安倍晋三という政治家について思うこと
- 2019.06.22
- 放言
内閣総理大臣に登りつめた政治家は、日本で最も批判される対象であるべきだと思います。でも同時に日本で最も畏敬の念を持って処される人物であって欲しいという願望があります。
良くも悪しくも日本の政治家のトップであって、いまの日本を、そして将来の日本を文字通り背負っている人物であるからです。
安倍晋三という政治家
安倍晋三(敬称略)という政治家は、小泉純一郎(敬称略)という異端がもたらした幸運の政治家です。サラブレッドの家系に生まれたが故に、あえて「日本の頂点に登りつめる」という野望を抱く必要もなかったのでしょうね。
仮にそれを強く意識していたなら、「成蹊大学ー米国短期留学ー神戸製鋼」という人生の選択は有り得なかったと思います。自身の置かれた環境を意識しながらも、伸び伸びと自然に流されたという感じがしますね。
しかしサラブレッドとしての運命は変えられないものなのかもしれません。また自ら抗うこともしなかったのだろうと思います。
1982年、神戸製鋼を退職して父(晋太郎氏)の秘書官になって、目前にまっすぐに延びた政治家への道・・・。しかし、まさか総理になるとは思っていなかったでしょうね。
1987年、森永製菓社長令嬢であった昭恵夫人と結婚し、資金的な後ろ盾を得ていよいよ政治家への道が開けることになるわけです。そして1991年父の死去に伴い、1993年の衆議院選挙を制して国会議員生活がスタートしました。
血筋だけの素人政治家
政治家の条件は人間としての「器」に大きく依存するのであって、その道に入って何をどう学ぶか、ということと自身の信条をどう融合させて政治信条とするかが重要な資質となってゆく気がします。
サラブレッドの家系に生まれ、初当選を果たしたときから血筋だけの素人政治家は誕生するわけですが、その時に何を思ったかが、後の政治行動に自然に現れるのではないか?と思ったりします。
安倍首相は外務大臣であった父親の秘書官になったことで、政治家としての根底にあるのは外交であることは確実で、政治家になったときも外交を目標にしたのではないかと思います。
大学卒業後、僅かな期間ではあるが米国留学を経験していることからもそのことはうかがえますね。
そして2000年の森内閣で内閣官房副長官に就任し、後継の小泉内閣でも留任しました。そして2002年の小泉訪朝に同行し、5名の拉致被害者を帰国させると、約束であった一時帰国に強硬に反対し、同時に北朝鮮に対する経済制裁を強行に主張しました。
以来、拉致問題の解決は、安倍首相の政治的テーマとなったはずなのですが・・・。
いずれにしてもこのことが世論の支持を得て、スキャンダルで失脚した山崎拓の後任として自民党幹事長に抜擢されることになります。盟友(山崎)を失った小泉首相の大抜擢人事だったのです。
要職を未経験の(自民党)幹事長就任は、まさに「自民党をぶっ壊す」というスローガンを掲げた小泉純一郎が首相になるという大荒れの政局の果ての結果だったと思います。まさに「自民党がぶっ壊れた」後であったから実現したサプライズ。当時の自民党に小泉人事の異を唱えられる政治家などいなかったわけですね。
絡み合った運命の糸
2005年の第三次小泉内閣で内閣官房長官に就任したのが、安倍晋三の初の閣僚入りとなりました。そして小泉総理の任期満了に伴う自民党総裁選で、実質的に小泉の後継指名を受けた安倍総理は総裁選を勝ち抜き、2006年9月に戦後生まれの発の総理大臣に就任しました。
戦後生まれの初の総理大臣でした。
気がつくと総理の座に
さしたる政治的実績もなく、また経験値にも劣る安倍晋三が、小泉という異端児の出現によって拉致問題の中心人物となり、その後自民党幹事長という超サプライズ人事によって政治の表舞台に立った。
これは当時吹き荒れた日本政治の混乱がもたらした結果です。そもそも小泉純一郎という破天荒な政治家が出なければ、こうした人事はまず有り得なかったと思います。
そして恐らく本人の思いとは裏腹に、あれよあれよと言う間に内閣総理大臣に登りつめてしまった・・・。
こうした経緯を見るにつけ、総理の座は安倍晋三の政治キャリアで勝ちとった地位と言うよりも、政治状況によって押し上げられた神輿と言えるのではないでしょうか?しかも小泉という異端児の強力な政治パワーによってもたらされた偶像のようなものだったのかもしれません。
だからこそ、第一次安倍内閣は参議院選挙惨敗とともに、僅か一年の短命となってしまったのです。(参院選の惨敗によって)担ぎ手が居なくなってしまえば、神輿は成立しませんからね。
状況が2度目の総理の座に
その後の安倍晋三は、健康上の理由(機能性大腸炎)を前面に出したことで、政治家としての命は潰えたかに見えました。
しかしリーマンショックが発生し、世界規模の大不況の中麻生政権が倒れると民主党が政権奪取に成功し、自民党は在野に下ることに。
2011年3月11日、東日本大震災と東電福島第一原発の事故が発生。遅々として進まない政治状況と突如発生した大災害の対応で民主党政権は国民の支持を急激に失いました。
このことが安倍晋三の運命を大きく変えたわけです。
「絆」という言葉通り、震災による甚大な被害は、結果として日本国内のムードが保守的な流れをもたらすことになります。そして自民党政治待望論へと発展するわけですが、その時に拉致問題への強硬な対応姿勢から保守政治家とみなされた安倍晋三に白羽の矢が立つことになったわけです。
第一次安倍内閣で「戦後レジームからの脱却」というスローガンを掲げたことも、保守派には心地よかったに違いありません。気がつくと安倍晋三は、保守本流の政治家に仕立てられていました。
まさに、複雑に絡み合った運命の糸がほぐれるようにして、2012年11月14日の民主党野田首相との党首討論で、解散の言質をとると翌12月の衆議院選挙で圧勝し第二次安倍内閣が誕生したのです。
心変わり
デフレが日本を覆い尽くしていた第二次安倍内閣誕生当時の日本において、国民は保守派首相の誕生を歓迎しました。
その頃から国内では保守派の台頭が目覚ましく、安倍首相は民主党によって左傾した国内のムードを一変したわけですが、同時にそれは既得権者の復刻でもあったわけです。
アベノミクスより外交
安倍首相は、アベノミクスという経済政策を掲げ、大胆な金融緩和を日銀が行ったことでデフレ脱却のムードは一気に高まりました。しかし、効果的であったのは就任一年目だけで、二年目以降は従来の緊縮財政路線に戻ってしまいました。
そしてそのことが、復刻中心で改革のスピードを緩める結果となり、改めて既得権の復権を強固にするという皮肉な結果をもたらしました。
格差社会の到来です。
そうした中、安倍首相は日米を中心とする外交に傾注するようになります。保守派の言論をまとめ上げたことで、国民の支持率を維持するとともに、野党の衰退が顕著化していたことも、外交に傾注できた要因と思われます。
しかし、安倍内閣がアベノミクスの効果を前面に押し出しているにも関わらず、日本経済は停滞したままでした。雇用は改善し失業率が減少しましたが、家計の可処分所得は減り続けたわけです。
金融緩和によって円安となり輸出企業の業績は改善したことは、日本経済に寄与したものの、肝心な経済成長を実現できず国内問題解決の進展はほとんど見られませんでした。
官邸の権力強化を果たした結果、官僚の人事権を官邸が握ったために政治支配が定着し、安倍首相の内政への関心は急激に薄れてゆきます。またスキャンダルにも見舞われて、もっぱら外交へと急激に傾倒したのは誰の目にも明らかです。
消費税増税で参議院選挙へ
安倍首相はこれまで2度の消費税10%引き上げを延期してきました。2014年4月に5%から8%に引き上げた後に2度の増税延期後、2016年10月の衆議院選挙で「増税を子育て支援に回すという使途変更」を掲げて勝利しました。
そしていよいよ今年10月から消費税増税の決断をし、その上で7月の参議院選挙を増税を掲げて行う予定です。
言うまでもなく既に世界景気は下降局面となっていて、日本経済はデフレ回帰寸前の厳しい状況下にあります。しかも、消費を抑制する数々の政策が4月以降一斉に施行されていると言う状況・・・。
こうなると、参議院選挙で憲法改正発議に必要な改憲派2/3確保は、極めて難しい状況になったと言えます。
にもかかわらず、安倍首相は消費税増税を断行する・・・。
その理由はまったく理解できません。
日本を三流国へ?
安倍首相は消費税増税による日本経済への悪影響を知りつくしていると言われています。にもかかわらず、消費税増税を断行し、自虐的な参院選を戦おうとしているのです。
現時点では消費税増税は明らかに無謀な政策です。内需への影響があまりに大きいため、今後の日本経済は成長そのものが望めない可能性さえあります。
そうなると、現状先進国(G7)で最下位に甘んじている労働生産性はさらに悪化し、三流国水準に陥る可能性が非常に高くなってきます。
1956年池田隼人内閣で出された経済白書には「もはや戦後ではない」という有名な一節がありました。しかし、消費税増税によって、消費の腰折れが決定的になれば「もやは先進国ではない」と言われる時代が確実にやってくると思われます。
現状で安倍首相の消費増税の断行は、日本を三流国へ貶める政策かもしれません。
夢が覚めた日本人の選択
個人的には安倍首相のこうした決断の背景には、自民党総裁選三選のための条件があったと思っています。長期政権となった安倍政権は、後継政権の準備をしていると思います。つまり、四選はなしと言う前提でなお、三選の条件を飲んだ。
その条件は「外交はそのままで、内政は次期政権への布石を打つために(自民党に)任せる」ということ。現実に入管法改正、アイヌ新法というおおよそ保守政治とは無縁の移民政策を行ったり、働き方改革を断行して企業の人件費削減に協力する代わりに消費税増税を認めさせると言う産業界とのバーター。
気がつくと日本国民は、働き方改革で搾取され、移民にワーキングシェアを強制され、そして消費税増税で搾取されるという、非道の政策を強いられることになったのです。
株式投資で勝てない個人投資家が余りに多い状況ですが、30年間成長しない経済下では、儲からなくて当たり前だと思います。
いつの時代でも悪政とは低所得者から搾取するもの。
それが安倍首相のなれの果てであることを、認めないわけには行かなくなりました。
(参考)
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