こんなにホンダが好きなのに・・・【インテグラ TYPE R DC2型 後編】

こんなにホンダが好きなのに・・・【インテグラ TYPE R DC2型 後編】

ウイングはいらない!

ちょっとスポーティなエンジンを積むと、猫も杓子もリアウイングを付けたがる・・・。勿論、走行抵抗で最も負荷が高いのは空気だということも分かるし、それを利用してダウンフォースを稼ぐことが高速走行時の安定性に繋がる、という理屈もわかる。けれど、FF車で高速運転中にリアのダウンフォースを稼ぐことが市販車でどれだけ重要なのか?と言う事には疑問が残る。

大袈裟なリアウイングを振りかざして街中を走る、というのはいかにも蛮行に見えた。(自分が)そんな年頃(30代半ば過ぎ)でもあって、購入にあたりディーラーに注文を付けた。

「納車時にリアウイングを外した形にしてくれないか?」

それをディーラーは快く受けてくれて、インテグラDC2型4drセダン・リアウイングなしの愛車が誕生した。でも、スタイル的にはいかにも間が抜けた感じの、ただのセダンにしか見えない。ホンダはリアウイングもデザインの内と考えていたのだろうが、(外したら)いかにも大人しい小型セダンという感じになった。

でも8000rpm上まで回ってしまうV-TECエンジン搭載車なのだ、という象徴のリアウイングがないことが結果的に目立った気がするけどね。

一癖あるサス・セッティング

チタンノブの小気味よく決まるシフト、クイックな反応のMOMOステアリングと当時スポーティーカーの定番装備を付けてはいたけれど、如何せん一般車ベースの車だけに、強引な演出と言う感じもしないではない。けれどそれはスポーティな車を販売する手法なのだから仕方のない事。

そうしたビジブルな演出以外にも、しっかりとヘリカルLSDを追加して、コーナーからの立ち上がりを強調するみたいなこともやっている。ただそのお陰で、かなり癖のあるサスペンションになったと思う。

我々のような素人がレーシングドライバーを気取ってコーナリングしようとすると、アクセル踏み込み時に非常に神経を使うサスになった。ビビッてコーナー侵入時にブレーキとアクセルの操作を誤ると、厳しいタックインに見舞われて、そこでFR車のようにアクセルをオンしようものなら、ガードレール一直線になりかねない。

なので、FFの特性をしっかりとわかっていないと、扱えない難しさはあった。実際何度も怖い目にあったけれど幸い最悪の事態は免れた。なので、ちょっと走りたいと思って峠道に行ったときは、本当に慎重にハーフスロットル・オンの練習をしたものだ。

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小さすぎる純正RECAROシート

TYPE Rの純正シートはレカロ。定番なのだが、実はこれが日本人向けアレンジのやつで、横幅が狭すぎて大変だった。小一時間も乗ってると、尻が痛くなり・・・。こうなると運転が途端に苦痛に変わる。如何にエンジンが素敵でも、足周りがよくできていても、そんなことは関係なくなってしまうわけで・・・。

どうにも我慢が出来ず、シート交換するしかないと思い、ワンサイズ幅広のタイプを乗せることにしたけれど、ちょうどいいシートがなかなか見つからなくて2年位苦痛を感じながら座面をクッションで高くして乗っていた。

日本車ってこの頃はまだ、本当に未熟というか、俺に言わせれば小人の国のスポーツカーしか作っていない気がしたよ。NSXは室内高が足らなくて頭部が天井に接触したりして、シートをチューニングしたけれど、これもまたシート・・・。185センチの身長の人間が乗れない車をつくるなよって感じ。

ついでに言うとシートのスライド長とか、ペダル回りの空間とか、狭すぎる車が多いのも気に入らない。試乗したロードスター、RX-7、インプレッサなどどれもが本当に窮屈で嫌になった。これで海外へ輸出するときにはどうしてるんだろう?と思わざるを得なかった。

こういう車に乗るときには、厚底で幅広のスニーカーなど絶対に履けないので、所有する車にはみなドライビングシューズを備えていて、履き替えるのが習慣化してしまった。

もちろんECU&メーター交換

頻繁にスピードを出したりするはずもないのだが、インテグラももちろん社外品の240km/hスケールメーターに換装して、ECUもスピードリミッターを解除するセッティングにしてもらった。NSXでお世話になったチューナー製のものだが、高回転を得意とするV-TEC B18C型エンジンということで、レヴリミットを9000rpmにするか、ノーマルのままの燃調で行くのか迷っていると、「念のためにレヴだけは広げておきますか?」と言う甘い言葉に負けた。

実際に9000rpmまで回したのは数回しかなかったけれど、全く何の支障もなく届いたのには驚いた。燃調を弄るのは基本的にNAエンジンの場合極力避けたいところ。同じチューナーでもホンダ無限製ならば、信頼できるかもしれないけれど、そうするとマフラー交換をしたくなるのが人情。

だが普段使いの車のマフラーは出来るだけ弄りたくなかったというのもある。事情があって警察への出入りが頻繁だったこともあって「なるべく大人しく乗ってください」と忠告されていたこともあったのでね。

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足回りは弄る必要なし

よくチューニングと言うとタイヤのインチアップやサスペンションのローダウンをしている場合が多いけれど、まずこのインテグラに関しては純正サイズのBBS、エンドレスのパッド以外には弄らなかった。そもそも、この車の純正サスのセッティングは非常に良質だと感じていたし、タックインやトルクステアの性質を弄りたくなかったというのは正直なところ。

自分にはそうしたチューニングに対応するだけの技術がなかったし、あのトルクステアを経験するとタイヤインチアップなど絶対にできないと思ったしね。

予断になるけれど、近頃の日本車のタイヤの大径化は全く同意できない。盛んにホンダ車に乗っていた当時は、輸入車は大径なタイヤサイズが多かったけれど、日本車はかたくなに大径化を拒否していた。理由は保安基準とかいろいろあるのだろう、と思うけど。

ところが今はどうだ!?車の性格を無視するかのような大径化が当たり前の時代になっているじゃないか!

ワンボックスでもファッション性を重視した大径化したり、昨今のレクサスとか異常にデカイ19インチ、20インチなんていうのを履かせてる。見ようによっては大八車!恐らくメーカーの言い分は、ファッション性、大径化することで路面の凹凸でのバンプを低減させる、ハイブリッドや大排気量レシプロの高出力に対応したトラクションを得るため、とか何とか言うだろう。

けど、タイヤ維持費が高額、サス強度確保のための重量増、タイヤ重量等々バネ下重量の増大によるタイヤの追従性の低下、ウエット性能の低下、限界を超えた場合の唐突な挙動等々、デメリットは想像以上だ。

困ったものだよ。

人生最高の車だったと思える一台

NSXを所有してるくせに、普段使いとしてインテグラ TYPE Rを所有するというのはある意味贅沢なのは分かってる。車はターボチューンすれば、極端な話いくらでも速くなるという経験を積んだ身としては、VTECなどと言っても速さは失望級だった。なのでNSXを購入して数か月は内心「失敗した」と思ったし、知り合いのチューナーとターボ化の可能性も探ったりしてもいた。

若かったし、幸い当時は多少の道楽も出来る身だったので、速く走ることそのものが楽しいと感じられたからだが、それが30代後半になると、徐々に価値観が変わってきたかな?と思えるようになった。

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正直、速い車などは個人レベルでもいくらでも作れる。でも気持ちの良い車は、大メーカーでないと作り様がないということが分かってきた。そう思うとNSXの走りも悪くはないし、何よりホンダの最高傑作と評価できるB18C型SPEC Rエンジンの回り方は尋常ではないということに気付いた。

そしてその珠玉のエンジンがもたらすフィーリングとインテグラの身のこなしに徐々に心酔した。かつて女房に買った4AG搭載のカローラ FXの、あの美しいまでの回り方を完全に凌駕するインテグラ TYPE Rは、完全に俺の心をとらえてしまった。

そしてパワーなどどうでもいい、要は車は、気持ちよさ、楽しさ、なんだと思えるようになった。その後2桁の車を乗り継いできた今でも、インテグラ TYPE R B18C型SPEC Rが人生最高の一台と言う気持ちは変わらない。

ホンダの社風って・・・

ホンダの社風というのは一言でいうと「大企業になってしまった町工場」だと思う。創業者の本田宗一郎が勝手気ままに遣りたいことをやり、それを藤沢武夫が財務と販売で支えたというのは有名な話だけど、良くも悪しくも「町工場的な社風」がホンダの魅力だったのは確か。

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でも資本が蓄積され大企業になってしまうと、今までのようにはいかないと一番承知していたのもこの両名で、引退後厳しい経営環境を乗り越えてきた今、当時の社風はほとんど残っていない気がする。

「作りたい車を作る」から「売れる車を作る」企業体質に移行すればするほど、商品としての車の魅力は薄れてしまったと思っている。全車種EV化と宣言して見たり、日産と経営統合しろと経産省から圧力をかけられるほど、財務体質も悪化してきている。

大衆車であるはずのCIVICをスポーツカーにしてみたり、軽のN-BOXに力を入れて見たり・・・。2500万もの高額なNSXを出したかと思えば、500万の軽EVを出してしまう・・・。もうやってることが迷走そのものなのだ。

かつて自分が「速さは美徳」みたいな錯覚に陥っていたように、今のホンダは何かを勘違いしてる。F1はやるけど、すぐに止めちゃうし、止めたと思ったらまた参入したり。「全車種EV」と言ったと思えば、今ではなかったことのように振舞ってる。

1.5LV6ツインターボで1600psも絞り出し、圧倒的な強さでF1を制したかと思えば、市販車ではターボを真っ向否定してV-TECに突っ走る。「速ければよい」と言う部門が残っていると思えばせっせと軽自動車を作る。車種の継続性はなし。売れなくなったら即止める。

今のホンダにはかつての浅はかと思える異様な輝きは、微塵もなくなってしまった。残念だ。