ここから先の日米株式市場を考える 2
- 2022.05.14
- トレード雑感
週末の日本市場は△¥678の戻り、そして夜間で日経CFDがさらに米国株に連れ高する形で△¥202となり、都合¥880(△3.4%)の大幅な戻り相場となった。しかし、全体相場として株価を戻したという印象は薄く、戻りを牽引したのは日経平均寄与度の高い3銘柄の大幅上昇(寄与度:SBG¥115、東京エレクトロン¥105、ファストリ¥87)であり、¥678高のうち¥307を僅か3銘柄でのものだった。
日本市場の行方
日本企業の輸出相手国で最大なのは米国と中国で、2020年では中国22.1%、米国18.4%(2019年は米国19.8%、中国19.1%)であり、状況によって入れ替わりながらも両国で約40%ものシェアを占める。両国とも高水準のインフレに悩まされているけれど、加えて米国経済は金融引き締めで、中国経済はゼロコロナで景気はこれから大きく落ち込むと思われる。
従って円安を背景にした、日本の株式市場もまた、米国市場と連動するかのように下落してきたわけで、日本が輸入するエネルギーや穀物とうの原材料の高騰が、大きな影を落としているのは間違いないし、内需は海外インフレと円安のダブルパンチに見舞われて疲弊している。
日本市場の特殊性
それでも比較論で言えば、日本のインフレは日銀によれば2023年3月(今年度末)においても、1.9%程度を予想していて、欧米中と比較してもはるかに低水準で安定した物価を実現できるという。元来デフレの影響や人口構成の影響で内需は減少傾向であり、消費が高まることはないために、物価が上昇しないことがむしろ問題であると言えるわけだが・・・。
そんな中、日銀は従来からの金融緩和姿勢を今後も継続することや、日本国債10年物金利の0.250%指値オペを実施中で、欧米とは真逆の金融政策をとっている。米国が今後極めて厳しい金融引き締めを行い、また欧州も米国以上にインフレが深刻で、間もなくFRB同様の金融引き締めに移行すると言われているわけで、ここに金融政策の大きな乖離が生まれることになる。
その結果、ドル円は大きく円安方向に動いたわけだが、日銀はこれをプラスといい、最近では財務省は悪い円安と言って相反する姿勢を打ち出している。円安になれば輸出企業の業績は上向き株価は上昇するだろうが、内需はますます疲弊することも事実で、日本経済にとっては痛し痒しではある。
しかし、株式市場に限定してこれを当てはめると、どうなるのか?それが日本市場の行方を左右する大きな要素には違いない。
世界の中銀の中で日銀だけが真逆の金融政策を行うという特殊な状況を海外投資家がそのように受け止めるのか・・・そして海外勢の姿勢が一方向に偏るならば、日米連動という現状の株価の動きに変化がみられる可能性がある。
日本株の割安感
主力企業の3月決算が月曜で終了となるけれど、2022年3月期は新型コロナやロシアのウクライナ侵攻の影響も出始める中、最高益の更新が相次いだ。しかし、日経225銘柄の3月末時点でのEPSが¥2,091であったのに対し、先週末時点では¥2,077となり、数字だけを見ると今期予想は減益となっているわけだが、輸出企業やインフレメリット企業の場合には、昨年の利益水準がとんでもなく高かったことを考えると、僅かに減益、または横ばいを予想するのは前年度の好業績を明らかに肯定するものだろう。
なので、そもそもEPSの算出自体がちょっと実態にそぐわないものになっている可能性が高い。昨年指摘されたファストリや東京エレクトロンの日経平均におけるウエイトの問題や、投資会社となったSBGのウエイトも含めた日経平均株価が実態を反映していない可能性が高く、したがって今決算でSBGが日本企業最高益から赤字に転落してしまうと、EPS¥2,077はどれ程度毀損されたのか分らない。しかし、SBGを排除し日経224にしたならば、¥2,110は超えてくるはずである。
現に5月6日時点での日経225EPSは¥2,143だったのだ。ちなみに直近底値を付けた5月12日の日経平均PERは12.30、PBRは1.13で、これでも十分に割安であるけれど、その時のEPSは¥2,093であったが、日経平均株価が¥25,748でEPSが¥2,110、BPS¥22,786ならば、PER12.2、PBR1.13で、これは紛れもない底値圏であると従来の経験則では物語る。
日本企業の業績が悪化するケースも
しかしSBGの赤字転落は、海外の経済状況が悪化したときには、輸出企業にとって起こりうる問題でもあるということ。SBGの場合は株式市況が悪化したことで時価評価が大きく棄損したけれど、海外経済がリセッション入りした場合だって当然業績は悪化するよ。
そして輸出企業の追い風となってる円安も、日米の金利差に依存すると考えてしまうと、転換するとは考え辛いけれど、必ずしもそうとうは限らないことは過去の歴史が物語る。そもそも投資の側面では円安ドル買高の優位性は、円で調達した資金をドルに換えてさらなる円安を待つか、ドルで有効なリターンが期待できる運用をするかであって、先々悪化が見込まれる経済環境では、どちらも難しい選択になってしまう。そういう意味では円キャリーの需要はこれ以上増えないというところまで来ているのかもしれず、そうなると需給で円買いされる可能性も実は濃厚なのだと言うこともある。
さらには思った以上にインフレが長引き、予想以上に急激に輸出先の景気が悪化した場合、業績は確実に悪化する。なぜなら最高益ベースで終了した2021年度の実績との比較だからだ。半導体不足も現時点では最先端半導体の不足は解消されていて、不足している二世代、三世代前のものをメーカーが作りたがらないという事情を反映している。実はそのレベルの半導体の需要が突出して多いのが原因なのだ。
利幅の薄い三世代前の半導体を作りたがらないのは、業績が伸ばせないからで、また製造数を拡大するような投資は行いたくないという事情もある。半導体はそのレベルに合った設備でしか利益が出せない。TSMCは莫大な投資を続けているにも関わらず毎年着実に最高益を更新し続けているのは、そうした半導体をあまり生産しないからなのだ。
がしかし、そうした半導体不足も意外に早期に解消される可能性がある。メーカーは消費が落ち在庫が増えると、生産を抑えざるをえないからだ。そしてその状況はまさに日本の輸出企業の業績が落ちるという意味でもある。
日本株に資金が集中!?
極めて単純だけれども、もっとも基本的な株高要因とは、中銀の金融緩和の量であるという事。それが米国ではインフレを誘発してしまって金融引き締めに転じざるを得なくなった。だからこそ、米国市場は20%もの急落に直面した。しかし、日銀は「金融引き締めには転じない」と宣言しているわけで、この基本にのっとれば日本株の下落は限定的だと言える。そして事実、現在の日本市場は米国市場よりも強い動きをしているわけで、このことを根拠に日経平均は、PER13~13.5辺りまで戻す可能性は十分にあると思う。
5月13日時点での日経225EPSは¥2,077であるからPER13で¥27,001、PER13.5で¥28,039となる可能性だ。そこから先は日本株が相場になるか否かにかかっているので、現時点で単純に金融政策の違いから独歩高になるとは言えないだろう。なって見なければ分らない。
しかし、そうした目論見は日本株が輸出頼りで円安歓迎で、という条件を海外景気が悪化する中で維持できるのか?という疑問をはらむ。これも基本的なことだが海外の景気が悪化すれば、日経平均もダメなのだ。
なので、仮に日本株が独歩高するように買われるとすればそれは、ファンダメンタルズではなく、資金の需給要因が作り出す相場と言うことになる。
結局日本株の行方は?
米国の株式市場は金融引き締めを織り込めるのか?と言った議論から、今後は実体経済を見据える相場に、徐々に変換するのではないかと思う。したがって、FRBの金融引き締めの状況を一つのテーマにして上下する相場から、QTが始まると実際に資金がタイトになることが、どのように株式市場、債券市場に影響するのか、そして実際に影響が出てくると、次のフェーズを見越した動きになるといった、相場になるはずだ。
そして、FRBの金融引き締めの影響は、株式市場よりも債券市場に対して強く表れ、その結果に株式市場が引き摺られるのではないか?と思っている。そうなってくると、実際日本株投資どころの騒ぎではなくなってくることも確かだと思う。
もちろん一部の資金が集中して日本株を担ぎ上げるような動きも出るのかもしれないけれど、どの道長続きはしないと思う。
金融当局の金融緩和(通貨供給量の増大)に比例して上昇してきた株価という基本的な側面があるとすれば、金融引き締めの中で急落を買う、押し目を買う、という逆張りが正しいとは限らない。この先の不透明感が強い以上、個人的には買いの逆張りは非常に危険であると思っていて、まして底当てゲームをしても意味がないとさえ思う。
米国市場がそんな状況下にあるのだとすれば、日本株を買える条件がある程度揃うのを待つのがロングでの投資なのではないか。目先の材料では、ロシア問題がある程度片付く目途が立つ、とか中国のゼロコロナ政策が解除されるとか、日本株に有利な条件をじっくりと待つべき局面と思う。
現時点での日本市場を取り巻く環境は非常に複雑だ。日銀は金融政策を引き締め転換しないと言い、円安は進行していて輸出企業には有利な条件がある傍らで、米中経済の悪化という厳しい要因が口を開けている。そうした中で、日本株だけにある特別な要因を探し出し、上でも下でもそれに納得して賭けるしか投資家としての道はない。それが見つからないのであれば、ここは黙って見送る場面だと思う。
見方によっては上昇すると見えるし、下落するとも見える、微妙な立ち位置に日本株はあるからだ。
-
前の記事
ここから先の日米株式市場を考える 1 2022.05.14
-
次の記事
75日線でUターン!:5月16日(月)前場 2022.05.16