景気回復と金利上昇で株式市場はどうなる?

景気回復と金利上昇で株式市場はどうなる?

昨夜の米国雇用統計は予想通り良好な数字をたたき出した。米国の雇用統計は、株式市場における毎月の最大のイベントと位置づけられているが、それはFRBがその政策の目標として失業率の低下を第一に挙げているからだ。バイデン政権で財務長官になったイエレンも、マクロ的な視点での雇用問題の専門家であって、これでますます雇用は株式市場の中心的なテーマになりつつある。

昨日発表された2月の非農業部門雇用者数変化は前月比で37.9万人の増加となって、予想コンセンサスの18.2万人を大きく上回った。これを受けて株式市場は三市場ともに大幅高となって週末を終えた。

さて、俺自身、金曜のポジションは、大きく売り建てをしているわけで、ということは週末下落するのではないか?という予想をしていた。その理由は昨日も書いたけれど、雇用統計が良好であるという前提で、米国債10年物金利が急上昇し、それを嫌気した金利変動の影響が大きいNASDAQとS&P500が下落して、結果ダウも引っ張られてしまうということ。しかし、この予想は半分は当たったのだが、肝心の値動きは全く逆になってしまった。今回はその経緯と、そして今の時点での俺自身の相場スタンスを書くのもいいかな、と思うので。

雇用統計が良好と予想した根拠

米国雇用統計は構成セクタの内、政府機関の比率がかなり高い。そして意外なことだが、この政府機関雇用は意外なほどブレが大きいのだ。今回もコロナ後の景気回復局面ということで、各部門はそれなりに回復してきたわけだが、昨年9月あたりから政府部門の雇用は全く芳しくなかった。

しかし予想としては政府部門の雇用が回復するだけで、雇用統計の数字はすぐに良好なものになってしまう。水曜に発表された2月ADP雇用統計は、民間部門の統計で全く芳しいものではなかったわけで、それをもとにすれば、今回の雇用統計はあまり良くないと考えるだろう。

なので日本市場の後場は、あまり米国債金利の上昇を気にすることなく買い進んでいたと思われる。その状況を見ながら、自分の雇用統計予想をプラスして考えれば、「良好な雇用統計が出る可能性が高くその場合長期金利が急騰しかねない」という思惑から、売り建てに拍車を掛けたわけだが・・・。

なぜ雇用統計が良好と考えたか?それは、バイデン政権になって新政権移行のプロセスで新規に大量の雇用をするだろうと予想したから。スリムな政府を理想とする共和党政権からファットな政府を志向する民主党政権に変わったのだから当然そうなると思ったわけだ。

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米国債10年物金利は急騰したが・・・

雇用統計の数字が発表された瞬間から、米国債10年物は売られ始め、金利は1.620bpと前回の上昇を上回った。これを見て、「しめしめ、予想通り」と思いながら株式市場が始まるのを待っていた。寄り付いて案の定株価は下落を始めて、三市場ともにマイナス圏へ。これで来週は狙い通りか?と思っていたわけだが、1時過ぎには反転し始め、あとはもう下がるでもなく大幅高へ一直線だった。

理由はいくつかあるだろう。まず長期金利がすぐに下落傾向になったことや債券市場にあまり波及しなかったこと、そして雇用統計の数字がサプライズ的に良化したこと。それらを考えると、(金利上昇の懸念よりも)景気回復を重要視したということだ。1.600bp程度の金利は景気回復で十分に克服できると考えたのだろう。

俺の予想は1時までは当たっていた。しかし、相場はその後全く思惑とは逆の方向へ走ってしまったということだ。

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再びコモディティ相場へ

そして同時にOPECプラスが、このタイミングで「原油の減産を継続する」と決めて、原油価格がさらに上昇したことも全く予想外だった。とはいっても原油のことだから経済的にひっ迫しているロシアや南米諸国は増産したくて仕方がないわけで・・・。安い原油はスポットでバンバン出てくるだろう。またシェールも徐々に生産が回復してくるだろうし、早々急騰するというのも考え辛い。

現在は$66台でこの一年を考えるとコロナ禍でマイナスまであったわけで、1年間で$70上昇したともいえる。今後これ以上の急騰は分からないが、この価格帯を死守するようにOPECは動くだろう。そうなるとプラスは5%程度のディスカウントでどんどん売れるし、それがOPECプラスの妥協点だったのではないかと思う。

そして各国はとにかくLNGの過剰供給を始めているので、現在の$60台は長くは続かないはず・・・。しかし、エネルギーもさることながら、株式市場が金利上昇を無視したような動きになったことで、下落し始めたコモディティに再び火が付くかもしれない。投資家は金利上昇と共存できるコモディティにより多くの資金を投入してくるだろうし、またワクチン接種が進めば進むほど経済活動に拍車が掛かる。その結果コモディティは慢性的な供給不足という事態も想定されるわけだから。

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200兆円対策の意味

さて来週はそろそろリミットが迫ってきた200兆円景気対策が議会で可決される見込みで、株式市場の関心は一気に大型予算による景気回復期待へと向けられることになる。そして少なくともこれが大きな経済効果を生み出すことは明らかで、ふたたびリフレ相場に回帰するのかもしれない。

そしてこれがインフレ傾向に拍車を掛けるような状況になれば、米国債10年物金利の上昇は止まらなくなると予想する。具体的には1カ月程度で2.000pを突破してくる可能性も決して低いものではないと見る。つまり、俺自身の予想では今年の株式市場は米国長期金利2.000pよりも上という状況に晒されるはずだ。

FRBは当分利上げできる状態ではないというスタンスを堅持している。そして長期金利の上昇は米国経済の力強さの象徴とまで言っている。そうした状況下では金利水準に対する指標を失ってしまい、突発的な金利上昇を招く可能性が高まる。なぜなら債券価格が下落し、膨大な運用資金がポジション変更に追い込まれるからだ。

そうした債券市場の変動を間違いなく助長するのが今回の200兆円追加景気対策による、国債の増刷だろう。

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ハイテク・ビッグテックは厳しい?

好業績が確実でなお上進と見られている半導体関連株は、総じて結構な水準(PER30前後)まで買われている。そしてビッグテックはアルファベットPER42、フェイスブックPER26、アマゾンPER71、アップルPER65、マイクロソフトPER33.6と米国市場を牽引しているだけに高水準である。

しかしながら、コロナ禍にあって通常通りの業績を維持してきた半導体関連ならいざ知らず、それこそコロナ禍で大幅な伸びを記録したビッグテックは、経済が正常化に近付くにつれ頭打ちに成り、現在の株価が割高と評価される懸念が台頭していることから、すでに売られ始めた。もちろん景気が回復するプロセスで、業績が陰るとは限らないから、株価が下がるとは限らないが、現状で利益確定の売りが大きなファンド等で出始めている以上、今後は長めの調整局面に入るだろう。

株式投資を比較的長期のスパンで考えるメジャーな巨大ファンドは、あくまでも数年のレンジで株価を考えるだろう。その意味でいえば、割安で取り残されたバリュー株い大して資金が流入すると考えるのは、極めて自然だろう。

日本でも当然同様の事態が起きていて、いち早く半導体・電子部品は調整入りしているし、それとバリュー(大型割安株)への資金シフトが起こり始めた。例えば代表的な銘柄として6501日立、7203トヨタなど、そしてメガバンク3行や5401日本製鉄などがある。

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金利上昇は相場の転換点

過去の株式市場のトレンドを見れば、中銀の政策転換が株式市場の大きなターニングポイントになることは疑いようがない。そして米国では今、10年物国債金利の上昇が株式市場に大きな動揺を与えたわけだが・・・僅か1.600pに上昇しただけで今回のような大きな下落となるのは、株式市場が金融相場である証と言える。バブルだから・・・という意見が多数あるが、まだ今の株式市場の相場水準はバブルとは程遠い。

米国の場合、FRBが金利操作をしようとするとFFレートを弄ることになる。これは、銀行がFRBに預託している準備預金金利である。各銀行は短期資金の銀行間取引においてこのFFレートを基準に金利設定を行うために、必然的に短期国債金利に大きく影響してくる。

しかし債券市場や民間の貸出金利は主に5年物国債と10年物国債の金利をベースにしている。なので、実際には今回いろいろな形で書かれた、S&P500の配当利回りが1.5%程度であることから10年物国債金利が1.600pになると、株式から国債へ資金が流れる、というのはナンセンスに近い。つまり株式投資は配当はあるがキャピタルゲインを狙うのが本筋だからだ。

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それよりも、問題なのは、5年物国債の利回りであって、これが上昇すると企業債券の金利は上昇してしまい資金調達負担が増える。その結果業績を直撃することになるだろう。それ自体が株式市場下落の大きな要因になり得る。

FRBは当面、利上げなどは考えられる状況ではないと再三発表しているわけで、この5年物国債金利を低位に抑え込もうとしている。だが結果としてFFレートに近い1カ月~1年物の金利は抑えられても、5年物、10年物となれば、そうはいかなくなる。これが現在の米国債金利の長短金利差のスティープ化と言われる現象だ。

今回の株式市場下落のきっかけは10年物国債が短期間(年初から約2カ月)に0.923pから1.610pまで上昇したことで、それを嫌気したとしているが、同時に5年物は0.353pから0.820pまで上昇し、特に2月25日には、通常ではあり得ない0.200pの急騰が1日で起こってパニック的になったということだ。

金利の上昇が始まって、その効果が企業業績を圧迫する懸念が台頭するのは約半年~1年程度と言われている。そして、メガファンドや大口投資家は金利上昇が始まると、国債を売り、ある程度金利上昇が止まれば、再び買うという買い替えを行うことになる。したがって、今回の金利上昇は落ち着くのではなく、FRBが利上げに踏み切るまでは続くと考えるべきだ。短期金利を上昇させて長短金利差をフラット化方向にもっていけば、長期金利の上昇はある程度で止まる。

従って以上のようなことを考えるならば、今回のように株式市場が金利上昇を嫌がるのならば、いままでのような長期上昇相場の継続は難しくなるはずだ。

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リーマンショック後の上昇相場の終焉?

イエレン財務長官は「現時点でインフレの兆候は全く見られない」とコメントし、米国債10年物金利の上昇をけん制すると同時に、今回の200兆円景気対策予算のマーケットへの影響を打ち消そうと躍起になっている。昨夜の金利急騰を受けて改めで次のようにコメントした。

このコメントによれば、今後も10年物国債金利の上昇は景気回復とともに継続するということになり、その考えは真っ当なものと言える。同時にこのようなコメントの根拠は専門の雇用問題に求めている。

しかし、金利上昇に大きくの企業は抗えないのも事実で、特にS&P500の企業は収益性に大きく影響するのも事実である。さらに今回の景気対策によって金利上昇の芽はますます大きくなるだろう。そうなったときに、それを跳ね返すだけの企業業績の変化がなければ・・・

原油や他のコモディティの上昇も企業の足を引っ張ることになり、リーマンショック後の上昇相場が終焉を迎える可能性も大いにあり得る。

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