楽観相場に最大注意!日本株の上昇は海外投資家の勘違いが要因
- 2019.12.01
- 世界情勢
現在絶好調な米国株式市場に追従する形で、日本株は9月に入ると上昇を開始した。8月末時点で日経平均¥20,704だったわけだが、9月に入ると揉み合いを抜け出し、現在では¥23,293と3ヵ月で¥2,589の上昇というパフォーマンスを見せた。
しかし、その間日本では消費税増税という引き締め策を強行し、企業業績は悪化傾向に歯止めがかからない状況で、日本経済には暗雲が立ち込めている。にもかかわらず、株価だけが米国追従で独り歩きしているし、その間ドル円レートは円安にシフトした。
日本株上昇の理由は日本市場の7割以上を占めるメインプレーヤーである海外勢の9月から売り過ぎた日本株への警戒感からの買い戻し(ショートカバー)と10月第1週からの実需買いを巻きこんだ7週連続買い越しのためである。
海外勢の買い姿勢要因
現在海外投資家が日本株を非常に有望視していることは、各ファンドの日本株に対するウエイトの引き上げや、レポートなどで明らかである。
特に米中合意の兆しが見え始めた10月以降、米国株と同時に日本株を買い始めた。米国投資家は、8月時点での日本経済(企業業績)を底打ちと判断したということだ。そこには、米国の対中政策に引き摺られた海外投資家の勘違いが見え隠れする。
米国の韓国サムソン外し
韓国・文在寅政権の反日、反米政策によって既に米国は韓国を見限っている。しかし、それ以上に韓国の親中経済に対し警戒感を持っているのも事実で、特に半導体技術に関しては韓国・サムソンの動向に目を光らせていた。
そして既に米国は、半導体に関してはサムソンを徹底的に排除する方向に舵を切っている。それによってサムソン電子の得意とするフラッシュメモリーやCPUに関して、(米国が)サプライチェーンの寸断を謀った結果、米マイクロン、米AMD、日ソニー、そして台湾のTSMC等が恩恵を受けると米国投資家は判断した。
従って米国投資家は日本のソニー、そして東京エレクトロンやアドバンテストと言った半導体製造・検査装置関連を一斉に買い始めた。
中国経済への依存度軽視
日本の貿易輸出国の首位国は中国で19.5%、以下米国19%、韓国7.1、台湾5.7%、香港4.7%と続く。いかな米国経済が好調と言えど、中国を中心としたアジア圏では実に54.9%のウエイトとなる(いずれも2018年実績)。
そのため米国投資家は、米中合意によって中国経済が底打ちとなると判断していて、いきおい日本企業の業績も底打ち、と判断している節がある。
また米国の対中政策によって、同盟国である日本は現時点で呼応した政策をとっていると判断している。しかし、日本企業の実態は中国依存度がまったく減っていないという事実を軽視していると思われる。経団連や自民党の姿勢を見ても、中国重視に変化はないのだ。
日本株のパフォーマンス特性
世界経済が底打ちとなり、回復基調に向かう時、過去の事例から日本株が最もハイパフォーマンスであると海外投資家は判断している。日本株は景気敏感株という位置づけであって、だからこそサブプライムショックの影響を世界で最も受けてしまったわけだ。
なので、米中対立が米中合意第1弾によって鎮静化すれば、その恩恵を最も受けるのが日本株、と解釈している。従って、日本株に対し、7週連続買い越しというかつてない買い方をしてきた。これはここ数年間なかった事で極めて稀な、かつ強力な買い姿勢だ。
消費税増税の影響軽視
世界中が金融緩和方向へ舵を切ったにも関わらず、先進国では日本だけが金融(財政)引き締めを行った。通常であれば、こうした政府政策は海外投資家のもっとも嫌うもののはずだが、安倍政権の軽減政策や景気の底打ちという事情で十分に相殺できると判断しているのだろう。
消費税増税は、株式市場におけるネガティブ・ファクターとして完全に無視された。
財政の健全性
日本の財政は言うまでもなく日銀の国債買いによって完全に健全化を果たしたことを、今年の春先から海外勢は理解し始めている。日銀を国家BSに組み入れると、日本政府の債務は保有資産や投資資産と合わせると、ほぼ相殺されてしまう、言わば事実上無借金であると理解したわけだ。
その上さらに、消費税増税を行うと言うのは、海外の経済学者にはクレージーと映っただろうが、財政の健全性と言う意味では、先進国中図抜けているのも事実である。
だとすると、日本は政策的に財政出動を抑制し、自らデフレ誘導しているように映るだろう。しかし、それを「健全」「安全」と評価する投資家も多いのである。
日本企業の内部留保
日銀が未曾有の金融緩和を発動し、円安誘導を行った結果、輸出企業の業績は明らかに改善し、軒並み史上最高益を達成した。そして気がつくと国内投資をせず、賃上げもせず、配当性向を高める日本株はまさに長期投資家にとってはハイパフォーマンスな投資となる。
そして将来的に日本経済を展望しても、海外M&Aをするしか企業の膨大な内部留保の使い道がない、となると日本株は極めてローリスクかつハイパフォーマンスな債券投資と言うことになるわけで、現状を維持できればこれはまさにその通りである。
日本株買いは海外勢の勘違い
日経平均株価の週足、5年チャートである。週足で見れば日経平均株価は今にもトリプルトップ(三尊天井)を形成しそうな形となっている。日本企業の業績ピークは2017年~2018年であったことを考慮しても、今回の上昇は再度の上値試しと見える。現在は業績が下降中であるからだ。
にもかかわらず、この局面で海外勢は7週連続買い越しという強力な日本株買いを行った。その理由は既に記した通りだと思うが、ここから昨年10月の高値をブレイクする理由としては、相当に薄弱と言わざるを得ない。今回の上昇は、昨年の10月以降の株価下落は米中貿易戦争による株価下落の反動とも言えるが、日本経済や日本企業のファンダメンタルズは明らかに悪化している。
その中で、上値追いができるかどうかは、はなはだ疑問と言わざるを得ない。
悪化が止まらぬ中国経済
中国経済は米中貿易戦争によって減速が加速したことは明らかだが、すでにピークアウトして下降局面であったことを見逃すことはできない。中国経済の内情は既にボロボロで、自由主義国ではあり得ない状況なのだ。しかし、その中国経済を支えているのも、これまた日米欧の自由主義国である。
先進資本主義国にとって中国市場は、既に必須のもので、経済成長に組み込まれている。そのために、中国経済が破綻、という見方は現状では絶対にできない。
が、中国はそのことをいいことに、世界でやりたい放題で、米国の覇権を追い越すと豪語した。これに対して米国は自国経済への影響を極力抑え込む様々な手段を講じつつ、中国経済をジワジワと追いこもうとしている。
世界第三位のGDP国である日本を巻きこめば、中国経済を潰しても米国の経済的な優位は安泰である。しかし、当の日本が中国経済依存を全く脱却できないどころか、米中相乗りの姿勢を全く崩していない。
中国経済は(先進国が中国市場を見切って)実態が表面化すれば、たちどころに破綻する。現在はそこに至るプロセスであって、今後中国経済が復興することは米国が許さない。つまり、中国経済は景気回復することはまず、考えられないのだ。
輸出落ち込みが止まらない日本企業
このため中国経済が衰退すれば、中国の貿易相手国であるアジア圏もその影響は免れず、一部にサプライチェーンの変更で好調な周辺国もみられるが、相対的には非常に厳しい状況に直面しつつある。
しかし、米国投資家は米中合意に関して過度な期待とともに、日本に対する影響を過大評価している。たとえ、米中合意第1弾がまとまっても中国経済の落ち込みを止めることは不可能である。その結果、日本企業の業績の落ち込み続ける。従って当面は2018年の業績に回帰するのは、非常に困難と言わざるを得ない。
円安で内需は疲弊する
一方為替(ドル円レート)は、日米金利差が縮小しても円高には成らず、むしろ円安傾向が強まっている。その理由は明らかに、日本の金融機関や日本企業が、業績の維持を目論んで海外投資を加速させているからだろう。
現在の日本は、国内の資金が海外逃避している状況にある。そして政府は消費税増税をして国民の資金を吸い上げて、企業を優遇し、海外へ放出しているのに等しい。
と言うことは、輸入物価が上昇し、消費税も上昇したいま、内需企業の疲弊と国民生活の圧迫は火を見るよりも明らかであって、GDPの6割以上を占める内需が悪化し、僅か10%程度の寄与度である輸出が有利であっても、相対的に日本経済は悪化するしかないのだ。
後は海外投資家が期待するように、輸出企業の業績が回復するか、だがまず特別な事象が生じない限り、望めないだろう。
海外勢が勘違いに気づく時
海外勢の10月第1週からの7週連続買い越しは、つまりは世界景気と日本企業の業績が(米中合意によって)底打ちしたという認識に基づくとともに、大統領選挙イヤーでは株安はないというアノマリーに基づいている。しかし、少なくとも日本経済は、ジワジワと悪化が進んでいて止まる気配は感じられない。
つまり、こと日本株にとっては「底打ち」という認識が誤りである可能性が濃厚なのだ。
日本株買いは11月第3週で止まった
海外勢の日本株買いは11月第3週に僅かではあるが売り越しとなり、ほぼ連続買い越しは7週で止まったと思われる。海外勢にしてみると、決算月である12月を目前にしてこれ以上の買いはほぼ不可能ということだろう。また、米中合意となれば、買い越しに転じる主体も出てくる可能性もあるが、基本的に12月の買い越しは年明けのアノマリーを考えるとできるはずがない。
だが、直近では空売り比率が40%で推移していることから、売りには転じていないと思われる。
しかし、ここまで買い越してみて、改めて日本企業の業績に対し、懸念を感じ始めているのではないか?
米中合意は相場の天井
仮に12月15日前に米中合意第1弾が成立したとして、そのことが日本企業の通期見通しに影響を与えるか?と考えるとその可能性はほぼないと思われる。むしろ年明けの3Q決算では通期の下方修正をする企業数が圧倒的に多いはずだ。
それは米国企業でも同じ傾向に成るはずで、米中合意で中国が購入するのは米国農産品のみであって、むしろ15日に課税予定の関税を回避できることに対する、安心感だけだと思われる。
ここまで米中合意を引っ張って、しかも香港人権法案が成立し、香港の金融センターとしての機能は維持される可能性が望み薄となった状況を考えると、中国企業の金融調達はさらに厳しい状況に立たされる。
そうしたことを考慮すれば、米中合意によって一時的に株価が急騰した場合でも、それが日本市場の天井となる可能性が濃厚出ると見る。
日米株式市場の連動性が止まる
確かに米国経済は、年明けも堅調に推移するだろう。少なくとも今年のクリスマス商戦は非常に好調で、それは米国経済を支える内需が旺盛である証になる。
しかし、日本経済は今後徐々に内需の実態が明らかになるだろうし、輸出企業の業績は回復しないことが分かった時点で日米株式市場の連動性は止まる可能性がある。
輸出企業の業績を支えるのは為替(円安)しかないのだが、内需はこのまま疲弊してしまうだろう。
年明けは日本株の水準訂正が始まる
自動車、機械、電機、電子部品、半導体等々各輸出セクタの業績は思いのほか悪化していると見るべきだ。特に先行した半導体は、製造装置でさえ苦戦している状況で、完全に買われ過ぎている。また機械、電機、自動車は中国経済の影響が大きく、いまだ悪化が止まらない状況下にある。
技術革新に敏感な電子部品セクターは業績を維持できる可能性が高いが、あとは業績好調なトヨタ、ソニーでさえ買われ過ぎと判断されかねない。
しかし金融(メガバンク)は香港の代替需要が生じる可能性もあるとの判断から、買われ続ける可能性はあるかもしれない。
そして懸案のソフトバンクGは、IPOマジックが剥離した以上、多少戻しても再度売り返されるだろう。
従って日本株は、堅調な収益が見込まれる電鉄株が上昇し、金融株(メガバンク)も堅調に推移する可能性はあるものの、年明けは買われ過ぎた反動も十分にあり得る。主力株は逆の水準訂正が行われる可能性が高い。
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