香港デモ激化で焦る習近平:9.11戒厳令なら米英反発

香港デモ激化で焦る習近平:9.11戒厳令なら米英反発

1984年12月、英国のサッチャー首相と中国趙紫陽首相との間で香港の主権返還を決めた「英中共同宣言」が調印された。

英中共同宣言には、97年7月1日付で主権を返還する一方、外交と防衛を除き、言論の自由を含む民主社会や資本主義経済システムなどを2047年6月30日まで50年間にわたって維持し、香港における高度な自治を保障することが明記され、返還後の香港の憲法にあたる香港基本法には、行政長官と立法会(議会)の議員全員(現在は定数70)を「最終的に普通選挙」で選ぶと明記された。

1997年、主権返還は実現したものの、その後中国は英中共同宣言の内容をことごとく無視し、共産党員以外の行政官と立法会議員を事実上排除した選挙を行うなど、香港の民主主義は踏みにじられた。

逃亡犯条例改正の動きに民衆蜂起

2019年の年頭に中国・習近平(第五代最高指導者)は、台湾に対し「一国二制度を廃止し併合するために武力も辞さない」と宣言した。

そして台湾で犯罪を犯し(政治犯?)香港に逃げた者を中国に強制送還を可能にするために、逃亡条例を改正しようとすると、香港の民衆はこれに反対し、蜂起した。

仮にこの「逃亡犯条例改正」が決議されてしまうと、香港の民主化運動は事実上不可能となり、香港は民主主義を完全に失ってしまう。その次に来るものは、チベットやウイグルのような占領政策であることを民衆は熟知しているわけで、今回のデモは「香港最後の戦い」です。

しかし中国側とすれば、香港政策は台湾政策の実験台と言える。

中国の対香港スタンス

米中対立が先鋭化している今、中国が本当に欲しいのは、台湾と韓国のハイテク技術やハイテク企業であって、その方法論を実験しているという側面がある。

そして現在の香港は中国経済にとっては厄介な存在で、金融センターとしての経済的な魅力はあるものの、既に上海にその地位が移行しつつある。

香港の最大手銀行であるHSBC香港上海銀行は、長らく中国への投資窓口として、また中国からの海外投資窓口として機能してきたものの、2014年頃から中国資金の流出が止まらず、また米国からのマネーロンダリングの指摘を受けて口座情報を米国に押さえられている。

そのことで習近平や親族、そして他の中国共産党幹部の莫大な資産状況を米国に掌握されてしまい、習近平は激怒したとされる。

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状況の急変

2018年に始まった米中貿易戦争は、米中の貿易を巡る経済的な争いであるとともに、米国内で米国の知的財産権を侵害する中国企業に対し、資本取引規制等を通じて米国内からの排除を目的としている。

既に米国は、IEEPA法(国際緊急経済権限法)によって、中国資本の排除を本格化しようと言う段階にあり、そうなると中国の国際資本(ファーウェイやアリババ等)にとって大きなダメージになる。

そこで、中国は国際金融センタとしての香港の吸収を早期に実現する必要が生じた。

実際、米国で上場しているアリババは、7月に香港市場上場の計画であったが、香港デモの勃発によって上場計画は延期された。このアリババの上場は、既存株主に対する事前の通知もされずに突如決定されたものであって、PERが上昇する可能性のある重大事項であるにも関わらず、上場後の資本構成等も明らかにされなかった。

これを見ても分かる通り、中国には香港を吸収しなければならない新たな理由が生まれたと解釈できる。

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民主化運動のリーダーを逮捕

逮捕後、警察車両で裁判所に到着した黄之鋒氏(左)と周庭氏=30日、香港(ロイター)

いっこうに治まる気配のない香港情勢に対し、中国当局は隣接した深セン市に人民解放軍を終結させ、その移動や訓練の様子を動画公開するとともに、SNSでフェイク情報を流しまくって、デモ隊に大きな圧力を掛けた。

また、今回の香港デモは「リーダー不在」ということになっているが、2014年の民主化を求める「香港雨傘運動」のリーダーであった黄之鋒(ジョシュア・ウォン)学生民主化団体の元幹部で欧米の資金援助で世界に香港の民主化をアピールした周庭(アグネス・チョウ)を8月30日に逮捕し、当時に集会申請、デモ申請を却下した。

中国当局は、デモへの圧力をかけるのが目的であって、世界的な(人権弾圧への)非難を恐れ、僅か1日で釈放した。

しかし、この香港の民主化デモこそが、米中対立の主戦場となる可能性が高い。

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あまりに頭脳的な民主化行動

今回の民主化行動は、表面だって主催団体が名乗りを上げているわけでもなく、リーダー不在と言われているが、現実的に100万人以上のデモが自主開催出来るとは考えづらく、その裏で用意周到な組織と資金がバックアップしていると考えるべきだ。

巷間、面子を潰された英国が積極的に支援していると言われ、また米国もCIA等による介入があると言われる。そしてそのことは中国当局も十分に承知していると思われる。

今回の民主化運動のターゲットは9.11一帯一路サミットだろう。

6月からデモが始まり、7月1日以降大規模かつ組織的なものになった。その流れは一向に衰えることなく現在に至っているが、こうした組織行動を維持するためには、決して半端な資金では不可能だ。

一方中国当局にしても、習近平が8月の北戴河会議で支持を取り付けた条件の一つが香港鎮圧だったとされ、香港で開催予定の9.11一帯一路サミットは面子に賭けても成功させねばならない。

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米中対立の主戦場になる可能性も

(実弾入りの銃をデモ隊に向けた瞬間)BBC NEWS JAPAN より引用

中国は9.11一帯一路サミット開催のために戒厳令も辞さないという姿勢が伝わった。そして民主化リーダーの逮捕・拘束に伴って、民主化推進の各団体は31日のデモを却下されたことで、中止を呼びかけた。

一部の民主化運動家は非合法デモを敢行し、香港警察と衝突する場面もあったが、戒厳令発令の事態は避けることができた。

しかしターゲットは明らかに9.11である。

中国の一帯一路を阻止することは、米国の狙いであることは明らかで、対中国包囲網を確立する上で必須の条件であることから、流血の事態となれば、一斉に中国制裁が発動される可能性が高い。

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