FRBが政策金利0.25%利下げをした本当の理由

FRBが政策金利0.25%利下げをした本当の理由

米連邦準備理事会(FRB)は31日の米連邦公開市場委員会(FOMC)で政策金利を0.25%引き下げ、10年半ぶりの利下げに踏み切った。

貿易戦争のリスクを警戒し、景気悪化を未然に防ぐ。声明文には「先行きに不確実性が残る」と明記し、追加緩和の可能性も示唆した。(日経記事からの引用)

予想通りFOMCではFFレートの誘導目標を2.00%~2.25%/年とし、実質0.25%引き下げ、同時に保有資産縮小により量的引き締めを即日終了した。

明確な利下げの根拠を示せなかったFOMC

声明文にある今回の利下げ理由は「貿易戦争のリスクを警戒し、景気悪化を未然に防ぐ」というもので、従来からの政策根拠であった失業率の変動(現時点では3%台と絶好調)ではなく、2%に届かない物価上昇率(1.8%前後)を無理やり理由にしている観がある。

予防的利下げ?

パウエル議長は「米国経済の見通しは依然良好で、下方リスクへの保険的対応」とし、また「インフレ目標値を達成するため」とFOMC後の記者会見で発言した。

さらに「今回の利下げは中期的な金融政策の調整であり、長期的な利下げ局面の始まりではない」と発言し、利下げサイクル突入を否定した。

Advertisement

FOMC声明文で「貿易戦争のリスクを警戒し、景気悪化を未然に防ぐ」と景気後退に言及しているにも関わらず、「単なる金融政策の調整」と矛盾する発言をしたこと、さらには決定的な「(今後)1回の利下げも一連の利下げも公約しない」としたことで株式市場や米国債金利は動揺し、混乱した動きとなった。

トランプの圧力で利下げしただけ?

今回のFOMCでは「全会一致の原則」を踏襲できず、2名の連銀総裁が現状維持を主張し、8名が利下げを主張した結果だった。そのため声明文には取って付けたような「貿易戦争を警戒し・・・」という理由を掲載した。

しかし、現在の米国経済の状況からして利下げの必要性は全くないと言ってもいいほどに好調を維持していて、その上で無理やり理由を付けてまで利下げしたということは、つまりパウエル議長の本音は「大統領の圧力でさせられた」と言うことなのだろう。

トランプ大統領は、FOMC前日まで連日FRB批判を繰り返した。30日には「僅かの利下げで決まるだろう」と事前に政策を暴露するも同然のツイートまでした。

トランプ大統領は最低0.50%利下げを望んでいた

トランプ大統領は最低でもFRBに対して0.500bpの利下げを望んでいたことは明白で、それは言いかえると今後の米中対立の下支えとしたかったと言うことだ。つまり、中国の出方によっては来年の大統領選挙まで据え置くという方針を撤回し、近いうちに再開する準備という意味になる。

現に中国はG20で確約した(?)米国農産物の買い入れを未だに行っていない。そのことに対しトランプ大統領は激怒していると言われる。米国農産物の生産は共和党の選挙地盤であって、是が非でも落ち込んだ輸出を回復させるために、G20で妥協した経緯があったからだ。

Advertisement

もちろんトランプ政権はFRBに対して、追加関税の発動を示唆していて、その場合の米国経済への影響を考慮せざるを得ず「貿易戦争のリスクを未然に防ぐ」という理由建てとなったのは明らかだ。

トランプ大統領は日銀方式を要求?

今回のFOMCでは米国債等の売却による金融の量的引き締めを即日終了した。0.25%の利下げと量的引き締めの終了を同時に行ったことで、金融緩和としてのインパクトは十分にある。

米国債が捌けない

米国議会は先日債務上限問題で民主党と共和党の合意をみた。しかし、この問題はトランプ政権の当初の計画よりも倍速で米国政府債務が拡大していることや、秋のインフラ投資法案の財源確保と言う意味で、米国債の大量発行が必要であることを示唆している。

また中国は保有する米国債を一気に縮小に転じていて、このままでは米国債が捌けないという事態に陥りかねず、トランプ政権は日銀方式でFRB買い入れを要求していると見られる。

米国債買い入れの布石

9月の債務上限が議会の合意で拡大されたら、いよいよインフラ投資法案が再登場することになる。この法案は一度は民主党の反対で拒否されたものだが、今回は民主党も賛同すると言われていて、大規模予算となる。

そのための国債発行をFRB買い取によってフォローすると言うのが前提で、そのためには資産売却を終了しておかなければならいと言う事情があったと思われる。

しかし、これについてもパウエル議長は賛同しているとは思われない。

Advertisement

嫌でも米財政はMMT化する?

トランプ政権は今後米中貿易交渉を再開し、来年の大統領選挙以降に引き延ばさずにこれを大統領選挙の材料とするだろう。G20での米中スタンドスティル合意は、今回のFOMCが終わったことで、これ以上引き延ばす理由が見当たらなくなった。

また、とりあえず秋からの政策目途が立ったということで、トランプ政権は9月以降、本格的に中国の締め付けを再開する可能性が高い。

金融政策と財政政策は連動せざるを得ない

中央銀行の独立性を担保して金融政策を財政政策と切り離して考える時代は、既に終焉したと言えるかもしれない。

少なくともリーマンショック後の未曾有の金融緩和の結果、財政規模も拡大し、気がつくと通貨価値を担保しているのは、発行権と徴税権であるという時代になった。

そうした状況では、金融政策と財政政策が連動して機能する必要がある。

また貿易対立や軍事的対立に関して、経済への影響を軽減するためには財政と金融が一体になって対応することが不可欠だからだ。従来は「独立性の確保」に重点を置いて、それぞれが勝手に政策実行していたために経済江の影響が大きかったのでは?という疑問も生まれた。

その意味では今回のトランプ政権とFRBのそれぞれの立場で、意見の相違はあっても連動せざるを得ない。

となると、そうした状況を説明できるのはMMT以外になくなってしまう・・・。

Advertisement