世界を敵に回した米国の関税政策は、トランプの偉大な無理筋!?

世界を敵に回した米国の関税政策は、トランプの偉大な無理筋!?

トランプ大統領が就任後、ある意味無茶苦茶な政策を次々に繰り出した。弛みきった連邦政府のリストラを始め、国内労働力の一旦を担う移民の送還をして、連邦予算を削り労働市場をタイトにした。さらに法外とも言える関税を貿易相手国に課すことで、減税の財源を確保するというほぼほぼ禁じ手を繰り出して、その結果、株式市場が大暴落したというのがこれまでの経緯。

察するにこの後トランプ大統領は、国内的には減税をアピールし株価暴落を落ち着かせようとし、対外的には関税バーターを始めると思う。関税という手札で相手の出方を待ち、バーターで有利な条件を引き出す腹積もり。ディールに乗って来なければ、関税を引き下げるつもりはないという、世界を相手に堅気とは思えないマフィアっぷり!米国をシチリア島にでもするつもりかよっ!みたいなね。

そしてその次には、通貨(ドル)切り下げをやらかすと思う。多くの貿易相手国は、いきなりディール、ってわけにもいかないだろうし、恐らく次は通貨戦争に引き込まれる。関税をかけた上にドル安で来られたら、輸出する側は堪ったものではないし、第一米国内のインフレは止めようもなくなってしまう。その上、トランプ大統領はFRBに対して利下げの矢の催促!

これが今回一連の株価暴落に伴うトランプ政権の政策の推移だと予想するけれど、中国やEU諸国、それに日本にとってはほぼ死刑宣告も同然で、独房で看守の足音をいまかいまかと聞き耳を立てているようなもんだ。けれども決してこの極刑は執行されることはない!

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確かに米国を再生するということは、これくらいの手荒な手段しかないのだろうと思うし、国内的には貧富の差が激烈なほどに開ききってしまっているので、産業再生するしか連邦政府もこれ以上貧困層を支えきれないという事情も分からなくはない。

国内製造業を復活させる、とか移民が担ってきた低賃金労働を代替する、というのは、仮に政策変更だけで実現するのであればそれほど難しいことには思えないので、多分トランプの目にも有効な政策と映っているのだろう。これを成し遂げたら、偉大な合衆国大統領として名が刻まれるみたいな陶酔感もあるのかも。

ところが、だ。国内製造業の復活などと言うのは、一朝一夕で出来るものじゃない。トランプは製造業の何たるかを知らないし、恐らく想像も出来ない。金融業、農業、製造業・・・みな、一つのセクターであって同様に考えて政策をすれば何とかなると思ってる。

USスティールの日本製鉄による買収を阻止した理由は、そうした安易な取り扱いにある。まずは安価で高品質な鉄鋼やアルミと言った素材を国内産業として再生させるという初期段階から、挫折することになると思う。USスティールで鉄鋼の大量生産が出来ても高品質化は不可能に近いし、他の素材産業でも同様だろう。

トランプ大統領は製造業の基幹は自動車産業と思っているし、確かにこのすそ野の広い産業を立て直すことが出来れば、目論見は成功するかもしれないけれど、そうは問屋が卸さない。この業界は、一車種3万点もの部品の集合体である部品産業であって、メーカーは所謂間口に過ぎないという現実がある。

そもそも、最重要であるはずの半導体産業さえ、米国内ではなかなか維持できないほどに、モノづくりは衰退しているわけで、少なくても軍事産業や航空産業ならいざ知らず、他の産業はとうの昔に衰退の道を長く歩んできている。そこに資本を投下すれば再生できると考えることこそが幻想なのだ。

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結局関税を課せられた世界各国は、こうした政策に賛同するのか?という大きな課題に直面している。関税が嫌なら米国内で生産すればよい、と言い放つけれど、カナダ・メキシコまで総動員して必要部品を輸入して、素材も何もかも輸入してようやく成り立っているという現実を資本の理論で解決しようというのば、所詮無理な相談だ。

結果として残るのは、どのような政策を繰り出そうとインフレのみ。米国のインフレは賃金インフレの側面が極めて大きかったけれど、株価暴落と景気悪化に伴って賃金の上昇はとまり、その代わりに日本と同様のコストプッシュ型インフレが取って代わるだけ。

肝心なことは、コストプッシュインフレが止まったとき、米国は大不況になっているということだ。高くて物が買えなくなる。ただでさえ株価暴落は資産効果が剥落して、購買力は極端に縮小してしまう。そこにコストプッシュインフレが出現したならば・・・。これ以上の完璧なスタグフレーションがあるだろうか?

 

残念だがトランプ大統領の改革は少なくとも米国を偉大には出来ないと思う。それどころか、米国一国で世界を敵に回すわけで、現実に戦争したとしても米国に勝ち目はあるはずがない。見方によっては今回のトランプ大統領の行動は経済戦争そのもので、現代の戦争は武力で領土を奪い合う事ではなくて、核兵器も化学兵器も付く必要がなくはるかに甚大な犠牲を伴う第三次世界大戦と言えるのかもしれない。

金融やサービス産業の賃金レベルに製造業を持ち上げようとすれば、物価が跳ね上がるばかりだ。それでも米国人は製造業を敬遠するだろう。なぜなら製造業は雇用の流動性が確保できるはずもないからだ。

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不況になるということは、偉大な消費国家である米国の購買力が削がれるということ。すでに2025年1月からその兆候ははっきりと見え始めているし、この株価暴落で拍車が掛かることはまず間違いない。FRBはインフレが急伸したときに、急激な利上げとQTによってインフレを抑え込もうとした。パウエル議長は確かに、米国経済の勢いを削ぎ失業率を悪化せざるを得ないと発言した。しかし金融政策とは裏腹にバイデン政権は財政出動を拡大し続けた結果、大量の短期国債を発行しまくっていた。

全ては米国民の購買力を維持するためであり、その結果米国経済はインフレからのソフトランディングに成功したかのように見えた。しかしその裏では連邦予算は逼迫し、大量の利払いで破綻は近いとまで言われるような状況に陥ったことも確か。その付けが2025年6月に約1400兆円という莫大な国債償還となって迫っている。

それまでにトランプ大統領は金利を引き下げ、この高い壁をロールオーバーで乗り切る必要がある・・・。短期国債を中長期国債に借り換えて、国債償還を平準化できなければ、米国債の格下げから基軸通貨足るドル信認が揺らぎかねない。

そうした事情はあるにせよ、その打開方法としてこの一連の政策は極端すぎる。すべては机上の計算にしか思えない。米国経済から消費を削げば、金利は下げられるかもしれないが、後には何も残らないかも。

トランプ大統領の改革は、偉大な無理筋に見える。