現時点で米国株水準を修正できるのは新型コロナだけか?

現時点で米国株水準を修正できるのは新型コロナだけか?

株式市場というのは、世界経済に将来影響の出そうな様々な事象を織り込みながら推移するもののはずだが、現在の市場はあまりに多くのネガティブ・ファクタを無視している。もちろん、世界の中銀が一斉に金融緩和に走り、その結果本質的な貨幣価値が相対的に低下し、あたかもインフレが進行しているように株価が上昇を続けていることに、強烈な違和感を日々感じることになる。

なぜなら、インフレ的な価格の変化は、株式と希少金属等の一部の素材にしか見られず、物価も金利も低下する一方で、株式市場との乖離は拡大するばかりだからだ。物価や金利、世界経済の状況や企業業績などがリアルな経済であるならば、株価との現実との乖離は、様々なネガティブ・ファクタを無視することによってますます広がってゆく。

いま世界の株式市場をリードしている米国では、バブルの一言で片付けられているのだが・・・。

新型コロナ感染拡大

現在新型コロナの感染状況は、中国や欧州、そして日本やベトナム、台湾など封じ込めに成功している地域もあれば、米国、南米諸国、南アフリカを筆頭にアフリカ諸国、インド、バングラデシュ、タイ等々アジア地域、ロシアで感染拡大が続いていて、世界全体でみれば間もなく1000万人を超え、50万人の死者数を数えるまでに拡大した。

そうした状況を日欧米の先進株式市場は、3月の急落以来改めて織り込むことを拒否していて、市場の関心は急激に落ち込んだ経済の回復、そしてそのための各国政府、中銀の金融・財政政策だけを織り込む形で急激に反転、戻りを演じている。

しかし、その間に世界の新型コロナ対策は、ほぼすべて経済活動を制限し、人々の行動を制限することに費やされた。その結果、経済が感染以前の状況に回復するとした株式市場の思惑とは程遠い状況であるという事実、ファンダメンタルズを回復するにはあまりに多くを失いすぎているという状況を封じ込めてしまった。

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米国の感染状況の悪化

いま世界経済をリードする米国は、感染拡大が止まらないどころか、実質的には第二波ともいえる急拡大期を迎えつつある。すでに6月25日時点では、1日の感染者数が4万人に到達(ジョン・ホプキンス大学調査)して、4月24日の3.64万人を凌駕して過去最高を記録した。

現在米国では実効再生産数が1から程遠いレベルである1.2~1.3程度であるといわれていて、この数字は向日50日以内に感染者数の倍増を意味している。ということは、明らかに6月25日の4.0万人は感染拡大のプロセス(通過点)に過ぎないということになる。

こうした感染状況を株式市場は、実はなかなか織り込もうとしていない。その最も大きな理由は、現在のトランプ政権首脳が、「感染拡大してどれほどの犠牲者が出ようと経済活動を止めることはない」と言い放ったこと、そして連邦政府として新型コロナ対策を予算だけでフォローしようとし、そのことが財政拡大(金融緩和)に拍車をかけているからだろう。

すべての感染対策は基本的に州に丸投げし、政権や議会は新型コロナ感染拡大を問題にしていないという姿勢であることは明らかだ。しかし、現実に州レベルで感染拡大を封じ込めるのは、非常に敷居が高く、感染が爆発する段階になると各州には対応するためのあらゆるリソースが不足しているのは明らかで、結局は推移を見守るという米国連邦政府と同じ姿勢を株式市場はとらざるを得ないのではないか?

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人種差別反対デモ

そうした米国の制御不能な状況を端的に表しているのが、5月25日に警官に取り押さえられ窒息死に至ったジョージ・フロイドをきっかけとした人種差別反対デモだった。

おそらくこのデモは、新型コロナ感染に対する行動自粛によって経済的に困窮したマイノリティーが、この事件をきっかけにデモという手段に訴えることで、外出をし仲間と自由に会話し、煮詰まったストレスを解消するという部分が、人種差別反対という思想以上に大きかったといわれている。

結局、こうした経済状況になれば、米国では真っ先に非正規のレイオフが行われる。そして医療保険がなく医療を受けられない層にとっては、新型コロナ感染はもはや恐ろしいことではなくなった。そもそも、じっとしていても感染すれば医療は受けられないのだから、まずは何とかして仕事を探し、収入を得る道を模索するのは当然である。

それがたとえ感染拡大につながっても、収入が得られないなら結果は同じと考えるのが当然だろう。

このデモによって小規模商店は破壊され略奪されて、商売が立ち行かなくなったケースが非常に多いが、デモに参加し暴徒と化したマイノリティが襲った店の大半は、同じマイノリティが細々と経営している商店だった。

しかしこのことが、米国での感染第二波に拍車をかける結果になった。動かなければ欧州のように鎮静化へと向かった可能性はかなり高いといわれるが、米国社会がそれを許さなかったとみるべきだ。なぜなら米国での死者数(12.5万人)の3分の2が適正な医療を受けられないマイノリティであるからだ。それが米国社会の人種差別意識に拍車をかけている。

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ワクチン開発への期待

こうした状況でも株式市場が上昇を続けた理由には、ワクチン開発への期待があった。トランプ政権は新型コロナ新薬開発やワクチン開発を推進し、それがあたかも早期に実現できるような期待感を株式市場に与えることで、株価の回復を図っているのは明らかだが・・・。

世界の主要製薬会社が、いま新型コロナワクチンの開発に凌ぎを削っているのは事実で、成功すればそれが莫大な利益をもたらすことが明らかだ。しかし、どのようなワクチンであろうと、多大な副作用を人体にもたらす。その検証のために従来は最短でも2年の時間を費やしてきた。それでも、後になって副作用が問題視される事例が大半なのである。

しかし、今回の新型コロナワクチンは、1年以内に実用化・量産化に漕ぎつけるという様々な情報が飛び交い、それを株式市場は期待して「先回りして買い」という考え方をしていると思われる。しかし、やがてそれが大いなる幻想であることに気付かされることになるだろう。

なぜならいままでインフルエンザ以外に実用化できたコロナウイルスワクチンはほとんど見当たらないからだ。そしてたとえ開発できたとしても現在の新型コロナでさえすでに主要な3種類の型式に変異している。そのスピードは極めて速く、ワクチン開発が容易に太刀打ちできるレベルではない。

毎年流行するインフルエンザに対応したワクチンは、流行の種類をある程度予想して数種類投与するものだが、これでさえ実質的には効果がない例も多く、その要因はコロナウイルスの変異に追いつかないからだといわれている。したがって今回の新型コロナウイルスに対するワクチン開発が成功したとして、実用化の時点で流行している新型コロナに適用しないことも十分にあり得ることだ。

そうしたワクチン開発に対するリスクを、やがては株式市場は織り込むのかもしれないが・・・。

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米国社会の実像

米国は今回の新型コロナの流行によって、世界で最も経済的に反映した国家であると同時に、最も脆弱な社会であるという一面を見せつけた。とにかく医療を受けるためには大金が必要で、それを補う皆保険制度はいまだに導入の目途はたっていない。

そのために、米国の個人破産や経済的困窮の要因は、常に高額すぎる医療費が上位を占めている。つまり、米国では富裕層でない限り、医療を受けるということは、人生で極めて重大な選択であって、気軽に医療機関を受診できる日本では想像がつかないだろう。

そうした社会制度の不備が、新型コロナの感染拡大を助長している。

おそらく今回の新型コロナは、国内消費が中心の米国経済に致命傷を与えるだろう。新型コロナ以前に極めて好調とされた消費の大部分は個人ファイナンスによって行われていた。しかし、それらはみな期間限定で支払い猶予を受けていて、現在はギリギリの状況が続いているが、半年、1年という猶予期間が終了すればたちまち困窮することは目に見えている。

たとえワクチン開発が奇跡的に成功した場合でも、投与を受けられる米国民は極めて少なく、または経済的な理由から拒否するマイノリティも多いかもしれない。

そうした社会状況を現在の株式市場は織り込む余裕すらない。

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米国市場の行方

リーマンショック以来一貫して米国株は、FRBの金融緩和政策を上昇の原動力としてきた。数度のバーナンキ時代のQEやイエレン時代の金融拡大、そして現在のパウエル議長の「新型コロナ対策としての無制限の金融緩和」に至ったわけだが、その間に米国株は一貫して上昇を続けてきた。

だからこそ今回も、「無制限の金融緩和」によって再度上昇トレンドを回復するとする、米国投資家の考え方は単純に否定できるものでもない。

しかし、バーナンキ時代、イエレン時代の株価上昇は、ある程度実体経済や企業業績の拡大を伴ったもので、ファンダメンタルズでもEPSの上昇を伴うからPERはある範囲内で推移してきた。ところが、今回は必ずしもそうした状況になるという保証はないし、現時点ではこの先経済や企業業績がどの程度回復するのかということさえまったくの未知数のままである。

つまり、現在の株価が高いのか安いのか、はたまた大いに過熱しているのかは、まったくわからないのだ。その中で着実に新型コロナの感染拡大が続いているという状況を、株式市場がFRBの金融緩和で相殺できると考えるか否かにかかっている。

今回の新型コロナは、従来のインフルエンザと大差はないとする考え方ももちろん存在し、最新の研究では現時点での米国民の900万人近くが新型コロナキャリアだとする発表もあった。去年から今年に流行し多数の死者を出したインフルエンザの多くは実は新型コロナだったという研究もある。

なので、米国社会全体がそうした考え方を受け入れるならば、今の株価の上昇に対する違和感はいささか弱まるかもしれない。しかし、四半期ごとの企業決算は、やがて米国株と言えど許容できる範囲に導くはずだ。

現時点で米国の株価を修正できるネガティブファクターは「新型コロナ」だけである。

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