前澤氏のヤフーに対するZOZO身売りは計画的だった

前澤氏のヤフーに対するZOZO身売りは計画的だった

ゼロから起業し、上場して時価総額1兆円企業に育てた会社を僅か1週間足らずの期間でポンを身売りして投げる・・・。ある意味そんな離れ業を演じて見せたのが、ZOZOの前澤社長だ。

記者会見で前澤氏は、ソフトバンクGの孫会長に相談しヤフーに買い取らせるとの提案を受けたとか。しかし前澤氏とヤフーの話し合いは年初あたりから始められていて、ヤフーの買収後の展開などのシナリオは既に決定済みで、孫会長には「ご報告」の意味合いが強かった。

経営に嫌気がさしていた?

記者会見で売却を決定したのはいつ頃ですか?という問いに対し、9月に入ってから、と前澤氏は答えてる。しかし、ZOZOの経営自体は2017年頃から資金繰りにだいぶ苦労した跡がうかがえる。

まず、2016年に最大2ヶ月間支払いを遅らせる「ツケ払い」を導入したことで、2017年から売上高が急激に増加し始めた。しかし、ECではビジネスの成熟期には急激に売り上げが伸びることがあり、スマホの普及と相まってブレイクしたという側面は拭えない。

そうした中で、配送費の改定、PB立ちあげとZOZOスーツの導入、人件費の急増、と矢継ぎ早に経営環境が変化した。事業としてみれば、売上急増で収入も増えるが、それ以上にすべての要因が日々キャッシュを食い潰す方向に向かうことになり、そのバランスを取ることが経営者や財務担当の仕事になる。

これだけ優良体質の企業であっても、経営陣はまともな手段を講じられずに右往左往している様子が手に取るように伺えた。だいたい想像がつくのだ。

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ここ2、3年、ZOZOはトラブル続きだった。そして昨年は鳴り物入りのZOZOスーツの失敗、有料会員向け割引サービスで出展ブランドの反発で、矢面に立った。

経営者としてメディアの露出度が上がり、そのことが返って仇となって批判を受ける。同時に社内からも経営姿勢に対し批判の声も聞こえるようになった。しかし、経営をフォロー出来るほどの人材はいない・・・。そんな日々のなかで、経営に対する情熱がかき消されるような心境になるのは、当然だろう。

身売りは完全に計画的

前澤氏は2018年5月、自身の持ち株のうち600万株を場外で買い取らせた。244億円と報告されているが、それを金融機関からの短期借入金で賄っているが、こうした経営トップの行為はZOZOの大株主の心証を著しく損ねたと思われる。

さらにZOZOスーツの過大投資やツケ払い増加によって手元資金不安となり、2019年3月には、三井住友銀行ほか2行と150億の融資枠を設定して、目先の資金不安を解消した。

しかし前澤氏自身ではそれ以前の2019年2月に、自身の持ち株の88%を金融機関に担保提供している。金額にして2000億円以上の価値(3月株価基準)という莫大なもので、この時点ですでにZOZOの身売りを視野に入れていたと見るべきだ。

こうした行動は、既に経営者としては常識を逸脱しているのは明らかで、すべて身売りを前提として経営から足を洗いたいという行動であることは明らかだ。

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孫会長に相談した内容

従って前澤氏が孫会長に相談したとされる内容は、ヤフーで持ち株を買い取ってくれてとりあえず手元に残っているキャッシュと金融機関との貸借関係を解消できるかどうか、という打診だった。もちろん、ヤフーがZOZOを連結子会社にするとなると、少々話がややこしくなってくる。

しかし、そこは孫会長として、気前よく子会社化で承諾しないわけには行かなかっただろう。その点では前澤氏はなかなか強かと言うほかはない。

手元に残した6%のZOZO株は、自身が万が一の時の準備か!?

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かくしてヤフーはTOBによってZOZO株の50.1%を取得し完全子会社化することとなった。ヤフーは大幅に投資が先行しているPAYPAYを活性化する思惑もあり、表面上は連結売上高が急増し、企業価値が増大する可能性がある。一方ZOZOにとってもSBGの傘下入りとなれば、資金不安が一掃される。

これは表面上は両社にとって理想的なTOBだろう。

しかしZOZOに出店しているメーカーは、ヤフー入りを警戒しているのではないかと思う。またZOZOのビジネスはスマホ購入がほぼ95%に達していて、今後はロングテールビジネスの難しさが際立つ局面でもある。ロングテールにはAMAZONという巨人が控えていて、ショートテールでは楽天に叶わない。

元来ZOZOは販売チャネルビジネスで、大きなマージンを取れる性質のものではなく、今後消費税増税の影響も懸念される。

そういう部分を前澤氏は見切ったと考えるのが正解だろう。

しかし、身売りを前提で自身の資本取引を行った前澤氏は、多くの株主の信頼を完全に裏切ったことは確かである。

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