こんなにホンダが好きなのに・・・【初代NSX NA1型】前編

こんなにホンダが好きなのに・・・【初代NSX NA1型】前編

そもそも一般道を走るスポーツカーって意味があるのかね。多かれ少なかれ、交通法規を破って走行することになるけれど、街中や山道でブイブイ言わせて走るということがそれほど楽しい事か?みたいな意見は、十分に尊重されるべき。

一方、速い車への憧れというのは常に存在していて、そもそも自動車って他の交通手段よりも便利で速い乗り物だからこそ、発達してきたわけで、速く走れなくてもいいというのであれば、とうの昔に機能・性能は飽和してる。

人間には競うという本能があって、他人と競うことで自分の位置を確認して自己欲求を満たす。それは企業間であっても同じことで、自動車レースをしてみたり、性能を競ったりして、優位性を証明しようとする。自動車メーカーにとってスポーツカーとはその象徴みたいな存在で、それは裏を返せば企業の存在意義そのものなのかも。

と言うわけで、どの企業よりも負けず嫌いなホンダというメーカーが、趣味に近い感覚で送り出した車がNSXだった。けれどこの車、決して思ったほど速い車じゃなかった。というか今でこそピュアスポーツと言う言い方をされるけれど、ホンダはそんなことは考えて作ってなかったと思う。

何というか趣味の車を大企業が作ったというそんな感じの車でしょ!

購入を迷いに迷う

NSXが発売された1990年と言う時代は、まさに日本中がバブルの頂点で沸いていた時代。誰もが翌年に大崩壊するなどとは夢にも思っていなかった頃、華々しく登場したわけだが・・・。その頃、実は日産のZ32(フェアレディ)が愛車であって、悪趣味が高じてフルチューンして500psの、所謂違法改造車で公道を走っていた。

そこに280psNAのNSXが登場しても、速くないことは十分に分かっていたし、ターボが無くてチューニング妙味もあまりないと思っていた。いまさら速くない、速くならないスポーツカーを買う意味があるのか?って、実はあまり悩みもしなかった。

でも、何年も続いた改造癖もそろそろ飽きてきて、パワーを絞り出す方法も分かっていたし、けれどもそうすれば車のバランスが崩れて極めて危険な状態になるわけで、それが嫌なら大枚はたいて作る直す、位でないと通用しないことも分かり始めていたし、何よりも身の危険を感じる体験を何度かしてきて、自重しないと、と思い始めてもいた頃だった。

そこで、セダンに大人しく乗るのも嫌だったから、第二子も生まれてくることだし、女房に相談して許可を貰い、NSXの購入に踏み切った。と言うわけだからNSXが欲しくてたまらなくて購入したというわけではなかった。

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実車見学に遠方のディーラーに出向く

バブル最盛期の当時、話題の高額なスポーツカーと言うことで、ディーラーにさえ展示車が出回らず、遠方のホンダディーラーに購入予約車が来るという情報を聞きつけて、家族で出向いた。そのショールームの中央、一段と高くなったところにグリーンの車が展示されていた。

普通ディーラーに客がくれば、営業が対応するだろうと思って展示車を見ながら待っていたが一向に近付いてこないし、奥のカウンターで女性社員と談笑なんかしてる。対応してくれないなら勝手に見るぞ、ということで長女と展示車に近付き、長女がドアを開けようとすると、営業部員が飛んできて、長女の手を振り払った。

「売却済みの車ですので」

と営業が言い放ったけれど、その態度は明らかに見下したものだった。「お前の手が届く車じゃないんだよ」とでも言いたそうな顔で高飛車な態度をした。

「これ、買いに来たんだけど・・・」

と言っても、真に受けてもらえなかった。Tシャツにジーンズという(営業から見れば)みすぼらしい33歳の客とそのガキには触らせない、説明もしない、みたいな態度。結局内装もろくに覗けず、気分を害して帰路に付いた。

でも帰宅しても腹の虫が収まらず、その日のうちに近所のホンダディーラーに出向き、同じ系列店だったこともあってその日の一部始終をぶちまけた。そして持参した手付金100万を支払って、購入契約をその場でした。確かオプションを彼是選んで1140万程になったと記憶してる。ほぼほぼ我が家の全預金に相当する額になった。

待つこと約半年、待望の納車になったけれど、夕方だったこともあって乗り出しは身重の女房と長女も乗せてのドライブ。最初から法規違反じゃないか!ってね。そのゴツゴツとした乗り心地に女房は気分が悪くなった言っていた。

巡行すれば意外な好燃費

納車の週末に、エンジンの慣らしとタイヤの皮むきのため往復400kmほどの高速運転に出掛けた。しっかりと100km/hの巡航運転を心がけて、帰ってくると燃費は約16km/Lに達していた。それから約2000kmくらいまではおとなしく街乗りをして、そこでオイルチェンジ。その後高速で少々ミッションギアの当たりをしてから、いよいよアクセルを目いっぱい踏み込む。

感覚的には6000rpm辺りでカムが切り替わり、多少の段付きとともに一気に8000rpmのレッドゾーンに入る。けれど、いままでハイパワーターボに慣れ切った感覚からすれば、サウンドが心地よい以外、特別な感覚になることはなかった。ノンパワステの5MT車ということで、むしろ高速域で軽くなりすぎるステアリングの違和感が、路面の轍を拾った時に際立った。

重い・・・。

エンジンの回り方も期待ほどの軽やかさはなかったから、NA280psと言うのはこんなものなのか?と。そしてホンダ車でいつも引っかかるブレーキを試す。150km/hから50km/hまでの減速を3本ほど試したけれど、フィーリングや踏力の変化はなく安心した記憶がある。

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NSX、不満たらたら

どんな車でも不満な点は複数あるもの。鳴り物入りのNSXだって例外じゃないと思うし、現にいくつが納得できない部分があったので書き出してみた。

不格好なリアスタイルに我慢が出来ない

NSXの購入時になんとオリジナル・ゴルフバッグがあったけど、なんとこの車は2名分のゴルフバッグとボストンバックが乗せられるようにトランクを設定したそうな。そのお陰でスポーツカーとしては異常に長いリアのオーバーハングとなった。

サイドビューはどう見ても不格好。V6エンジンを横置きにしてトランスアクセルも専用に作った理由がトランクって?そのためにスタイルを犠牲にしてもいいの?ってね。

もっともこれがすこぶる実用的と来てるから悔しいんだよ。俺だって何度もゴルフに行ったからね。

シート座面からルーフまでの距離が足らん!

声を大にして絶対に許せないのが室内高。一体ホンダはどんな人物を乗せるつもりで作ったんだ!?俺は身長185cmだけど、正しいドライビングポジションをとると頭が天井に付いちゃうじゃないか!でもそのくらいの身長の人間なんて米国にはいくらでもいるんじゃないの?

第一、サーキット走行をお楽しみください、と言われたってヘルメットがかぶれないじゃないか!舐めてるのか?小人専用スポーツカーかよ!

電動シートなんか必要ないのよ。それとステアリングと両太ももの位置関係ももう少し余裕が欲しいからダッシュボードをあげてくれ!

これは俺にとってはマジで致命的な短所といってもいい点で、後にシート座面を5cm下げるのにとんでもない苦労をする羽目になった。

もしも、こんなギリギリの状態で正面衝突するような事故になると、首の骨を折って死に至る可能性も結構ある。どうしても上方に力が加わるからね。

お願いしますよ、ホンダさん。

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何故リミッター!?

とにかく100km/h(第二東名は120km/h)が法規上の最高速度である日本で、なぜ180km/hでスピードリミッターが作動するのか?もちろんこれは業界の自主規制なのだけど、今一つ意味が分からない。

国(運輸省)がメーカーに対し「過剰な高速性能は社会的に好ましくない」と圧力をかけ、国内販売車は180km/hを上限に速度計表示と速度リミッターを統一するという紳士協定(自主規制)が1979年頃に成立し、以来現行でもこの自主規制は有効化されている。

にもかかわらず実質メーカーは、それ以上の性能を競う領域で車と言う商品性を訴求しているわけで、この辺の理屈は延々と続いている議論でもある。

だから意味のないリミッターはとにかく解除して乗ってきたし、NSXも当然ECUを入れ替えてそうした。けれどその場合純正のスピードメータは使えず、メーターユニットも交換して320km/h表示の物にした。

そしてそのECUはレブリミットも500rpm引き上げられていたので、当然メーターユニットのレブ表示は8500rpmからレッドゾーンとなっていた。けれどこうしたECUのプログラム変更は性能を引き上げるようなものではないわけで、いわば可能性を広げるためのもの、もっと言えばサーキット走行できるようにするためのものだったけどね。

重苦しいエンジンフィール

NSXのV6VTECHエンジンCA30A型は、基本的にイギリス・ローバー社と共同開発したレジェンド用のV6エンジン(バンク角90°)のエンジンをベースに作られたもの。ホンダの技術者が集まって伊豆で合宿を行って、どういう車を作るか話あったらしいけど、その中で予算的にV6を新開発することはできない、となってならば現行V6のブロックをレーシーにするという案に落ち着いた。

何故バンク角90°のV6エンジンか?というとはっきり言ってイメージの問題。昔ウイリアムズ・ホンダやロータス・ホンダのF1ターボエンジンが1600cc90°V6だったというのが大きいかも。その後、ローバー社と提携した関係で、アコードやレジェンドに搭載されたJ型V6エンジンのブロックがベースになってる。

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バンク角60°が理想だけど90°では二次振動が発生するので、コンロッドやクランクシャフトの形状変更によるバランサーで打ち消す仕様。これはかなりコストがかかります。

あの手この手でレーシーに仕上げたエンジンをドライサンプで潤滑する。これで完全にレーシングカーエンジン仕様になったけれど、これが意外や意外、思ってたよりも重苦しいエンジンフィールだった。期待値が大きすぎたのかもしれないけれど、せめてトヨタ(YAMAHA)の4AGくらいにシュンと回って欲しかった。

雨の日は乗りたくない

ミッドシップ・スポーツカーと言うと、トヨタのMR2なんかもそうだけど、雨の日はとにかく怖い。特にNSXの場合は、コーナーの安全性をタイヤで担保したという部分が大きい。そのため、前6.5J15、後8.0J16というリムに205/50、225/50というポテンザ RE010Tという専用タイヤを履いていた。

ドライ路面ではそれでいいのかもしれないけれど、これがウエットとなると話は全く違ってくる。怖いのはある領域まではドライ同様踏ん張ってくれるけど、そこを超えると一気に回るという恐怖と戦う羽目に。ウエットにもいろいろあって水深が結構ある水たまりなどは、マジでヤバかった記憶がある。

その意味では前後異形タイヤのスポーツカーをコントロールできる腕前は勿論俺にはないし、ユーザーでもほとんどいなかったんじゃないか?なのでグルグル回って大破したという話をよく聞いたからね。

FRのスポーツカーに乗ってた時は、リアが滑るのがある意味楽しかったし、それなりに計算も出来たからよかったけど、NSXになったら途端に難しくなった。でもピュアなスポーツカーでもないんだよね。

(後編に続く)