株価暴落の要因をまとめてみる(後篇)
- 2022.01.23
- トレード雑感
米国市場に連動して下落がきつくなっている日本市場だけど、決算前で正確とは言えないものの、日経225のEPSは¥2,032と計算されているので金曜引け値¥27,522はPER13.54と決して割安と言える値ではないし、CFDはさらに¥346もの下落状態だから、¥27,176でPER13.37である。
従って明日の週初は大きなGDとともに始まることは確定的だが、1月25日(火)~26日(水)のFOMCを考慮すれば、24日の米国市場はポジション調整の買戻しが出るだろうから、日本市場の月曜は朝寄りで押しても後場にかけては戻り相場的な動きになるはずだ。だが中長期となるとネガティブな要素ばかり目に付くのでなかなか難しい相場展開になるだろうけど、基本は日本市場独歩高はあり得ないだろう。
日本株の動向
日本市場では昨年暮れから年明け1月相場にかけてターゲットされたのは中小型株で、中でも高PER銘柄の水準訂正が顕著だった。年が明けると高PER銘柄売りは主力株にも波及したが、グロース売りのバリュー買いの名のもとに高配当、低PER、の代表格である金融、商社、海運に関しては最後まで買いが先行する格好になった。しかし、一段とFRBの利上げがタカ派的に傾くと言われ始めた先週は、一旦は買われた主力株も利食い売りに押される展開になった。すなわち、日本株の全面安モードに突入したと言える。
結局日本株は、さして良いところなしに売られる対象になったわけで、その主な理由を考えてみることにする。
1)政府の無能と日銀の無策
そもそも日本株は、米国株のようなバブル的な上昇を示したわけでもなく、昨年一年間の上昇率は先進国比較では常に最低ラインだった。客観的に見て日本株は、世界でも最も割安水準であり、金利上昇の気配もない安定した経済状況であるとともに企業業績は、米大手企業に引けを取らない好調ぶりである。「そんな株が買われないはずがない」と強気を主張するアナリスト、評論家も少なくないけれど、現実には最悪な需給環境、すなわち「機関投資家や個人の現物株売りが止まらず、個人の信用買いのみと言える国内需給」であることが、海外勢の嫌気を誘っているのは間違いない。
そして海外勢が日本株を敬遠する最大の理由こそが、岸田首相の誕生と日銀の長年にわたる無策であることは言うまでもない。株の場合ロングで重要なのは、長期の景気見通しであって、政治的要因で投資環境が変わることを極端に嫌う。その意味で経済的に極めて勉強不足でかつ無能な岸田首相は、「新・資本主義」なる意味不明の造語とともに「成長よりも分配を重視した社会主義的な政策」を繰り出そうとしていること、金融所得課税を強化すること、を打ち出したことで海外ロングの全面的な失望をかってしまった。
また日銀はこの3年間、基本政策をまったく変えることなく特にこの2年間は、市場にアナウンスすることもなく国債購入とETF購入を大幅減額するというスティルステーパリングを行ってきたことに対する海外勢の不信感が一層強まった。他方で新型コロナ対策を政府が主導し財政のばら撒きを行う裏で日銀はテーパリングを行って日本経済の足を引っ張った。
こうした政府・金融当局の姿勢に対する不信感が海外勢の日本株買いを阻害していることは確実で、その証拠にアンケートによれば米国ファンドマネージャ達は、米国株下落時に欧州株と(日本以外の)アジア株に資金シフトさせるとは言うが、中国と日本には投資するとは答えていない。
ハッキリ言って今、日経平均が¥27,000台でうろついている元凶は岸田総理と黒田総裁である。
2)中国経済悪化をようやく織り込む
中国経済に関する日本国内の報道は極めて杜撰なものが多く、現実を報道しているとは言い難いものばかりである。しかし中国経済は不動産バブルが完全に弾け、GDPに占める固定資本投資は大きくマイナスしたままである。同時に小売もインフレ圧力と雇用不安によって大幅マイナスを余儀なくされていることからして、基本的に経済は大幅マイナス成長でかつ人民銀行が2度に渡る利下げをするほどに、景気は悪化している。そもそも、インフレ期に利下げすること自体あり得ない経済政策であって、さらには新型コロナ対策においてゼロコロナを目標に掲げているために、オミクロン株と言えど経済の大幅な阻害要因となる。
メディアでは中国の輸出が大幅増と拡散しているが、統計上中国国内の海外資本による生産品の輸出が多くを占めること、具体的にはTSMCの半導体やテスラ、FOXCONのアップル製品などが大幅増となっている影響が大きい。
恐らく中国比率の高い日本企業の業績は厳しいものと言わざるを得ないのではないか?ファーストリテーリングやTOTOが大きく下げた要因は米国市場の影響だけではないと思っている。
3)海外勢の日本売りはヘッジのため
日本株のパフォーマンスが米国株と比較して見劣りする要因は、(金融政策を含む)政治的要因、中国経済の悪化、ということだが、もう一つ無視できないのは為替要因(円安)である。昨年後半から暮れにかけて日経平均のパフォーマンスが出なかったことは、円安が急激に進行したという、「ドル建て日経平均」の見劣りの問題があった。さらに言えば、円安は日本にとっては非常に厳しい材料の一つで、エネ価格が市場価格とは裏腹に上昇してしまうという特殊要因があった。このことが日本経済の内需に対してネガティブに作用することは言うまでもなく、個別輸出企業の業績は良好としても相対的に日本株の先高観が見いだせないという側面がある。
こうした背景のなかで、日本株投資は所謂資金流動性を確保するためのヘッジ市場とみられても仕方ない側面がある。欧米の株式市場が軟調になると、日本株を売って流動性を確保するという動きが出る。それが世界で最も容易に出来るのは、取引高の多い日本市場の特徴であって、海外勢はそうした位置づけを変えていないのだ。
従って米国の金融政策が大転換するこの時期、ハイテク・グロース株が怒涛の売り物を喰らっているが、同時に日経平均もヘッジのためのショートと流動性確保のための現物売りが出る。結果として需給が崩れ株価は大きく下落せざるを得ないのだろう。
4)大幅戻しは秋以降!?
欧米では少なくともオミクロン株に対するスタンスは従来の新型コロナとは大きく異なっている。感染率は非常に高いけれど重症化率は非常に低いという、インフルエンザ化を確認するや経済重視の方向性を一層強めている。その先鋒が英国で、間もなくすべての規制を撤廃し正常化させると言われている。同様に米国でもオミクロン株以降は新型コロナは沈静化に向かうとの有識者の意見が多く、バイデン政権はオミクロン株の感染急拡大の成り行きを見守るという態度なのだ。
仮にそうなって新型コロナが急速に沈静化するとなれば、世界経済は急激に拡大を目指すことになる反面、サプライチェーンのボトルネックや半導体不足、エネ不足はますます助長されインフレの高止まりは避けられないことになる。
大きく株価が下落したところが買い場であるとしても、それは短期的な視点でのことで、その後は全く先行きが予想出来ない。FRBが巷間言われるように7月QT開始となると、夏場の急落は避けられそうにないが、秋以降は本格的に反転を模索する動きになるかもしれない。
ただしそうしたシナリオを米国投資家やウォール街が持っているとするならば、現在の株価暴落は想像以上により深くなるのではないか?
今後の株価動向
とにかく今言えることは、米国株はFRBが年4回利上げする、7月にQTを開始する、というシナリオで動いている。しかしインフレは1月、2月がピークなのではないか?とする意見が大分多くなってきた反面、毎月のFOMCで利上げする、というなかなか過激な意見も出始めている。と言うことは今までのようにFOMCが無事通過して買い優勢、という相場は、なかなか期待できないし、パウエル議長がハト派のニュアンスでコメントしたとしても年4回+アルファのシナリオが訂正されない限り、トレンドは変わらないと思う。
しかし個人的にはそれ以上に相場に影響を与えそうなのが、WTI原油価格なのではないかと思っている。巷ではロシアーウクライナの軍事的な衝突がありそう、とか産油国周辺のキナ臭い武力衝突がエスカレートするのでは、ということを根拠に原油価格が$100を超えてくるのではないか?と言われている。確かに、そうした地政学リスクは原油価格を一時的には押し上げるかもしれないけれど、WTI原油の値動きの基本はいまは米国長期金利との連動という側面も強い。
つまり原油がインフレのベンチマークとなりつつあるのだと思う。それに加えてロシアーウクライナ問題に関しても報道では確信を突いていないものが多すぎる。プーチンがウクライナに侵攻したい理由は言うまでもなくこのチャンスに世界におけるロシアの復権を賭けているからなのだ。
世界は・・・地球温暖化対策と称して温室効果ガスのほぼ強制的な制限を行いつつあるし、その手段として化石燃料の排斥を行いつつある。しかし、そうなってしまえばロシアは国家自体が(実質的に)滅ぶことになりかねない。ロシアの生命線を握るのは原油と天然ガスの輸出であって、化石燃料と軍事産業、宇宙産業以外に国家を支える産業がないのが現実である。
となれば、欧州に対して天然ガスを供給しているパイプラインの3分の2が広大なウクライナを通過している事実も考えると、可能な限り西欧側に領土を広げておきたいという思惑は理解できる。ドイツの新首相ショルツはロシアに対し「(ウクライナに侵攻したら)パイプラインを閉じる」と強弁したけれど、閉じて困るのは西欧側であることからして失笑を買った。
つまりプーチンの狙いは今のうちに化石燃料の価格を引き上げ、その莫大な利益で国家再建し、国際社会に復権したいのだろう。その意味ではOPECよりもOPECプラスの動向がより重要になってくる。そして彼らは原油を$100、$120と押し上げるだろうし、欧米のアナリストの1月、2月インフレピーク説を原油価格上昇が打ち破るかもしれない。
加えて中国では利下げを行って不動産バブル崩壊の後始末を、インフレと引き換えに行うことを選択した。これはつまり中国からの輸出品の価格上昇を意味するわけで、地政学リスクや原油価格と並んでこれも欧米のインフレを加速させる要素である。
となると、来週25日~26日のFOMCでFRBがどう判断するのか興味津々である。それによって株価のトレンドがある程度決まると思うからだ。個人的に予想すれば、コロナ後の上昇分を打ち消す日経平均¥24,000が一つの目途かもしれないと思っている。もちろん最悪の場合だが・・・。
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