本当はホンダが大好きなんだ!

本当はホンダが大好きなんだ!

V-TECHって何!? 懇意にしてた整備工場のおにいちゃんが、「今度ホンダからでたツインカムエンジンの機構で、噴けが抜群らしいですよ」とそそられる文言を並べてくれた。とは言え「トヨタの4AGには負けるでしょ!」とか何とか言い返したのを覚えてる。本当にそれほど4AGの淀みのない噴き上がりに惚れてたから。AE86とかはドリフト御用達のFRで人気があって、もちろんそこにはしっかり4AGが搭載されてたわけで、凄くコントロールしやすくて、アクセルワークに敏感に反応するけれど、過敏とまでは行かなくてトルクがスムーズに立ち上がるタイプの、エンジンありき、の車だったと思う。

というか当時の走り屋はFRなら何でも良かったんだろうけど。でも俺は最初の女房に買い与えた中古のカローラFXに搭載されていた4AGに惚れたんだよ。1600cc4気筒鋳鉄ブロック・ツインカムヘッド。女房のお買い物車だったけど、俺のポンコツCVCCプレリュードよりは100倍いい感じの車で、当時は本当に凄いエンジンだと思ったもの。もちろんその4AGは程度が良かったと見えて7000rpmくらいまでは本当にスムーズに噴き上がって、パワーはあまりないので結構時間がかかって、その時間いっぱい快感に浸れるエンジンだった!低速トルクは細くて女房はいつもエンストしてたな。

数年後子供も出来て、当時セダンが良いかも、ということでナイススタイルのホンダ・アコードインスパイアを購入。俺も新車が欲しくなって後を追うようにR32スカイラインGTRを手に入れた。けれど納車までの10カ月間は理由をつけてはインスパイアを乗っていたんだ。当時、GTRが納車されるまで、俺は輸出仕様のブリスターフェンダーの7M-GTEスープラに乗ってた。この車3000ccターボだから力はあったけど、オートマ仕様だったもんで、とにかく危ない車だったのよ。すぐにブリブリをお尻が滑り出す厄介な性格でコーナーヘロヘロ、直線番長!THEアメ車みたいな車だったから正直、余り好きになれなかったんだよね。ブリフェンなのにタイヤ、細いし・・・フェンダーとの隙間が妙に格好悪かったし。

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なので、インスパイアに初めて乗って、うわっ!ダサい車!って思った。でもそれは街乗りの低速ドライブでの話。郊外に出てちょっとアクセルをベタ踏みしてみるとこれがなんと鬼のようなデッドスムーズさ!この時以来、なんかホンダ教に入信してしまったというか・・・・。だって女房には言えなかったけど、スタイルは確かに綺麗だったけど、直列5気筒縦置きのFF車なんて何の期待感もなかったし・・・。天童木工の木目パネルが綺麗なんて女房はご満悦だったけど、俺はその辺はどうでもよかったし。ロッカーアーム式ヘッドと振動対策のバランスシャフトがある5気筒ってなんかちょっと変態的で面白そうとは思ったけど・・・。

ところがどっこい、このエンジン、もしかしたらホンダの最高傑作かも、と思えたくらいデッド・スムーズ。この頃のトヨタ・マークⅡとか日産のローレルとか同クラスのセダンなんてみんなポンコツだと思ったよ。1G-EUなんてツインカムとは名ばかりのポンコツエンジンと思ったもの。とにかく神様が与えし5気筒って感じ。すっかりホンダに魅了されてしまったから、納車されたGTRのRB-26でさえ快感はなかった。とんでもないエンジンだとは分かっていても、ターボだし快感が涌かないんだよ。まぁ、それなりにパワーを楽しむことにしたけれどね。

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「V-TECHってそんなに凄いのか?」

「回したことないので分らないっす。でもホンダディーラーの知り合いがインテ(グラ)のType Rは化け物クラスって言ってました」

そんなことを聞いたらもうウズウズしてしまって・・・半年後には初代インテグラType Rを手に入れてしまった。そしてこのB18C specRエンジンはまさに神がかり的。5000rpm辺りでV-TECHによりカムプロファイルが変わるとさらに高速に噴き上がるというとんでもない代物で、レッドゾーンは確か8500rpmくらいだったと思うけど、あっという間にレブリミッターが作動してしまうという化け物ぶり。たしかに針は8500rpmを越えてたと思うんだ。

で、恐ろしいのはこのエンジンロングストロークだからピストンスピードは当時のF1並みの速さだったらしい。ポップ吉村じゃないけれどホンダのエンジン職人が手作業でポート研磨してるとか、カムの擦り合わせしてるとか、なんじゃそれ!っていうエンジンだった。こんなのアリかよ!って感じでもう毎日の通勤が楽しくて仕方ない。後に初代NSXを手に入れたけれど、正直インテの方が楽し過ぎて、NSXのV6のモサモサ感が気になっちゃってあまりガレージから出なかったよ。とにかく毎日がインテの日。夢心地の日々だった。

それに比べてNSXにはどこか物足りなさがあったんだ。なんで販売と同時にゴルフバッグを売るのよ!?みたいなアホらしさ。そりゃNSXでゴルフにも行ったけれど、ラウンド後にビール飲めないやん!ってね。なのでチューニングして楽しんでたくらい。SPOONのメーターはパネルの塗料が薄すぎる!とか文句言いながらね。レブを500rpm上げてスピードリミッター解除して、たまに夜中の高速へ走りに行ったりね。

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もちろん鈴鹿にも行ったし、オーナーにための講習受けて鈴鹿を走ったりもしたけれど、5周くらいでタイヤとパッドが溶けたしね。で、気が付いたことは、俺は中島悟じゃないってこと。つまりは凡人なわけで、凡人には凡人の楽しみ方があるなと。サーキットなんか走っても楽しくなかったもの。それにホンダと言う会社にも多少の違和感を感じてた。別にフェラーリを造る必要はないし、妙に高級ぶる演出も必要ないと。ホンダらしくない肩の力の入り方が妙に貧乏くささを覗き見せてしまうようなね。

はい、NSXと言うのを作りました。後はお好きにどうぞ!くらいの方がお互いが楽なんだと。メーカーは販売と同時に山ほど薀蓄を垂れるけれど、まぁ、それは演出なんだろうけどね。昼夜を厭わず開発に没頭して・・・その間に何度か浮気もして・・・みたいな、なんというかぶっちゃけたところに価値を見出せるかどうかが勝負なんだと。なのでダメなところも必ずあるし、出来なかった部分、未完成の部分、も必ず残る。

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購入者のいいところはそこが嗅ぎ分けられるという事なんだよ。そういう欠点もNSXはいたるところに簡単に見つかった車だったから余計に残念だったかも。エンジンはとりあえずレジェンドのV6をV-TECHにして・・・横置きにすればトランクが作れるみたいなへんてこりんな妥協の産物じゃスーパーカーにはなれないしね。多少の物入れスペースならフロントにあった気がするし。

インスパイア直5でホンダ教入信し、インテType R、NSXと貢いできて、最終的にたどり着いたのがS2000だった。走り倒したインテを出して、NSXも出して、オープン2シーターのS2000でなんというか本当に素直なハンドリングの車に出会ったというか。初期型のノンパワステ、デジタルメータのエンジン振動がダイレクトに伝わってくるタイプ。F20型エンジンは2000ccで250psを発揮するという代物でレブリミットは9000rpm。7000rpmから上は一段と迫力の野蛮な音と振動!リミッター解除のECUに換装して夜中の高速では200kmからの加速を楽しめてしまうというお化けオープンカー。

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最初はこのお化けのようなエンジンに圧倒されたけれど、そこまでチューンするならやはりカチっとした箱で乗りたいというのがあったよね。実際200km/hでオープンって半端ない事態になっちゃうし・・・。一般道で暴走族に囲まれてビビったけれど、なんて車!?と聞かれてS2000と答えられちゃうわけだけど、囲まれたまま信号待ちはビビりまくった。

オープンカーが売れない理由はただ一つ、車から離れられないという事。S2000はイグニッションキーを差し込んでスターターボタンで始動する形式だったけど、多少は盗難防止の意味もあったかな?と思った。駐車場に止めていちいち幌をカブセて・・・そういうのが面倒この上ない。徐々に仕事が忙しくなってきて車弄りの時間が取れなくなってきて、未練を断つ意味でもこのS2000を最後にホンダ教から脱会することにしたんだ。

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人生最初の車はCVCCの非力なプレリュードだった。マスキー法をクリアしたCVCCは小さな副燃焼室を付けることで排ガスを浄化した代わりに、パワーやレスポンスは捨て去られた感じだった。その時代からF1参戦の黄金時代のホンダが一番面白かったし、ちょうどその時期V-TECHの名車に乗れて、それらはいい思い出になっている。

そんなホンダがこれから全車種EV化に向かうという・・・。そこにはまた違った世界があるのだろうけど、そんなホンダは想像できないし、想像したくもないかも。EVになればプログラム一つでパワーは無限に引き出せる。常にバカでかい一定のトルクが出ちゃう。いや、パワーもトルクも意味のないものになってしまうかも。社員は1/3でいい。いやもっと少なくてもいいかも。工場の半数はバッテリー処理とか再生とかやってたりして・・・。

よく分からないけれど、正直、つまらなそう・・・。でもその頃にはもう俺は生きてないかもしれないね。