雇用統計だけが良好な米国景気を考えてみる
- 2024.01.06
- トレード雑感
イエレン財務長官は、唐突に「今見られる状況はソフトランディングと表現できると考える。これが続くことを期待している」とCNNのインタビューで発言した。要するに雇用が堅調だから、今の状況が(米国経済の)ソフトランディング達成であると言っているのだ。
イエレンの根拠のすべては、「堅調な雇用」にある。もともと「効率賃金理論」なる論文を出しているように、雇用が良ければ(賃金水準が上昇すれば)企業業績も経済も付いてくる、というもので、その意味からすれば、今の米当局(米労働省労働統計局)が発表する雇用統計の内容が、イエレンの得意分野であり、ソフトランディングするということはある意味、効率賃金理論を裏付けることになるからだ。
けれども今の米国で堅調な経済指標はこの「雇用統計」だけ、と言っても過言ではなく、その他大半の指標は急激に悪化のプロセスに突入している。これは経済の常識ではあり得ない現象であって、マクロ的にも金利が高水準で高止まりしている状況では雇用は必ず悪化傾向になるはずだ。FRBもそれを目指しているわけで、そもそも2023年当初に言っていた「年度内に失業率4.2%」というには程遠い現状であるからして、利下げしたくても金縛りにあっている、と言える。
12月米国雇用統計
22:30 | (米) 12月 非農業部門雇用者数変化 [前月比] | 19.9万人 (17.3万人) |
17.0万人 | 21.6万人 | |
22:30 | (米) 12月 失業率 | 3.7% | 3.8% | 3.7% | |
22:30 | (米) 12月 平均時給 [前月比] | 0.4% | 0.3% | 0.4% | |
22:30 | (米) 12月 平均時給 [前年同月比] | 4.0% | 3.9% | 4.1% |
全米16万社の企業、40万人の個人への毎月12日から2週間程度の時間をかけて行う聞き取り調査、と言うのがこの調査で、過去に都度議論されてきたように、非農業部門雇用者数変化と失業率は、重複カウント(掛け持ち労働をカウント)しての結果となってしまう。前者は過大にカウントされ、後者は良好な数値を示してしまうことが指摘されているし、平均時給は短期労働(アルバイト等)が増えるほど良好に示される。つまり、現在の雇用統計は、米国の雇用実態と乖離している可能性が高いと指摘されている。
これに対して同日発表された12月ISM非製造業景況指数(総合)は予想52.6が発表値50.6と急激に悪化した。12月ISM製造業景況指数が47.4であることを考えると、すでに米国経済は悪化に突入している可能性が高い。ISMの調査方法は全米供給管理協会に登録している企業300社の購買担当者に対し、各質問に対し、1ヶ月前と比較して「良くなっている」、「同じ」、「悪くなっている」の三者択一の回答がなされ、その結果を集計して数値化しているもので、50が分岐点となる。
サンプル数も少なく曖昧な感覚論が混入しやすいとは指摘されるけれど、反面景気実態をダイレクトに反映するという評価もある。いずれにしても、「現場感覚」と言うのは侮れないと思う。
またしても昨夜、良好な雇用統計と相反する景気指標(ISM非製造業景況指数)が同時に発表され、投資家の意見は株価を見る限り、真っ二つに割れたと言える。雇用統計発表後に寄り付いた株式市場は大幅な上昇となったが、日本時間午前零時に発表されたISMによって急激に冷やされた。そして引け前(5:00AM)頃には三市場ともマイナスに突っ込み、引けにかけてショートカバーされかろうじてプラス圏で引けた。
同じように米国債10年物金利は4.101pまで上昇しISMで3.955pまで急降下し、最終的には4.050pで落ち着いたし、ドル円も¥145.97~¥143.80と激変し¥144.624で落ち着いた。
良好な雇用統計と悪化したISMという相反する調査を米国市場がどう解釈するかは、来週月曜の相場次第のような気がするし、日本市場は休場であっても、日経CFDの動きで十分に確認できる。と言うか、米国投資家も大いに迷っているんだろう。
迷ったときはチャートを再確認、と(師匠に)言われたけれど、三市場ともお世辞にも強いチャートとは言えないし、特にNASDAQは厳しい形をしてる。結局は不調が止まらないAPPLE株と中国販売の全EVをリコールすると伝わったテスラがどう動くかで決まりそうな感じもするけれどね。それにしてもAPPLEの先行き懸念は痛いね。
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