トランプ大統領:FRB圧力の真意はドル安誘導

トランプ大統領:FRB圧力の真意はドル安誘導

8月23日のジャクソンホール会合でFRBパウエル議長の講演が予定されているが、米国株式市場はFRBがハト派に転じることを想定して8月14日の▲$800のほぼ前値を戻す動きになった。

7月31日のFOMCで0.250%政策金利を引き下げた際にパウエル議長は「予防的利下げ」であって「政策的に利下げに転じるものではない」とコメントし、期待通りの利下げであったにも関わらず株式市場は大きく下落したが、揉み合いながらも「利下げの催促相場」という先行した値動きになっている。

そしてそうした相場の動きを助長しているのが、トランプ大統領のFRB圧力だ。

連日のようにFRBに圧力をかけるトランプ大統領

トランプ大統領は独立性が高いとされる金融政策に対して、積極的(危惧されるほど)に介入を続けている。8月19日にもジャクソンホールを意識して、「FRBは政策金利を100bp(1%)引き下げ、幾分かの金融緩和も実施する必要がある」と発言し圧力をかけた。

そして「米ドル相場が強すぎることで悲しいことに世界の他の国が痛手を受けている」と付け加えた。

そうしたトランプ大統領の姿勢に対して、FRBは体面を保つ意味でもあくまで経済指標や物価、失業率を理由に金融政策を行う姿勢で対抗している。

「中央銀行の独立性を保つ」という意味で、政策を後追いするというのが従来のFRBの政策姿勢であり、今後の経済状況をあらかじめ予測して金融政策を行うという、金融政策本来の姿は失われている。

従って常に金融当局の姿勢は経済の変化に対し、後追いでしかなかった。

しかし、政策の担い手であるトランプ大統領は、政府の政策と金融政策が一致して動かなければ、現状の難局は乗り越えられないと主張している。

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米中貿易戦争の効果

米国は2018年夏より中国に対して関税賦課を開始し、それに対して中国も報復関税を賦課することで、米中両大国は貿易戦争に突入した。

そして貿易戦争は、米国の知的財産権保護、資本移動の自由化等を伴った米国の要求を中国は拒否し、泥沼化しつつある。さらに米国は関税対象としていなかった残り3500億ドル相当の中国製品に対して、9月1日より10%の関税を賦課するとした。

これはG20大阪での米中合意に基づく米国農産品に対して、中国が購入をしなかったことへの報復とされるが、トランプ政権は課税するのは3243品目(1100億ドル相当)に限定し555品目(1560億ドル相当)への課税は12月15日より行うとし、米国消費への影響を配慮した措置を行った。

その結果米中貿易戦争は、「健康、安全、安全保障の観点から課税を行わない800億ドル相当の中国製品を除くすべての中国製品に対し課税すると宣言した。

今回の課税措置によって、米中貿易戦争は落ち着きをとり戻し、株式市場は「悪材料出尽くし」というスタンスを取りたかったところだが、焦点はFRBの金融政策に移行した。

理由は米国経済の下振れを防止する必要がある、と言うよりもドル安にならなければ、関税効果が出ないためだ。

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中国を為替操作国認定

トランプ政権は8月5日、人民元安傾向が続き1ドル7人民元を突破した時点で、中国を為替操作国に認定した。これに関して人民元の為替レートが直近で極端な為替介入を受けたという事実はなく、中国経済の後退とともに自然に人民元安傾向になったというのが正解だ。

しかし、トランプ政権はFOMC利下げから僅か5日後というタイミングで中国を為替操作国認定したわけで、これには政策的な意図があると考えるのが自然だ。

為替操作国認定をしても、直接的にそれを理由にして制裁を加えることはできないし、米中韓協議をするかIMFに働きかけをする程度しか意味はない。

しかし米国の国内法では、為替操作の判断基準として、多額の経常黒字、大規模な対米貿易黒字、継続的かつ一方的な為替介入の3つを定めている。

従って二国間での協議で決着がつかない場合、米国は制裁処置を行うことも可能であり、為替操作国認定はそれなりの圧力となり得る。

少なくとも中国人民元は2018年から約10%以上の通貨安に傾いていて、米国関税の効果を薄めてきた。従って、1ドル7人民元という水準に楔を打ち込むことで、関税効果を確保する狙いがある。

トランプ大統領のFRB圧力の真意はドル安誘導

しかしながらトランプ政権の対中国製品に対する関税効果は、予想したような効果がほとんど得られていない。

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現実には、関税効果よりも経済に対する悪影響の方が大きいという批判もあり、株式市場もトランプ大統領の対中政策に批判的だ。

しかも米国の財政赤字は2018年~2019年で予定よりも2割ほど速いペースで急激に増加していて、トランプ政権は2020年の大統領選挙再選の目玉政策として準備中の「インフラ投資法案」を提出出来ないでいる。

人種問題で苦戦を強いられ、そして農産品の輸出不調で共和党の支持基盤であった中央部穀倉地帯の支持が急激に民主党に傾いていると報告されている現在、再選のためには対中関税は成功させねばならない。

そこで、トランプ大統領は為替介入ができない以上、利下げによるドル安誘導が不可欠と考えている。そのために、トランプ大統領はFRBに対し、利下げ圧力をかけ続けているのだ。

トランプ大統領の主張が正しいから厄介?

経済政策としては、財政政策と金融政策のリンクが最も効果的であることは言うまでもない。しかし、中央銀行の政策は常に経済指標による合理的な説明を要求されるために、遅行的になってしまう。

ところが政権側は、今後行ってゆく政策が見えている以上、景気見通しに関しては中央銀行よりも確実に判断できるわけで、その意味ではトランプ大統領のFRBへの圧力は、これまでは正しかったと理解できる。

そして今後の対中政策を考慮した場合、「早期に1%の利下げが必要」という発言は、実に厄介だ。

つまり、「今後さらに景気に悪影響を及ぼすような政策を予定している」と解釈できるからである。

さらに香港問題、台湾問題、イラン問題、ブレグジット、韓国問題等の多すぎるほどの外部懸念もある現在、トランプ大統領の主張はにわかに否定できるものではない。

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