ウクライナゲートでトランプは弾劾可決前に辞任?共和党はペンス支持
- 2019.10.22
- 海外情勢
トランプ大統領は、政府当局者の内部告発に端を発したウクライナゲートに加えて、シリア北東部からの米軍撤退に関しても、共和党内部の保守派からの批判に晒されている。そもそもトランプ大統領の大統領選挙を意識し過ぎた、中国、北朝鮮そしてイランに対する弱腰政策に共和党内部では不満を募らせていたわけだが、9月10日にジョン・ボルトン国家安全保障担当補佐官を解任したことで、共和党内部の不満は決定的となった。
ロシアゲートとウクライナゲート
トランプ大統領は、ウクライナのゼレンスキー大統領にに対し、重要な二つの依頼をしていることが、ホワイトハウスが公表した両首脳の電話会談の内容で明らかになった。一つは、ロシアゲートに関係するシリコンバレーのセキュリティ企業、クラウドストライク社に関する調査依頼で、もう一つがバイデン民主党候補親子に関する調査だ。
ロシアゲートは終わっていない?
2016年の米大統領選挙期間中、民主党本部がロシアの情報機関にハッキングされ、ヒラリー・クリントン候補のものを含む大量の電子メールが流出した。このとき調査に当たり、「ハッキングにロシア政府が関与している」と発表したのが、クラウドストライクだった。
同社のサーバーがウクライナにあることからトランプ大統領は、
「クラウドストライクという会社に関連して、ウクライナで何が起こったのか、調べてほしいんだ。彼ら(クラウドストライク社)のサーバーはウクライナにある、と多くの人が言っているのでね」
「(ロシア疑惑に関して)さまざまことが行われていた。あなたの周辺には当時を知る人たちがいるだろう。(米国の)司法長官から彼らに連絡させたい。あなたには真相を究明してほしいんだ」
として、モラー特別検察官の議会証言で、「これ以上の追及はできないが無実という証明もできない」として捜査を打ち切ったにも関わらずロシアゲートを蒸し返している。
このことは、トランプ大統領の中で「ロシアゲートに関する核心的なアキレス腱」を抹殺してしまいたいということではないか、と推測できる。
バイデン候補のスキャンダル調査を依頼
続いてトランプ大統領は2020年の大統領選挙で対立候補となりそうな民主党バイデン候補に関するウクライナでのスキャンダル調査をゼレンスキー大統領に依頼した。
「バイデンの息子についていろいろと言われている。バイデンが(息子に対する)訴追を止めた、とね。多くの人がそれについて知りたがっている。あなたが我々の司法長官と一緒に何かできれば、それは素晴らしいことだ。バイデンは自分が(息子への)訴追を止めたと豪語しているんだが……ひどい話だよ」
自身の大統領選挙に対し、外国の政府を関与させようとしたこのウクライナゲートは、「外国政府に対し選挙に関与することを依頼する」という点においてロシアゲートと同じ構図であって、終結したロシアゲートを再び蘇らせるものだ。
しかも、これが政権内部の「公益通告者」による内部告発文書によって表沙汰になったことで、民主党はトランプ大統領の弾劾調査を開始せざるを得なかった。これは米国史上前代未聞の大統領スキャンダルであることは明らかだからだ。
トランプ大統領が恐れていること
日本での報道ではトランプ大統領の弾劾調査に関して、危機感を持って報道されることはほとんどなかった。その理由は「民主党が多数を占める下院では大統領弾劾の手続きに入れても、最終的には上院議員の3分の2の賛同を得なければ弾劾はできない」という弾劾制度が根拠となるからだ。
しかし、それでもトランプ大統領は上院で3分の2の賛同となれば・・・、共和党内から相応の動きが出た場合は弾劾される。
そしてもう一つ、米国憲法修正25条の4節に、大統領が職務遂行不能だと副大統領が判断し、それを行政各部の長官などの過半数が認めれば大統領はその職務を失い、副大統領が引き継ぐ──という旨が定められている。
トランプ大統領の政策変化
6月30日の電撃的な演出をともなった米朝の板門店会談以来、トランプ大統領の政策は徐々に2020年の大統領選挙を意識して、日和った外交態度が目立つようになった。以来、対北朝鮮では国連制裁決議違反となる連続的な弾道ミサイルの発射を黙認し、イランのタンカー攻撃やサウジ石油施設爆撃に関しても軍事的な行動を取らず経済制裁にとどめ、またアフガニスタン問題では秘密裏にタリバンとキャンプデービッドでの会談を画策し、そして中国との貿易問題に関し農産物購入で部分合意をするという姿勢を示している。
トランプ大統領は2020年の大統領選挙を控えて、現役大統領としてノーベル平和賞獲得を狙っていたとされ、自身の再選を確実なものとするために外交政策的な演出を目論んでいた。しかし、そうした一連の外交政策は必ずしも共和党内の支持を得られてはいなかった。
同時に8月中旬に公益通報者からの内部告発を受けて、ウクライナゲートが発覚してしまったことで、民主党下院は弾劾調査委を開始した。そうした事態を受け、与党共和党内のトランプ批判は一層高まってしまい、当然トランプ大統領は、最大級の危機感を抱いている。
納税申告書はトランプ大統領のアキレス腱
ロシアゲート調査、そしてウクライナゲートの弾劾調査において、トランプ大統領のアキレス腱と言われるのは、納税申告書だ。歴代合衆国大統領は、就任に際し納税申告書の開示が慣習となっていたが、トランプ大統領は就任時からこれを拒否していて、モラー特別検察官も手が届くことはなかった。
この納税申告書が開示されたら、そこには爆弾が記載されていると大半のメディアは考えているが、仮に弾劾訴追を下院で決議され同時に納税申告書の提出を要請された場合、トランプ大統領はこれを拒絶できないと思われる。
そうなると上院での3分の2が非常に微妙になってくることは明らかで、上院の採決が匿名投票になれば弾劾成立の可能性が極めて高く、米国大統領として初の不名誉な弾劾を受けることになりかねず、その場合はニクソン大統領同様に弾劾という不名誉を避けるために辞任するしか方法がない。
共和党の機嫌を損ねたボルトン更迭
それだけではなく、トランプ大統領がジョン・ボルトン国家安全保障担当補佐官を解任したことで、共和党内の保守派の心証を著しく害したとされる。
元来リベラル傾向の共和党主流派の中には、反トランプが存在するとされてきたが、トランプ大統領は保守派の強固な支持によって支えられてきた面がある。
これがボルトンを始め、政権内でのタカ派を排除する動きを見せたトランプ大統領に対し、大きな失望を抱くとともに、共和党内で評価の低いポンペオ国務長官を重用し、さらにこの春からジュリアーニ元ニューヨーク市長を顧問弁護士とした動きに対しても不信感を抱きh時めている。
共和党はマイク・ペンス支持?
昨年10月4日、ペンス副大統領はワシントンのシンクタンクであるハドソン研究所において歴史的な対中批判演説を行い、米国の中国に対する強硬な制裁姿勢を打ち出した。これによってファーウェイ制裁が開始され、貿易のみならず知的財産権の保護や人権問題に関して中国を強烈に批判するようになった。
そして今年10月24日、「米中関係の将来」と題した演説をペンス副大統領が行うと発表された。
この演説は、当初6月に予定されていたものが、トランプ大統領によって先延ばしされてきた経緯がある。しかし、共和党保守派の全面的な支持を受けているペンス副大統領の演説を承認せざるを得ない立場に追い込まれたとも言える。
敬虔なキリスト教徒であるペンス副大統領は、特に中国における宗教弾圧を許容できなという共和党保守派と共通した意識があり、今回の演説でも昨年にも増して、厳しい論調になることが予想される。
弾劾成立前にトランプ大統領は辞任か
ここでもう一度確認しておかねばならないのは、「米国憲法修正25条の4節に、大統領が職務遂行不能だと副大統領が判断し、それを行政各部の長官などの過半数が認めれば大統領はその職務を失い、副大統領が引き継ぐ」という条項だ。
仮に今回の弾劾調査から下院で弾劾決議が行われた場合、トランプ大統領の就去は非常に微妙な状況になってくる。そして、トランプ大統領が最も恐れている、「共和党の支持を失うこと」にでもなれば、弾劾成立前の辞任もあり得る。
また、トランプ大統領自身がクーデターと称したウクライナゲートだが、共和党内のクーデターに発展する可能性もゼロとは言えない。すでに共和党はペンス副大統領支持で固まりつつあるからだ。
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