ソフトバンクG孫会長の悪夢:米国の中国企業投資規制
- 2019.09.28
- 国内情勢
ソフトバンクGの株価下落が止まらない。8月からの日経平均上昇の局面で、一貫して売られ続け、逆行安の様相を呈しているが、こうした株価の動きの背景は、やはりトランプ政権の中国政策にあったということになる。この下落は、米系投資家の投資資金逃避が原因であることはほぼ間違いなく、またトランプ政権で行われている政策に関する情報が末端から出ていて、そうした情報を掴んだ投資家の売りだろう。
合併承認が伝えられたTモバイルとスプリントも、米国各州での訴訟や政府機関からの横やりも入り、合併は遅々として進まなくなった。こうした状況も、ファーウェイに次ぐ海外資本による米国内通信のシェア拡大を懸念視する現れである。
孫会長の眠れぬ夜
昨日ブルームバーグは、トランプ政権が米国内での中国企業に対する投資制限、そして上場廃止を検討していると伝えた。
これによって世界で最も影響を受ける企業はソフトバンクGであることは火を見るよりも明らかだ。恐らく孫会長は昨夜、眠れぬ夜を過ごしたのではないか?
その理由は、ソフトバンクGの経営の基礎はすべて、保有するアリババ株の評価益にあるからだ。有能な孫会長のことだから、ある程度デリバティブ取引によってリスクヘッジはしているだろう。
しかし、約30%を保有するアリババ株の評価額は10兆円以上、30%の分離課税を考慮しても約9兆円に上るとみられ、これは現時点でのソフトバンクGの時価総額とピッタリ一致する巨額なものである。
こうした超大型のデリバティブを引き受ける企業があるだろうか?一部はリスクヘッジできていたとしても、すべてを引き受けるためのCDS料率は数千億円/年とみられるため、そうした形跡は少なくとも決算書に見当たらない。
しかし問題はアリババ株だけではなかった。
SVF(ソフトバンクビジョンファンド)
2016年、孫会長が鳴り物入りでスタートさせた10兆円ファンド(SVF)は、積極的に投資を行い、今年はSVF2のスタートを宣言している。しかし、年初にこのSVFに対する投資家の不満が表面化した。
SVFはその資金の3分の2をサウジアラビアのパブリック・インベストメント・ファンド(PIF)とアブダビのムバダラ・インベストメントに依存しているが、SVFの投資方法、(1企業に対する)投資金額の大きさ、に不満を持っていると伝えられた。
従来の投資ファンドは、投資姿勢、投資方法、リスクに対する期待リターンを開示して、それに従って出資を募るわけだが、SVFはそのほぼすべてを孫会長の投資勘に依存していると言ってもいいもので、大口投資家が不安を覚えるのは無理からぬ話なのだ。
それに加えて、SVFは中国の配車サービス最大手、ディディ(滴滴出行)にも大型の出資をしていて、なおかつ数社の中国企業への出資も行っている。同じく出資している米国ウーバーのIPOが暗礁に乗り上げ、また配車サービスで世界中で競合関係となって、ディディの業績にも暗雲が立ち込めている。
ソフトバンクGは、ディディチューシンへの出資を機会にトヨタや日本の自動車各社と提携関係を結び、ディディの時価総額を引き上げようとしているが、上場前の時価総額を引き上げる手法が、投資家の不満の原因であるとされる。
そして今回の「トランプ政権が米国内での中国企業に対する投資制限、そして上場廃止を検討している」と言うニュースは、ソフトバンクGのみならず、SVFに対しても激震が走ることになった。そして、さらにSVF2(2号ファンド)に関して、サウジやアブダビの出資が叶わず、資金確保に苦労することになった。
SVF2(ソフトバンクビジョンファンド2)
7月26日、ソフトバンクグループ(SBG)は、私募ファンド「ソフトバンク・ビジョン・ファンド2」を設立すると発表した。発表日(7月26日)時点で、出資予定総額は1080億ドル(11.7兆円)という規模。そのうちSBGは380億ドル(4.1兆円)を拠出する。
ビジョンファンド2の出資は広範囲に及び、台湾鴻海グループ、マイクロソフト、みずほ銀行、三井住友銀行、三菱UFJ銀行、第一生命保険、三井住友信託銀行、SMBC日興証券、大和証券グループ本社、カザフスタン国立銀行投資公社、スタンダード・チャータード銀行と台湾の大手投資家(詳細非公表)が名を連ねている。
しかし、現時点では出資に関する明確なアナウンスはなく、また出資業務の一部をゴールドマンサックスに委託する形をとり、米国政府規制をかわす狙いがある。そして最大の問題はSBGが拠出する4.1兆円の資金で、役員や社員に貸し付ける形で約2兆円を調達するとした。
これはメガバンク出資のバーターであることは間違いなく、メガバンクは出資の半分を貸し付けに切り替えるという乞食商売を行っている。
日本経済をすべて巻き込んだ
昨年からソフトバンクGの経営に関しては大いに疑問を持っていて、今年5月の時点で備忘録的なレポートにしておいた。
この時はSVFをそれほど問題視していなかったが、決算にSVFの評価益を利益計上している点を考えると、無視するわけにもいかなくなってきた。そしてファンドを通じて、大きの日本企業に影響を及ぼしている実態を考慮すれば、今となってはソフトバンクGの日本経済に対する影響力は非常に大きいものになっている。
しかし、昨今のファンドに対する評価、以前から問題と指摘していた米中対立の影響は、ソフトバンクGの経営を大いに揺さぶっている。
さらに今後強まることが予想される、米国の対中戦略を考慮すると、中核企業であるソフトバンクにも影響が出る可能性もあり、米国スプリントの合併も実現しないかもしれない。
米国は、貿易戦争を前提的に合意出来れば、次は年内にも国防権限法や輸出管理改革法(ECRA)によって、中国のハイテク技術に対する締め付け、孤立化を行ってくるはずで、そうなれば、中国企業に出資するソフトバンクGにとっては厳しい局面となる。
また、国防権限法による中国資本の締め付けによって、「米国内での中国企業に対する投資制限、そして上場廃止を検討している」と言うことになるわけだが、さらに金融機関への規制等に及ぶようであれば、アリババに対しても厳しい状況となる。すでに中国共産党系企業と認定されているアリババは、ファーウェイと並ぶ米国の規制対象に成りかねない。
そうした状況はソフトバンクGの経営の根幹を揺るがすことになる。孫会長はいま、完全に行き詰った状態にあると言える。
ソフトバンクG変調ならばリーマンショック級?
週末のこのブルームバーグの記事に対する反応は鈍い。小さな記事ではあるものの、これがソフトバンクGの株価下落の要因であることはほぼ確実で、週明けの日本市場に激震が走る可能性も否定できない。
もしも、ソフトバンクGの株価が急落するようなことになると、消費税増税を目前にして日本市場は大きな影響を受けるかもしれない。そして記事が精査され、これが国防権限法に基づくものと言うことが表面化すれば、日本市場はSBGショックに見舞われることも想定せざるを得ない。
いよいよソフトバンクG、孫会長は正念場を迎えたと言える。
-
前の記事
イベント通過でいよいよ10月相場へ:9月27日(金)後場 2019.09.27
-
次の記事
ウクライナゲートとソフトバンクGショック:日本株を読め!【9.30~10.4】 2019.09.29