるけれど、米国が本格的なリセッションにならなければドル一極高は止まらず、2023年以降世界的な大不況の階段を駆け下りることになる。もちろん日本も多少のタイムラグがありつつも例外ではないと思う。