こんなにホンダが好きなのに・・・【初代NSX NA1型】後編

こんなにホンダが好きなのに・・・【初代NSX NA1型】後編

前編では彼是不満な点を書いたけれど、要は一般人がサーキットを限界走行するために車を買うということは99%はないということなんだよね。にもかかわらずメーカーはやたらとレースイメージを訴求してくるから、そういう車を買うと自分も速く走れると錯覚してしまう。それが公道では如何に危険なことであるか、認識するには大人になる必要があるんだね。

昔は280psというメーカーの自主規制があったけれど、いつの間にかナンセンスということで、今は青天井状態。メーカーならいくらでも大出力の車を作れるし、大馬力が高級車の重要なセールスポイントにもなっている。そして安全を担保するために、様々な電子制御を投入するわけだけど、その電子制御は人体と直結しているわけじゃないから、本質的な意味はあまりない。

500psと言っても高速道法定速度巡行では50psも必要ないのだから。なので、NSXのような自動車を作って販売しようとするときには、何らかの合理的な理由が必要なはずで、メーカーは技術力のアピールで消費者の信頼を獲得するとか、全体の販売を伸ばすとか、相当に曖昧な理由しか持ち得ないんだよね。

なので、スポーツタイプの車とは、メーカーの志向、嗜好、趣味、道楽だ、と言うことなんだ、と割り切って考えないといけないし、それが自分の趣味・嗜好と一致したから買う、みたいな、そんな乗り物なんだと割り切ってましたね。

NSXご満悦

自分の趣味・嗜好と言うことだから、満足した部分も結構あったし、それは人によって千差万別だと断った上で、自身の感想として書きます。

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なかなかのシフトフィール

5MT車を買う理由としては、勝手にコンピュータにギアチェンジされたくない、自分で選択したい、という気持ちがあるわけで、だからこそ、シフトフィールやペダルの踏力は結構重要な要素だと思う。そして、クラッチの圧着力を確保するためにスプリングは強くする必要がある、でもブースターを使うのでクラッチ踏力はメーカーの感覚的なセッティングでやや重め。個人的には丁度良かったかなと。

そして肝心のシフトフィールだけど、これはチタンノブ(記憶では確か・・・)が、ショートストロークでストンと決まるので最高のフィーリングだった。レース車なら腕の在るドライバーならばシンクロはなくてもいいくらいなんだろうけど、NSXは5速全てが気持ちよく引っ掛かりもなく決まる。これはNSX 5MT車の優秀な点だと思った。

ただこれも、万人がそう感じるというわけじゃなく、問題なのは運転者の体形である程度左右される感覚なんじゃないかってこと。とにかく俺の場合は何かと着座位置(室内高)が引っかかったけど・・・。

ヒールアンドトゥが楽し過ぎる

マニュアル車の楽しさと言うのは、加速時よりも減速時、つまりシフトダウンにあると思ってて、だからこそ何年もマニュアル車で練習をしてきたし、わざわざ高価なドライビングシューズを購入もしてきた。確実にヒールアンドトゥが出来るようにしないと、安全の面でも問題あるからね。

車を購入すると、まずアクセルを煽ってブリッピングをやたらとしたくなるけど、そういうのは暴走族の御兄さんに任せておけば良し。シフトダウンを練習すれば、加速時よりも数倍楽しいレブカウンターの動きが楽しめる。もちろん一般道では滅多に必要ないけれど、高速道や峠の下り坂などでブレーキに頼ってばかりいると、だんだん止まれなくなる、と言う怖い目にも会いかねない。

そしてそもそも、シフトダインがしたくて5MTを選ぶわけだから・・・。よく動画でゼロヨンなんかをやってるときに、ドライバーがマニュアルを強引に素早く突っ込んでるけど、今の技術ならATの方が速いという事らしいからね。

NSXのヒールアンドトゥはかなり楽しかった。小さい車ならもっと楽しいけれどね。

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2代目のECUで少し目覚めたV6

NSXのECUをチューニングして、スピードリミッターを解除するために、ノーマルECUを下取りに出すというのが条件みたいなところがあって、かなり躊躇って何度もメーカーに問い合わせた結果、書き換えだけで対応してくれるという事だったので、お願いしたけど・・・。問題はリミッターを解除する方法(プログラム変更)で、NSXの場合は解除しても燃料マップその他は、純正品はしっかり上の速度域まで書かれているということで安心した。

よくある解除方法で、外部装置で疑似信号を送る手法も当時はあったけど、あんなのは絶対ダメ。とにかく純正プログラムを大事にしないと、とんでもないトラブルに見舞われる可能性がある。

というわけで、納車半年後から3カ月間は乗れない期間があっていささか欲求不満気味だったのを覚えてる。そして解除済みのECUをテストするということで、某所に出掛けて走ってみたけれど、メーター読みで230km/h位を確認出来てほっとした。

それで半年ほど乗ったあと、今度は最高出力は製回転数(確か7200rpmか7500rpmだったと思うけど)からレブリミットが設定されている8200rpmまでの感覚をもう少し欲しい、何ぞと言う意味のない欲求に駆られて、2代目のチューニングECUを仕立ててもらったけれど、マフラーを替えたかったこともあって、それ用にECUをチューニングしてもらってからは、なんというか重く感じたV6エンジンがかなり軽くなったように感じた。

なんだろう?世田谷まで出向いてプログラマーといろいろ話せたけれど、ホンダも相当にいろいろ気を使ってプログラムを書いてる事情、みたいなことも聴けたのは良かった。変なチューニングでエンジンを壊したくなかったので、その辺は凄く慎重にやった積もり。もちろんパワーは増えてないけれど逆に下のトルクが細くなるのは嫌だったけど、ちょっと抜け過ぎちゃったかなぁ・・・。

でもレブリミットはしっかりと8500rpm、にして調子こいてシフトダウンするたびにVTECHって大丈夫か?って不安になったけれど、6000rpmから上は本当に気持ちよかった。

専用タイヤからポテンザRE71へ

純正のタイヤが早くも1年持たずにすり減ってしまい、これを機会にワンサイズインチアップしてタイヤを社外品のポテンザRE71に変えた。そこでも怖かったのは、NSXのダブルウィシュボーンサスが一部アルミ製だったことで、強度的に大丈夫か?ってね。

前16インチ、後17インチのBBS RGにして、ポテンザRE71との組み合わせは、かなり成金趣味と言う感じもしたけれど、これをディーラーに問い合わせたらメカニックのお兄ちゃんと話をさせてくれて、強度的には問題ないでしょう、と言ういい加減な返答を貰ったけど、なんの安心感も得られず。

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これは内輪話になるけれど、ディーラーの営業の不遜な態度をクレームした経緯もあったので、所長がホンダに直接問い合わせてくれて、サーキットテストでもワンサイズのインチアップは問題なかったという話を伝えてくれた。ただしノーマルタイヤはしっかりと保存しておいて車検を受けてくださいとのことだった。

当時はまだ、それほど車検も厳しくなかった時代だったので、マフラーもガス検と音量が通ればOKだった。

肝心の乗り心地だけど、インチアップしたからと言ってもかえって良くなったと感じたくらい。そもそも純正のRE010は結構走ると途端に粗さが目立ったから、ニュータイヤにすればそう感じるに決まってる。でも、トレッドが固くて評判のRE71だけど、なかなかいい感じだった。ただノンパワステで末切りが重くなって車庫入れが・・・。そのくらい覚悟の上なので。昔、プレリュードで鍛えたから・・・(笑)

ブレーキパッドはエンドレス

やはり、最初に気にしたのはブレーキ周り。自分の中にホンダのブレーキはヤバいという固定観念があったし、スプラやZ32のチューニングでお世話になったエンドレスのパッドを真っ先に考えた。けど純正パッドももったいないので、しばらく様子を見た上でラインやブースターを点検して異常が無かったら変えることにした。

公道では多分、ノーマルのパッドで十分だと思ったけれど、一度スピードリミッター解除確認のために某所に出向いて240km/hを試した時、ブレーキもテストしてみて、パーキングで停車したときに、異常に焼け焦げた匂いが立ち込めて、ほんのりと煙も確認できた。

その後休憩をしながら冷やしを入れて、再度走り出してもう一発踏むと、表面が硬化したのか、滑るような感覚を覚えたので、街乗り忖度を感じて交換を決めた。ブレーキラインも交換するか迷った。定番はアールズというメーカーのステンレスメッシュライン。純正で不具合を感じたわけではないけれど、踏力でコントロールする感覚を知ってしまっていたので、思い切って換えた。

無暗にパワーアップをするようなことはせず、ホンダが高価なスポーツカーを販売するのなら、これくらいはやって欲しいという仕様にしたつもりだったのだが、多分ノーマル車よりも安心感のある車になったと思って悦に入ってたね。

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鈴鹿にF1観戦へ

1992年の鈴鹿F1のパドックパスを手に入れて観戦のために、初めてのロングドライブを敢行。1992年と言うと確かホンダ参戦最後の年だったような(後に復帰するけれど)記憶があるけれど、ホンダはV10エンジンからV12に移行して最後の年だった。

このころはウイリアムズ・ルノーの全盛期になっていて、マクラーレン・ホンダはシャシーの優位性とかエンジンの特性で、ルノーに及ばず結構苦戦してた。この年の鈴鹿は結局、ウイリアムズ・ルノーのリカルド・パトレーゼが優勝し、2位がマクラーレン・ホンダのゲルハルト・ベルガー、3位はベネトン・フォードのミハエル。シューマッハ。セナはホンダ鈴鹿最終戦で残念なリタイヤとなった。

このころのルノーのエンジニアリングは本当に凄かったと思う。ルノーRS4というV10エンジンが壊れないし、最新技術満載。でも革新的だったのはエアバルブスプリング(空気圧縮スプリング)。これでサージングなしに14000rpmまでぶん回せるという驚異的なもので、軽量コンパクト高出力を実現した最大要素かもしれない。対するホンダV12は出力がRS4よりも40ps位劣っていて、エンジン重量が30kg重いし燃費も悪い。なおかつエアバルブも熟成不足で故障しがち。企業だから最後の年の鈴鹿だから、開発意欲が失せてたんだろうね。

NSXでさっそうと観戦に出向いたものの、駐車場さえ満足に確保できず、1km位離れた農道に路駐する始末だったけど、悪戯させることもなかった。ほんと鈴鹿は街や周辺がF1一色になったのを記憶してる。とにかくエンジン音が、特にフェラーリエンジンの甲高い恐竜の鳴き声みたいな轟音が印象的。強烈な音だったしね。

混雑するパドックに入れたけれど、パスがフットワーク無限ホンダのスポンサーの物だったので・・・。まぁいろいろ見たけれど疲れて、屋根付きの観覧席でレース観戦したけれどね。あの迫力は、コース観戦したほうが良かったと後悔も。

でもNSXでのロングドライブでF1観戦っていい思い出になった。

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感覚的なスポーツカー

NSXはスポーツカーと言うけれど、勿論レースカーじゃないので、実際にはスポーティに感じる自動車と言う事なんだろうと思う。走る場所はもちろん公道だけ。オーナーズクラブで鈴鹿を走ろう、と言う組織もあったらしいけど、レースに出るならいざ知らず、ただ走るだけでは楽しくないだろう。

心置きなくスピードが出せる、と言うけれど、実際には怖くて出せないって。相当に訓練しないとコーナーに侵入できないからね。それにNSXは素人なら、簡単に回っちゃうしコントロールも難しい。だから結局7分、8分の走行しかできないのよ。

よく、レーザー上がりの評論家が自動車の批評をするけれど、全く参考にならない。NSXは黒沢元春という人が監修みたいな形で参加していたようだけど、それで良い車が出来るとは限らない。

それよりも感覚的にスポーティな車だと自分は感じてる。

ただ商品としての矛盾・・・例えば280psもあるのに何故リミッターを付けるのかとか、安全の要であるブレーキはもっと信頼性を高める、とかしないとまずいんじゃないの?って言うことだよね。少なくともNSXと言うのはそういう車でしょう。

じゃノーマルでサーキット走行できるか?というと、まず無理。これもまた商品の矛盾なんだと思う。

要は運転して楽しい車であってほしいと思うし、その意味では室内高が足らんのは(俺にとっては)致命傷だった。

好きか嫌いかの一点のみ!

結局、NSXと言う自動車は好きか嫌いかの一点が分かれ道なんだんと。所有してみて感じたことだけど、最初の3年くらい、2.3万キロくらいまでは結構乗ってた。でもそのうち楽しくなくなってしまって年に3000kmくらいしか走っていない。

正直、言うほど良い車じゃないかも思ってるし、どこか中途半端さを感じながら乗っていた記憶がある。行動を走らなきゃいけないスポーツカーってみんな中途半端なものだよね。