こんなにホンダが好きなのに・・・【初代アコード・インスパイア CB5型 後編】

こんなにホンダが好きなのに・・・【初代アコード・インスパイア CB5型 後編】

期待の大きかったサス構造

ホンダのエンジニアさんはエンジンもだけど、足回りも凝るんだよね。このアコード・インスパイアも例外なく前後輪ともにダブル・ウィッシュボーンで凝った作りになってる。特にそれがやりたくてエンジン縦置きのシャシー構造にしてる。そこに別フレームに組付けたダブル・ウィシュボーン・サスを本体シャシーに合体するという凝りよう。

でもこのサスを設計通りに機能させるには、車体の剛性、特に捻じれ剛性が相当高くないと宝の持ち腐れになる。如何せんロングホイールベースのセダンの足回りなので、ややもすれば「いつかはクラウン」的なとんでもないものになりかねない。その点、このダブル・ウィシュボーン・サスはかなり機能していたとは思うんだけど。

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暴れたら厄介なフロントサス

他社のFFセダンよりは断然マシなのだけど、それでも一般道にありがちなガタガタの舗装路面になっちゃうと、フロントが暴れ出すのよ。それとともにしっとり感が一気に消えちゃって結構不安な気持ちになってくる。だからこそ高級車にはショックの切り替えとかが一般的になってきたのだろうと思うけれど、残念ながらアコード・インスパイアには切り替えはなかった。

一般に重量物が集中するFF車の前輪サスはある程度固くセットしないと怖くて、それがストラッドだとごつごつ感が不快になるから、セダンの質感はスポイルされちゃう。なので、「不安極まりないトヨタ足」みたいなソフトな設定が一般的だった。けど、そうすればするほどハンドリングは悪化するから・・・。

なのでアコード・インスパイアのスプリングとショックアブソーバーを独立させたダブル・ウィッシュボーンは当時としては最良の選択だったかもしれないけど、それをもってしてもセッティングが難しかったことが伺える。またロングホイールベースのFFは前輪のトラクションが抜けるから、雨の日とかも結構怖かった場面があった。

でもホンダの意欲的に挑戦するという姿は十分に伝わってきたね。

ハンドリングはいただけない部分も

残念だったのはもう少し、ハンドリングを突き詰めて欲しかったということ。ワインディングに行くとすぐにロングホイールベースのセダンと言った顔が出てくるし、ステアリングを切るのがちょっと気持ち悪かったのを覚えてる。

この際、タイヤで何とかしようと、ハイグリップなポテンザRE71なんかを履かせたりもしたけどこれは大失敗。ただ固くてゴツゴツしただけで、結局ハンドリングって言うのは、捻じれ剛性とサス構造で作るものだと気づかされたけど。

まぁハンドリックを突き詰めると後席は堪らんだろうから、以降静かな運転を心がけました、なんてことは言わないよ。だってこんなエンジンを搭載したホンダ車に乗ってるんだから。

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余りに貧弱なブレーキ

エンジンは99点、サスペンションは70点、ハンドリングも70点、と言う感じだったと思うけど、ほぼほぼ0点に近い10点と言う評価がブレーキ。俺自身ブレーキには相当煩い方で、当時の純正ブレーキはどのメーカーも酷いものだったよ。

まず安心して踏めるほどの剛性がキャリパー自体にないものが多かったし、ブレーキラインもゴム製で油圧の柔軟性を持たせるという曖昧なもの。そしてパッドはとにかくユーザークレームが多いブレーキ鳴きを防止するために、固めの処理がされたものがほとんど。

でもね、例えば100km/h→停止を5本連続してフェード気味にならないブレーキは市販車ではほぼなかったし、その点ではアコードインスパイアのブレーキはポンコツだったなぁ。4本目くらいから怪しくなって5本目はもうグニャグニャで、6本目は踏み抜けちゃうって感じ。

とにかく日本のメーカーはこの頃までは一部スポーツカーを除いてブレーキを舐めてたね。トヨタにブレーキなんてほんとまともなのは全然なかった。今では4ポッドのブレンボなんて当たり前のようになってるけど。

それと初期制動が効きすぎるのも欠点だった。その意味ではブレーキをどうチューニングするかと言うのは自動車メーカーにとって極めて重要なことだと思うんだけどね。

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それなりに成功した高級の新しいフィーリング

はっきり言って高級とは言え、アコード・インスパイアは薄っぺらいの。エンジンは軽やかで運動性能も上質で、重厚長大のイメージやフィーリングは全くない。けれども従来の高級車の概念を変えちゃえ!みたいな野心があったと思うし、薄っぺらさを軽やかさに感じさせることの出来た車だと思う。

オヤジ車はトヨタ・クラウンやセルシオ、日産シーマなんかに任せておけばいい。でも30歳代の若造がそんな車に乗っても、意味がないし車好きならなおさらだ。バリバリの働き盛りが何とか仕事も家庭も軌道に乗りつつあるかな、という心境になれてきたとき乗りたいな、みたいなイメージ。

成功したからステイタスとして乗るような、従来の高級とは一線を画すことが出来る車になったと思う。

ホンダがわざわざゼロからエンジンとミッションを開発し、サスペンションも新しく作って、気合を入れて作り上げた渾身の車がアコード・インスパイア CB5型だったし、その目論見は成功しつつあったと思うけど・・・。

簡単に捨て去るのもホンダのDNA!?

個人的には珠玉のフィールを持った傑作エンジンだと思っていたG20A、G25Aの直列五気筒エンジンをホンダは9年間でバッサリと切ってしまい、J型V6エンジンに切り替えてしまった。このV6は横置き専用で当時の流行に乗った形。けど、直5もV6もトランスミッション一体型の構造だから、余り応用が利かないんだよね。

この直5エンジンは姉妹車のビガーを含めても、結局はアコード系列の車種にしか乗せられていない。というか結局世の中がV6となってくるとV6でないと売れない、みたいな要望が販売店から上がってきちゃうんだろうね。

新しい高級を提案したアコード・インスパイアは、インスパイアとして独立の車種になったものの、V6にとってかわられたと同時に人気も尻つぼみ。デザインも凡庸になってゆき、いまはもうセダンの時代ではなくなってしまった。

結局ホンダは自ら作り出した「新しい高級の概念」をあっさりと捨てたように見えるけど。