株式投資 独り芝居 其の一 「日産の憂鬱」

株式投資 独り芝居 其の一 「日産の憂鬱」

やっちゃえ 日産

日産のアンバサダーだった矢沢永吉がTVCFでベタベタの台詞を吐いた後に出てくるこのコピー。当時初めてCFを観たとき、いつもハイテンションの矢沢が手放し運転をしながら冷静に語りかけるのを、なんてベタな演出なんだという感じだったけど、CFのエンディングで「やっちゃえ 日産」ときたときには、結構な衝撃だったのを覚えてる。

博報堂の松井美樹氏の作品らしいけど、いよいよ日産って本気で自動運転に突っ込むのかな?と思ったし、技術的にもある程度の目途が立っているのだろうと感じさせるキャッチコピーだった。あれから10年、いまはレベル3(一定の条件下で車両がすべての運転を担当。ただし、ドライバーが介入可能な状態で待機。)までは来ているけれど、レベル4(特定の条件下で完全に自動運転可能。運転手が不要な場合も。)レベル5(すべての環境で完全自動運転可能。ステアリングやペダルが不要。)が残る課題。

しかしレベル4はかなり良いところまで来てるけど、「特定の条件下」と言うのが大都市の極一部のエリアでしかないことを考えると、正直目途が立っていないと言ってもいいレベル。法整備も環境整備も実際にはほとんど進んでいない。なので2025年度中のレベル4運用はまず無理で、2026年度も怪しいという状況だ。

日産はEV推進の立場をとる自動車メーカーでEV化目標は、次のとおり。

 

〇 2030年までに、世界で19車種のEVを含む27車種の電動車を投入する
〇 欧州では2030年までに新型車をすべてEVにする
〇 2026年度の電動車販売目標は、新車販売に占める比率を40%から44%に増やす
〇 
欧州市場では、電動車比率を75%から98%に引き上げる
〇 
2028年度までに自社開発の全固体電池を搭載したEVを市場投入する

けれども現状からして上記項目の達成はほぼ絶望的な状況となっている上で、世界のEVに対する取り組みは大きく変化し始めた。まして、自動運転となるとさらにハードルが高くなるのは明らか。

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矢沢永吉は当初はBIGになると騒いでて、しばらくするとアーティストと自称し始めた。日本のポピュラーミュージック界のドンのような雰囲気になってきて、つまらないロックミュージックを連発しはじめた反面、オーストラリアで詐欺にあって30億円を失ったとか、そこからの再起物語など、気が付くと浪花節になってしまった。

2種類の人間がいる。
やりたいこと
やっちゃう人と、
やらない人。

おかげでこの人生、
痛い目にもあってきた。
さんざん恥もかいてきた。
誰かの言うこと
素直に聞いてりゃ
今よりずっと
楽だったかもしれない。

でもね、これだけは言える。
やりたいことやっちゃう
人生のほうが、
間違いなく面白い。

あんたは、どうする?

やっちゃえ NISSAN

アーティストと言うのは、音楽業界においては、いい楽曲を創出するとか並び得ない歌唱力や卓越した技術があるとか、そういう音楽家・ミュージシャンのことを指す。プロモーションが上手く行って大きなステージを踏んだからアーティストではないと思う。しかるに矢沢永吉は有名人にはなり得たものの、音楽性においては凡庸以外の何物でもない。

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有名になり、大金を稼いだら、臆面もなくアーティストとかドンとかを自称するのは、大きな勘違いの産物だ。その矢沢永吉と日産が何故か重なり合って見える。ルノー資本を受け入れ、カルロスゴーンによる容赦のないコストカットで窮地を脱し業績のV字回復を果たした日産は、ルノー傘下を脱しカルロスゴーンを追い出そうと、通産省を巻き込んでお家騒動を演出した。結果としてゴーンは起訴され裁判となったが、仮釈放後に海外へ逃亡。その後ルノーの支配力を跳ねのけて日本企業に返り咲いた。

そして華々しく「技術の日産」をアピールするとともに、EV化、自動運転化をぶち上げて、大きなステージには立ったものの、ヒット曲が出ずじり貧状態へ。気が付くと財務は急激に悪化して、またしても危機的状況に陥っている。「やっちゃえ 日産」はカルロスゴーン時代からのキャッチコピーだが、労働組合との経営闘争に明け暮れた挙句に倒産寸前まで陥った過去と同様にルノーとの闘争に明け暮れた結果、またしても危機的な状況に瀕しているわけで、ここまでくると、お家芸とも企業体質と言われても反論のしようがないだろう。

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その間、今度は矢沢に続くアンバサダーとして木村拓哉を起用した。ただのジャニーズのジャリタレに過ぎないがイケメンを武器に大いに人気を博し、ジャニーズ騒動をうやむやにして、すっかり役者転身をはかったという芸能人・タレント。人気者をアンバサダーにすれば、営業的に多いに効果的と言う目論見だろうが・・・

平坦な道なんて、なかった。
何度もつまずき、転びかけた。
それでも、逃げなかったろ。
諦めなかったろ。そして、誰より、クルマを愛してきただろ。
上等じゃねぇか、逆境なんて。
待っても来ない夜明けなら、こっちから迎えに行こうぜ。
さあ行くぞ、もう一度。
やっちゃえ NISSAN

矢沢永吉に続き、またしても木村拓哉のこのベタな台詞で、EV化を推進しようという経営陣の目論見が明け透けに見える。EVを適当に用意して、有名キャラクターの力で売ろうという日産もまた悪い意味で、どうしても木村拓哉と被ってしまう・・・。

日産が今日明日にアウト、と言う話ではないにしても、現時点で有効な経営戦略を持ちえないことは確かで、いままでレシプロエンジン車で「技術の日産」をアピールしてきたものを、すべて有名無実化した上で、「やっちゃえ 日産」と言われても消費者は戸惑うばかり。今後のEV戦略で、車種の大量投入と言われても、ピンとこない。全部同じようなEVだろう?と言われても反論できないところが辛い。

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いまさら社員をリストラします、工場を閉鎖します、じゃ通用しないマーケット戦略をとってきたじゃないか!と言いたくもなるけれど、現時点で何も方針が変更されていないのは、まさに今が崖っぷちなのだと思う。自動車の場合、新車種開発には最低数年間はかかるもの。なので日産は今後数年間は現在の戦略を通すしかない、というか経営陣がそういう選択をしているのだろう。

また日産は前回の経営危機と同じような状況に陥るかもしれぬ。言い換えればそれが日産なのかもしれないということだ。株価は、売りでも買いでも勝負できる水準に低迷している。苦労してようやくルノーの影響を脱したと思いきや今度は村上ファンドにいいように弄られるという情けなさ。経営陣は代わった方がいい。どうせ有効な手立ては打てないだろうから。

(余談だが日産車はフェアレディZ32、スカイラインGTと2車種を保有した経験がある。けれど2台とも悪印象が付いて回った。フェアレディZは軽量化のためか助手席カーペットを剝がしたらそこはべニアの合板だったという落ちに唖然とし、サードカーとして購入したスカイランGTは思い切り踏み込んでも加速しないという初期不良が・・・。原因はアクセルペダル下にラバーの塊が置き忘れてありその盛り上がりでアクセルが踏み切れなかったという憤慨もの。そんな経験から日産はどうしても辛口評になってしまいます)