株・師匠(プロ)の教訓 8:(女房でも愛人でも)アゲマンもった投資家は無敵です
- 2019.06.16
- 師匠(プロ)の教訓
もちろん、師匠との会話は株式投資だけではなく、人間対人間の付き合いということで様々な話題に及びました。師匠は外見は矍鑠とした紳士なのですが、とにかくヘビースモーカーでショートホープを一日に6箱空けるほど。半日一緒にザラバを見ていると全身がタバコの匂いに覆われてしまいました。
またユーモアのセンスもあって、茶目っ気のある老人という感じでした。なので時として男同士の会話に至るわけです。
あるとき私が何かのきっかけで伊丹十三監督の「あげまん」という映画を思い出して師匠に質問したことがあります。
勝負師は験を担ぐ
株式投資はある意味では勝負事、所謂博打です。博打とは運を天に任せて勝負することであって、合理的に結果が予測することができない、という前提で定義されます。
ですから、勝負事をする人は「験(ゲン)を担ぐ」人が多いわけです。
それは勝負事の側面がある政治や事業などにも共通して言えることですね。
田中角栄はオールド・パー
あの田中角栄元首相が好んで飲んだウイスキーがオールド・パーであるというのは有名な話です。そこにはいかにも政治家らしい「験担ぎ」があったと言われています。
それはあのオールド・パーのボトルは、斜めに置いても倒れないように、ボトルの底面に角度がついている・・・。斜めに立ってしまうわけですね。
それをして角栄氏は、政治家として躓いても絶対に倒れない、という「験担ぎ」をしていたからだと言うことです。
ビル・ゲイツは蹄鉄
一方事業家の多くが実に様々な「験担ぎ」をしています。代表的な例で言えば、あのマイクロソフトの創業者であるビル・ゲイツは(馬の)蹄鉄をコレクションしていると言われています。
名馬の蹄鉄はもちろん、オブジェや置物といったものまで徹底して収集していたという話が有名です。
その理由は、西欧では馬の蹄鉄は幸運を引き寄せる、と言われているから。あの蹄鉄のU字の部分に幸運がたまるのだとか・・・。
事業家にして世界一の大富豪に登り詰めた人もまた、厳しいビジネスの世界を生き抜くためにしっかりと「験担ぎ」をしていたのですね。
アゲマンって本当にあると思いますか?
私は師匠に「験担ぎしてましたか?」と聞きました。
「大昔の話だけど、横井秀樹の担当になったばかりで、最初に銀座の事務所に挨拶に出向いたとき、事務所の部屋に絨毯が敷かれてね」
と昔を懐かしむようにショートホープを燻らしながら語ってくれました。
「その時、足元を見られてね、『君、そんな靴で入ってこないでくれよ』と言われて、サイズを聞かれると秘書に『そこのワシントンへ行って靴を買ってきてやりなさい』と命じたんですよ」
「それで?」
「当時の私は背広もヨレヨレだし、靴も多分古くなったのを履いてたんでしょうね」
「あの横井秀樹ですよね?ニュージャパンの?」
「そうですよ。それで20分位して秘書の方が紙袋を抱えて入ってきた。そして『君、履き変えたまえ。ペルシャの上物を汚されちゃかなわんよ』と言われたんですよ」
「それでいただいたんですか?」
「断れる雰囲気ではありませんでしたからね。以来、横井氏の仕手戦では連戦連勝で、その靴が脱げなくなってしまったのです」
師匠はその靴を20年間使ったそうです。常に履いていると持たないので、大きな勝負の時に下駄箱から出して気分を切り替えた。それも、立派な「験担ぎ」ですね。
その話に引き続いて少々躊躇いながら「師匠、アゲマンってあると思いますか?」と聞いてみました。
アゲマンは授かりもの
「アゲマンというのは授かりものなんですよ」
師匠は実際に経験した話を語り始めました。
「野村時代、私と同期にMという男がいたんです。妙に気があってね、でも酷い営業させられて3年くらいで女房に逃げられてね。何せ夜も帰らないですからね。帰ると酩酊だからね。新婚の女房も嫌になったんでしょう。きれいな人でしたけどね」
そう言うと奥様が運んでくれた珈琲をグイグイと飲んで、また煙草に火を付けたわけです。
「逃げられてから生活が荒れちゃってね。新橋あたりのバーに入り浸りになって。ところが半年くらいすると、『有坂、俺再婚したよ』と言われてアパートへ行ってみたわけです。すると、お世辞にも世間並みとも言えないガリガリの老けた女がいたんです。新橋のバーで手伝いをやってたらしいんですが」
「もしかして・・・?」
「Mの奴、それからどんどん出世してね、15年で常務に登りつめたんですよ」
「それはその女性が・・・?」
「本人、自慢してたから間違いないでしょう。それで、Mが常務になったとき『有坂、引っ張り上げるぞ』と言われて、『誰がお前なんかに!』と言う気分になってね。それが野村を飛び出した理由なんですよ。お恥ずかしいことですけど」
師匠は「アゲマンは絶対にありますよ。ただし探しても見つかるものじゃないんですね。あれは授かりものなんです」と言いました。
政治家や事業家はみんな「アゲマン」を探してた
恐らくどうして勝てるんだ?というくらい連戦連勝の投資家というのは実在すると師匠は語っていました。確かに勝負事でも、政治や事業であっても、登りつめるためには途方もない「運」が必要であることは間違いないです。
田中角栄は初当選した選挙を手伝ってくれた女性(越山会の女王・佐藤昭子)秘書にして以来選挙を勝ち続けた結果頂点に上り詰めました。
また政財界では新橋や神楽坂の芸子にアゲマンが多いということで、みなアゲマンを探して愛人にしていたらしいです。実際角栄も神楽坂の芸子を愛人にしていました。
運命の転機に傍にいた女性
私はアゲマンが原因で成功する、と言うよりも運命の転機に傍にいた女性を「アゲマン」と思って大事にした、と解釈しています。
しかし運命の転機が訪れるきっかけが女性の存在であることは、十分にあり得ます。
「ここだけの話、アゲマンと感じた女性がいたら、放さないでくださいよ」
「そんなこと言ってもいいんですか?」
「アゲマンをもった投資家は無敵ですから。私も文句なしに相乗りしますから」
そこに奥様が「お休みになったら」と言って紅茶を入れてきてくれました。私と師匠は思わず顔を見合わせ、噴き出してしまいました。
「私はダメでした」
「あなた、何がダメなの?」
「男同士、人生論を戦わせていたんだよ」
そう言ってまたショートホープに火をつけて、奥様をけむに巻きました。
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